1,872 / 1,903
リクの作ったミスリルの矢
しおりを挟む「まぁおかげで、ヘルサル方面の魔物の集団はかなり減ったようだからな。こちらとしても手間が省けた部分がある」
ちなみに、ヴェンツェルさんをマルクスさんだけでは止める事ができず、もっと帰還が遅れると思っていたところ、空から周辺の哨戒中だった騎竜隊に発見される。
その騎竜隊から、王都周辺で起こっている魔物の集団が点在している状況や討伐情報などなどを聞いて、ようやくヴェンツェルさんは帰還を優先するようになったのだとか。
騎竜隊と会わなかったら、もっと遅れていたのかもしれないね。
「ともあれ、戻ってそうそう悪いが状況は動いている。二人共戻って来たばかりではあるが、報告が終わり次第……」
センテに行っていた兵士さん達に休息を与えつつ、ヴェンツェルさん達はすぐには休めない様子。
まぁ、将軍と大隊長だから仕方ないのかな。
ヴェンツェルさんは長距離を移動してきた疲れを見せず、頼もしく姉さんに頷いていた。
マルクスさんは……さすがに疲れが少し見えるかな? センテには先に援軍できていて王軍の指揮も含めて戦闘に参加したりと、続いているからね。
折を見てゆっくり休んで欲しいと思う。
「してリク、私に話があるようだが……この二人の報告は後で聞くとして、そちらを優先させよう」
「えっと、いいんですか?」
女王様モードで俺に声をかける姉さん。
ちょっとだけやりにくさを感じながら、ヴェンツェルさん達の方を窺う。
「なに、ヴェンツェル達の報告の多くはセンテに関する事が多いからな。リク達からも聞いている内容から大きな動きはないようだ。それなら、ここ最近ずっと忙しく動き回ってくれているリクの話の方が、優先度としては高いだろう」
「まぁ、そういう事なら……」
忙しく動いている中に、カーリンさんの調理道具作りに関してなどもあって、割と個人的な部分もあったんだけど……まぁそれもあって、爆発すると思われる不審な人物を発見したり、救助活動もすぐに取り掛かれたんだから、俺個人だけの事でもないのか。
ともかく、俺の話を先にという事なちょうどいい。
「ヴェンツェルさんとマルクスさん……特にマルクスさんですけど、戻って来てくれたのはいいタイミングだったと思います」
「私ですか?」
「む……?」
今から話そうとしている事に関して、マルクスさんも見ているからね。
当時の状況を知っているマルクスさんがいてくれるのはありがたい……俺一人じゃ、上手く伝わるように話せるかちょっと不安だったからね。
ヴェンツェルさんは……センテというかヘルサルに到着した時には既にヒュドラー討伐などが終わった後だったから、見ていないけど。
まぁ、センテやヘルサルで色々と話は聞いているだろう。
「センテで、魔物戦った時の話になるんですけど……最初のきっかけは、侯爵軍の兵士さん達と演習かな? ともかく……」
姉さんに土を固めた壁、耐久としては簡単には壊れない丈夫な物である事、そして、ヒュドラー戦で活躍したミスリルの矢と俺が勝手に呼んでいる、やたら固い土の塊に関しての話をする。
土の壁の方は、次善の一手で攻撃してようやく傷がつく程度で、センテに魔物が押し寄せてきた際、絶対的な防護壁として魔物を引き付けての猛攻を受けても、ほとんど崩れる事はなかったから、丈夫さは証明済み。
エルサのドジで、門が壊れたというアクシデントがあったけど、あの土の壁を防衛線として機能させた事によって、街中への侵入を阻止できたと言っても過言じゃないかもしれない。
そしてミスリルの矢……実際は矢というような形状ではなく、ちょっと尖った石ころみたいな物だけど。
ただ俺が作った時にやり過ぎて、魔力がかなりこもってしまったらしく、投げるだけで丈夫なはずの土の壁を大きく傷つけるなんて物騒な物になっちゃったんだよね。
兵士さんが次善の一手を使って全力で剣を振るっても、小さな傷をつけるくらいしかできないはずの物相手に。
ちなみに、クォンツァイタみたいに魔力をそのまま蓄積させるような事はないらしく、徐々に魔力が抜けてしまうため、時間が経てば経つほど硬さだけでなく威力も下がって行っていたらしい。
氷を溶かした後に見つかった物は多分凍っていたりなんだりの関係で、まだ使えたようだけど……実際に、アイシクルアイネウム相手に投げて使ったりしたみたいだ。
けど俺が王都に戻る前くらいには、魔力がほぼ完全に抜けて分解されて土に還っていた。
……ちゃんと自然に戻るなんて、エコだね。
なんてどうでもいい事は置いておいて……。
「とまぁそういうわけで、石を投げる……って単純に言えば、原始的な攻撃方法になるんですけど。でも、効果はセンテで確かに出しました。それは、マルクスさんも見ていると思います」
「はい。リク様、エルサ様の協力あってこそではありますが、魔法や弓矢を遠くから放つよりも、魔物への実害を与えていたのは間違いありません」
「ふむ、成る程な。多少は報告で聞いていたが、そこまでか」
「私も聞いておりましたが、実際にそれを行った兵士の話によると、魔法や弓矢などと違って狙いを定める、熟練させる必要もなく、それでいて確実に威力の高い一撃を与えたと」
実際に見ていたマルクスさんはいいとして、ヴェンツェルさんも加わってくれた。
どうやら、戦う場面にはいなくてもあの戦闘の際に石というか、俺の作ったミスリルの矢を投擲していた人から、話を聞いていたみたいだね。
まぁ、報告は必要だしマルクスさんより上の立場の人だから、聞いていて当然か。
「マルクスやヴェンツェルが言う程の成果を出せるのであれば、確かに魅力的だ。しかしミスリルの矢、か……なんだか、りっくんがやってたゲームのアイテムみたいね」
「んん!」
「っと。なんでもない、気にするな」
ボソッと、姉さんが小さく呟いたのが耳に入ったので、ちょっとわざとらしくなったけど咳払い。
ヴェンツェルさんはなんとなく察している部分もあるようだけど、さすがにマルクスさんの前でリラックスモードになるのは止めた方がいいと思う。
俺と同じく、姉さんの呟きが聞こえていたのか、隣に立っている宰相さんが目を細めているし。
「ま、まぁ、ミスリルの矢っていうのは適当に俺が呼んでいるだけなので、名称はなんでもいいんですけど……」
むしろ、ちょっと尖った魔法で固めた石を投げているだけで、弓すら使っていないので矢というのも憚られるかもしれないし。
他にどんな呼び方がいいか、と聞かれると首を傾げてしまうけど、わかりやすい何かがあるなら別にそっちでもいいと思う。
「その辺りは、別で考えるとしてだ。今は仮称としてミスリルの矢と呼んでおこう。話を聞く限り、石と呼ぶのもどうかと思う物のようだからな。して、そのミスリルの矢だが……センテでの戦果は報告できるか?」
姉さんとしては、不確実なものに許可を出すわけにはいかないための質問なんだろう。
やってみたけど、大した効果はありませんでした……じゃあ、示しがつかないとかもあるかもしれないし。
費用とかは、ほとんどかからないと思うけど。
でも……。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる