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アマリーラ式射出法

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「よし……それじゃモニカさん達も頑張って!」
「えぇ。リクさん達も!」

 まず村の南にエルサで移動。
 現状はまだオークの方が村に近く、その付近に南対処班がエルサから降りて準備だ。
 モニカさん達はそのままエルサに乗って、北の森へ移動を開始。
 それを見送りつつ、オークのいる方へ目を向ける。

「エルサで目立ったからか、オーク達は完全にこちらへと標的を定めたみたいだね」
「はい。あの程度のオーク達、簡単に蹴散らせはしますが……」
「まだ駄目なの。オークを弾き飛ばせるとは言っても、デュラホースの勢いは落ちるはずなの。そこがねらい目なの」
「混戦になるでしょうけど、ここにいるのはその程度なんとでもできるのばかりだしね」
「私は、リクなどに比べれば一般人と言いたいところですが……ロジーナ様の期待には応えて見せます。正直、村一つがどうなろうと知ったこっちゃないのですけどね」
「それは私も同じよ。でも、さすがにデュラホースは見逃せないわ。あれは私の汚点よ。できるだけ潰しておきたいの。ここだけで駆逐できるわけではないけど」

 破壊神にも、間違いという事があるらしい。
 本当にお酒を飲んでいたのかは知らないし、神様でも酔うのかはわからないけど、それに近い状態で考えて創った魔物らしいから、見つけたら排除しておきたいんだろう。
 過去の汚点というか、過ちというか……ロジーナにとっては、デュラホースを見るのはその過ちを目の前に突き付けられているような気分、なのかもしれない。
 勝手な想像だけどね。

「ロジーナ様の御心のままに……ではまずは私から……」

 そう言って、恭しくロジーナに礼をした後のレッタさんが、オークの方へと向かって両手を広げる。
 その両手からぼんやりと、薄赤い光がゆっくりと伸びて行き、こちらへと向かうオーク達へと到達。
 次の瞬間、オーク達が何やら混乱するような、戸惑うような雰囲気を出しつつ足が止まる。
 魔力誘導によって、オーク達の足を止めたんだろう。

 こちらを標的と定めて、興奮状態に近くなっているから完全には止まっていないけど、集団だからこそ一部が混乱すればその足はかなり遅くなる。
 元々足の遅いオークが、さらに鈍化し、ほとんどこちらへ向かってくる様子は見られなくなった。

「あとはデュラホースが到着するのを……来た!」

 オーク達の向こう側。
 その姿はオークが視界を遮っているため見えないけど、高く煙のような砂埃を上げてこちらへ、オークの集団へと迫る何かが見えた。
 おそらく複数のデュラホースが全力で走っているためだろう。

「いつでも来なさい……!」

 ガンッ! と音を立てて体の大きさに不釣り合いな大剣を地面に突き刺すアマリーラさん。
 いや、もう見慣れているから、小柄な体に二メートルを越える大剣の組み合わせは、これで合っているとすら思うくらいだね。

「私が先陣、一番手なの! こちらから見て、右方面に飛ばすの!」
「了解しました! では……」

 ユノが意気込みながらアマリーラさんの前に立つ。
 頷きながら、アマリーラさんが大剣を地面に対して水平に持ち、剣の腹を上に向ける。
 さらにその上へとユノが乗っかって……。

「行きますよぉ……せやぁっ!!」
「音速の壁を越えるのぉぉぉぉぉぉ……!!」

 裂帛の気合と共に、剣を水平にしたまま後ろに引き……ユノの体重移動と共に角度を変え、思いっきり横薙ぎに振り抜く。
 その勢いを味方に付け、ユノがオーク達へと向かって射出された。
 それはいいけど、音速のかべはさすがに越えられないと思うよユノ……あと越えたら、いくらユノでも無事じゃすまないと思う。

「おー、ものすごい勢いで飛んで行ったなぁ……ユノなら大丈夫だと思うけど、ちょっと早かったかな?」
「これが、ヒュドラーと戦う際にやった事だけども、元々巨大なヒュドラーの首や顔に攻撃を加えるためだったのよね。でも、早くはないわ」

 まだデュラホースは砂埃を巻き上げているのが見えるだけで、オークとぶつかっていないのにユノが飛んで行くのは早すぎだと思ったら……。
 続いて準備をしているロジーナの言葉と共に、オークの集団の向こう側、というかこちらから見てオーク達の最後尾で何体かのオークが打ち上げられた。
 デュラホースに弾き飛ばされたであろうオーク、さらに続いてその空を舞うオークの位置が段々と先頭、つまり俺達の方へと近付いてくる。
 そしてオークが飛ばされ始めたとほぼ同時に、凄まじい速度で飛んで行ったユノが、オークの集団の右端……正確には、少しオークと離れた場所へと着地した。

 ……若干、ユノが着地した地面が抉れているように見えるのは、気のせいじゃないんだろう。
 とんでもないな……。
 まぁ、俺もいずれやる事になるんだけど。

「次は私ね。私はユノとは逆に頼むわ」
「ロジーナ様、ご武運を!」
「アイアイサー!!」

 ユノに続けとばかりに、今度はロジーナがアマリーラさんの大剣に乗る。
 それを見るレッタさんが敬礼し、再びアマリーラさんがノリで叫びつつロジーナの乗る大剣を引いて……。

「サーじゃなくて、私に対してはマムと言いなさぁぁぁぁぁ……」

 ドップラー効果よろしく、ユノと同じように遠退く声を響かせてロジーナが射出された。
 サーは男性に対してで、女性に対してはマムだったっけ……。
 ユノとロジーナ、体重が軽くアマリーラさんより小柄なため、大剣を振り抜く力を利用した射出法だ……まぁ早い話が、ユノがデュラホースの対処として考えた方法がこれ。
 とはいえ、開戦時にやる必要はなく、本来はまた後でとなるはずだったんだけど、楽しそうという意見のもと実行された。

 ……まぁ、魔物と戦う事自体は特に苦労もしそうにないユノ達なので、ちょっとくらいは楽しさを優先してもいいのかもしれない。
 村の人たちに被害が出なければ、なんだっていいような気がするしね。

「では次は……」

 ユノとロジーナを射出させた装置……もといアマリーラさんが俺へと振り返り、神妙な表情になる。
 だけど……。

「いや、俺はこのまま走ってオークの所に行きますよ。アマリーラさんの手を借りるのは、また後で」
「そ、そうですか……」

 尻尾と耳を垂れさせるアマリーラさん……やりたかったのか。
 まだデュラホースと接敵する直前だから必要ないし、ユノの提案で計画された射出法が必要なのは、本来この後だからね。
 まずは走ってオークと、そして迫るデュラホースに攻撃を加えてからの話だ。

 結局、俺もユノ達程軽量じゃないため少し工夫して形を変える予定だけど、やらないといけないだろうというのは、ほぼ間違いないんだよなぁ……はぁ。
 あんな速度、レーシングカーが直線を突き抜けるような速度で射出されるのは、できれば勘弁願いたいんだけど、仕方ないか。

「じゃあ、レッタさんもよろしくお願いしますね。アマリーラさんは、予定通りに」

 レッタさんとアマリーラさんに声をかけつつ、剣を抜いて前に出る。
 ユノもロジーナも戦闘開始したみたいだし、今度は俺の番だね――。


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