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対アクリスは実践訓練優先
しおりを挟む「そうですね。向かっている先は人が作る作物ですし。あの勢いだと、近くにある村にも行きそうですから。――それじゃえーっと、どうしようか?」
「それくらい自分で考えなさい、と言いたいところだけど……リクにとっては、あれくらいなら物の数ではないし、どちらが適しているかわからないのでしょうね」
リネルトさんに答えつつ、ララさんのところで買った複数の武器が入る鞄から三つの剣を取り出してロジーナに問いかけながら見せると、溜め息混じりにそう言われた。
白い剣と、鞘も含めて錆びてボロボロな剣が二つ……どれを使うかという問いかけだ。
緊急時で迅速に対処する必要がある場合は白い剣なんだけど、実戦訓練とするなら錆びた剣だ。
錆びた剣が二つあるのは、もし俺が失敗して剣を折ってしまった場合に備えた予備だったりする。
「錆びた方を使うの。今回は突進を受け止めたり、魔法を受けたりする事が予想されるの。その対処を実戦で学ぶの!」
「難しそうだけど……わかった」
「……今私が言おうとしたのに、なんでユノが言うのよ」
「ロジーナが文句を言っているからなの。遅いの」
「ま、まぁまぁ……」
口を尖らせるロジーナに、ふふんと鼻を鳴らすユノ。
途端に険悪な雰囲気が漂うのに対し、苦笑しながら宥める……相変わらず、ちょっとした事で張り合ってすぐ険悪になるなぁ。
と思えば、微妙に協力したりして仲が良さそうにも見えたりするし、表裏一体の存在というのはなんだか不思議だ。
ちなみにレッタさんは、口を尖らせたロジーナを見て息を荒くして目がちょっとだけ血走っていた……段々と変な方向の趣味に目覚め始めていないかな?
涎を垂らすまでには至っていないから、まだ末期ではなさそうだけど。
「どうでもいいけど、早くするのだわー」
「あぁ、ごめんごめん」
ちょっと拗ねたようなエルサの声に謝る。
おそらくエルサは、自分の背中でわちゃわちゃとやっているのに対し、疎外感を少しだけ感じたのかもしれない。
人が多い時などはあまり会話に参加しないくせに、意外と寂しがり屋だよなぁ……口に出したら、エルサに激しく文句を言われそうだから思うだけにしておくけど。
いや、強く思えば契約でエルサの方に記憶と一緒に流れてしまうから、意識をアクリスの方に向ける。
「……何か、不穏な事を考えられている気がするのだわ」
ほら、こんな風にね。
「き、気のせいだよエルサ。――それじゃ、この二つの剣を……よしっと」
エルサを誤魔化しつつ、錆びた剣二つをいつでも抜けるように左の腰に下げる。
白い剣は鞄に収めて背負った。
それからエルサに畑の近く……とはいっても、遠目に作物が見えるくらいの場所に降りてもらい、エルサの背中から降りる。
飛んでいるエルサの背中から飛び降りるのは、オーガの時に懲りたからね。
前もって地上に降りて迎え撃つ、もしくは魔物に向かって行く方が、実際は楽なのだと気づいた。
急いでとか緊急性が高い時とかは別かもしれないけど。
「リク、わかっているとは思うけど外の魔力を意識しながら戦いなさい」
「二足歩行と四足歩行の相手には、戦い方も違うの。そこをよく考えるの」
俺に続いて、ロジーナとユノがエルサから降りつつそう言われる。
レッタさんも同じくだ。
「わかった。まだ自信はないけど……昨日よりはできるようになっているからね。やってみる」
魔力探知と便宜上呼んでいるけど、俺自身の魔力だけでなく外側の魔力も意識して調べ、相手の動きなどを察知する事。
オーガの時はまだ初めてで慣れなかったけど、今日もこれまでで試して少しは慣れてきている。
戦闘中、的確に急所を調べるの難しくて十分とは言えないけど、それでもマシに放っているはずだし、訓練の一環だからね。
ちなみに魔力の感知範囲は探知魔法とは違って小さく、大体半径五、六メートルくらいだ。
俺を中心にしてというのは当然だけど、目で見る情報が優先されるからか、背後は少し狭くて歪な円形が感知範囲といったところだね。
ただ目を閉じて意識を溶け込ませると、完全な円形に近い形で調べる事はできるけど、オーガ戦のような囲まれてほぼ足を止めた状態でならともかく、俺から動いて戦うのには向かない。
うんまぁ、目で見る情報がない分色々おろそかになって、昼食前に戦った時にはつまづいてk論じゃったからね……あれは皆に見られていたから、恥ずかしかったなぁ。
「逃げる事がほとんどない、と先程は言いましたけどぉ、圧倒的なリク様を前にしてアクリスが逃げ出さないとは限りませんー。畑や村の方に打ち漏らしが逃げた場合はお任せ下さいねぇ」
最後にリネルトさんがエルサから降りて来ながら、もしものフォローを約束。
「はい、よろしくお願いします」
「まぁ、それくらいなら私達もやるわ。ただリクを見ているだけっていうのも、そろそろ飽きて来たし」
「頑張るのー!」
もしアクリスが逃げ出しても、リネルトさん達がフォローしてくれるのなら、畑や村に被害が出る心配はなさそうだ。
ユノとロジーナなら、畑側でなくとも散り散りに逃げ出したアクリスを追いかけて倒せそうだけど……まぁ俺の訓練でもあるし、できるだけ逃さないようには気を付けよう。
できるかはともかくとして。
「帝国の計画とまではいわないけれど、これが帝国の後始末とも言える事だから、私も多少は、ね」
そう言って、畑の向こう側にある村へと視線を向けるレッタさん。
復讐とロジーナ以外、あまり興味を持たないと思っていたけどそうではないのかもしれない。
元々、小さな村の出身らしいから、魔物に襲われそうなうえ帝国が関与しているだろう事から、思うところがあるのかもしれない。
多分だけど、復讐のための計画であるなら何を犠牲にしても構わないと思っているようではあっても、無関係でなんの罪もない人が巻き込まれるのを良しとしない、って事かも。
「エルサはひとっ飛びして、街の方の様子を見て来てくれ。緊急性は低いかもしれないけど、あっちに魔斧が言っていないとは限らないからね。……ふぅ」
「ドラゴン使いが荒いのだわぁ。仕方ないのだわぁ」
ぼやきながら街の方へと飛んでいくエルサを見送り、適当に屈伸などの準備運動をしてから剣を抜き、こちらへ向かって砂埃を巻き上げながら迫るアクリスの群れを見据える。
「よし、行くか!」
「行ってらっしゃいなのー」
ユノの暢気な言葉を背中に受けつつ、アクリスへと向かって走り出した。
「……近くで見ると、さらに大きく見えるなぁ。角のせいかな? まぁヒュドラーとかもっと大型の魔物を見ているから、そこまで驚きはないけどね。さて……んっ!」
アクリスの近くで止まり、観察。
その体の大きさに少しだけの驚きはあるけど、圧倒されたりはしない。
ヒュドラーの方がよっぽど大きかったし、それこそキュクロプスとかも見た事あるし、キマイラもアクリスより大きかったからね。
ともかく、そんなアクリスを睨みつけながら少し体に力を入れて魔力を放出した――。
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