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ヴェンツェルさん帰還途中

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 姉さんの話にあった、竜騎隊というのはワイバーン達と兵士さん達を組み合わせた部隊で、俺が本格的に協力をワイバーン達に頼み、今日もやったリーバーを筆頭にした空で戦う部隊だ。
 元々の輸送なども考えられているけど、戦う方にも組み込むように考え、そして部隊名で兵士さん達の中で評判の高かった竜騎隊で承認されたらしい。
 ……最初に俺が言った騎竜隊はあまり評判良くなかったらしいけど、ただ入れ替えただけでどこがどう違うんだろう?
 と疑問に思ったけど、竜というワイバーンを示す言葉が前に来るのが重要だったらしい。

 ワイバーンに乗って活躍する部隊というだけでなく、部隊の主役は俺が従えて協力してくれるワイバーンだ、というのを示すためだとか。
 ワイバーンが主役だというのが重要らしい……。
 それはともかく。

「計画的か行き当たりばったりかはわからないけど、帝国の仕掛けた魔物で被害がこれ以上出るのは避けたいけど……」
「そうね。りっくんの決意表明にも反する事になっちゃうし、できる限りなんとかしたいわ」

 本当にできるかはともかく、戦争では帝国を圧倒してこちらの被害を少なくするとは考えている。
 それは、拡大して考えれば戦争になっていない現在も、特に兵士さんや冒険者さんでもない人達に被害を出さない事とも取れるし、俺としてもそれでいいと思う。

「あと、今りっくんのおかげで王都では皆の士気が上がっている状態よ。それを、魔物による被害が出れば多かれ少なかれ士気にかかわってしまう可能性があるわね。ヴェンツェルが早く戻って来てくれれば、対処も可能なんだけど……」

 王軍の数が足りていないというわけではなく、指揮する人がいないという問題なんだろうと思う。
 軍のトップである将軍のヴェンツェルさんがいないうえ、その副官でもあり情報部隊長であるハーロルトさんまでいない状態だからね。
 それですぐに軍が機能しなくなるってわけじゃないだろうけど、士気が高まっていても精彩に欠く状態になってしまっている、のかもしれない。

「ヴェンツェルさんだけなら、エルサに乗ってすぐに迎えに行く事もできるけど……」
「いえ、今頃はもうこちらに向かって移動しているはずよ。多くの兵を連れている関係上、ヴェンツェルだけを連れ戻すわけにもね……りっくんはこれまで通り、魔物の集団討伐をしてもらった方が、結果的に被害が少なくて済むと思うわ」
「成る程……わかった。それじゃあ明日からもまた、魔物討伐に精を出す事にするよ」
「お願いするわ。ヴェンツェルには急ぐよう、こちらからも伝令を差し向けているけど……戻る途中で状況はある程度把握して、急いでくれると思っているしね」
「確かに、ヘルサルからなら南東方面からだろうし、そちらにも結構な魔物の集団はいるからね。途中で遭遇している可能性は高いか。地図で直線状でなら俺達がエルサに乗って発見次第倒したけど、地上を移動するならそんなわけにいかないし」

 ヘルサルと王都の間には、川もあれば池もあるし、山とまではいわなくとも丘はある。
 それらを迂回なり越えるなりしていれば、直線で移動できる空とは違うのは当然だろうね。
 まぁともあれ魔物の集団と言っても、これまでにあった種族ごちゃまぜの大量発生ではなく、数十くらいの数だからヴェンツェルさんが帰還中に遭遇しても問題ないだろう。

 それにマルクスさんもいるだろうし、センテへの援軍は合計二千にも及ぶ。
 センテに残す王軍兵士さんもいるだろうけど、それで千人を軽く超える数が大移動中だから、数十の魔物と遭遇しても数で圧倒できるだろうし。

「問題は、魔物と遭遇したら当然移動が遅くなる事よね……あと、伝令が移動中のヴェンツェルと合流できるか……まぁ、心配ばかりしていても仕方ないわ。最悪の想定は施政者としてしていなくてはいけないけど、上手くいく事を願うくらいはしてもいいわよね」
「うん。けど……」

 何かを願うとするなら、大抵は神様にだろう。
 そしてこの場にいるというか、この世界の神様と言えばユノとロジーナだ。
 アルセイス様とか獣人の神様もいるみたいだけど、身近というか一番に思いつくのはこっちだろう。
 ロジーナは破壊神だから、無事やらなにやらを願うには適していないだろうと考えれば、もう片方のユノに絞られるわけだけど、そのユノは今……。

「まぁその……願う先がそこでエルサと一緒にお腹いっぱいになって、幸せそうに寝ているユノだけどね……」
「あー……ま、まぁ、可愛くていいじゃない」

 姉さん、ユノを見て色々と諦めたっぽい。
 見た目相応の可愛らしい女の子、という感じで悪いわけではないんだけど……願いを叶えてくれるような存在には見えないよね。
 そもそも、ユノが人の願いを受け取って叶えてくれる存在なのかはわからないけど。
 ともあれ、そうして魔物集団という脅威が広がり始めていても王城の一室は、平和で穏やかな空気が流れながら、夜が更けて行った。

 ……明日の魔物討伐は、ヴェンツェルさん援護のため南東方面の魔物も探してみようかな。
 範囲を広げて、村や街の近くにいる魔物を探す方がどうしても優先ではあるけども――。


 ――翌日、朝起きて朝食を頂きながら、王都周辺の地図を見せてもらって周辺の村や街の位置を把握。
 俺だけでなくモニカさん達も一緒に見て、ちゃんと記憶したから多分大丈夫だ。
 多分というのは、実際に動くエルサがキューに夢中であまり地図を見ていなかったからだけど……まぁ背中に乗っている俺達で方角などを指示すればなんとかなるだろう。
 それから、周辺の村や街が危険な可能性があり、切羽詰まっている事もあって昼までのエアラハールさんによる訓練は短縮。

 昼食は携帯食を用意してもらって外で食べる予定だ。
 ただ、訓練が短縮されたのは時間だけで、その内容は全然短縮されていない……というか、密度がさらに濃くなって厳しくなっていた……。

「ぜぇ、はぁ……! ふぅ……!」

 もうこのままお風呂に入って寝てしまいたい、と思うくらいの全身への疲労としたたり落ちる汗を感じながら、乱れに乱れた呼吸を膝に手を突きながら整えるよう必死になる。
 他方では、アマリーラさんとリネルトさんが珍しく汗を流しながら、訓練場の床に転がっているモニカさん、ソフィー、フィネさんの三人に檄を飛ばしているようだった。
 俺はなんとか倒れ込まなくて済んでいるけど、あちらはまた別の訓練であってもかなり厳しかったらしく、立つどころか座る事もできず、倒れ込んでいるみたいだね。
 ……大丈夫かな? まぁ、大きな怪我とかはしないように気を付けているとは思うけど。

「ひょっひょっひょ。強度を最大限まで上げたが、訓練そのものを短くするために密度を濃くしたのを、倒れ込まずに立っていられるのは、リクが初めてじゃのう」
「強度を上げるって、そういう事だったんですね……」

 俺がオーガと戦う際、エアラハールさんから課せられた訓練と制限。
 それは及第点という評価ではあったけど、できが良いとは言えなかったので結局強度を上げる、と言っていた宣言通りに実行したって事だろう。
 俺だけでなく、モニカさん達もだけど――。


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