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オーガでの実戦訓練終了

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「これまでは、ただ相手を倒す事ばかり先行したやり方だったけど……今回の訓練はそれが真意じゃなさそうだね」

 何もせず、ただ避け続けて時間を稼ぐのはどうかと思うけど、無理に力任せになりきらず、戦い続けてモニカさん達の到着を待つ。
 これはそういう訓練なんだと理解した。

「っ! すぅ……ふぅ……」

 時折攻撃が掠り、感じる鋭い痛みや衝撃は深く呼吸をして無視する。
 集中が途切れないよう、意識へと深く深く入り込んでただひたすら、魔力の揺らぎや動きに従ってこちらも動く。
 自分の魔力と、相手の魔力が合わさらないようにすれば、避けられるのがなんとなくわかる……それが全てじゃないけど。
 戦う相手が、オーガで良かった。

 これがもし、魔法を使う魔物だったら周辺の魔力、おぼろげな幕はもっと乱されてしまい、おそらく俺が感覚を掴んでも簡単に避けられる程の感知はできなかっただろうから。
 まぁ相手が魔法を使わないオーガだとわかたからこそ、エアラハールさんとユノは俺にこんな訓練を課したんだとは思うけどね。
 そうして、避けて時折掠って、なんとか直撃はしないよう細心の注意を払って、剣が折れないようにこちらも細心の注意を払って、思いっきり加減をして浅く斬り付ける。

 相手を打ち倒す事よりも、まず避けてからの動作を考えるを繰り返した。
 そうこうしていると、少し離れた場所からオーガの叫び声らしきものと、人の声、戦う音が聞こえて来る……。

「ソフィーは正面! フィネさんは右を! 私が左! 絶対近づけさせない!」
「はぁっ!」
「せいやぁ!」

 どうやら、モニカさん達が戦いつつ、オーガを打ち倒しながら近付いてきてくれたようだ。
 こちらに皆が近付くにつれて、俺の周囲にいたオーガの攻撃が緩む。
 どちらに向かえばいいのかなど、迷っているんだろう……それでもやっぱり、一番近くにいる俺に向かって攻撃を繰り出すのは、まず目の前の敵をと考えているのか、本能で動いているからなのかはわからないが。

「……っとと。危ない危ない。ホッとしている場合じゃないね、集中しておかないと」

 緩んだとはいえ、まだモニカさん達がすぐ近くというわけではなく、俺がオーガに囲まれている状況は変わらない。
 当然、前後左右様々な角度からの攻撃が来るわけで、まだ不慣れだからだろう、少し俺自身の集中も緩んでしまって危うく直撃しそうになった。
 モニカさん達の……いや、モニカさんの声を聞いて安心し緊張が少し緩んでしまったのも合うのかもしれないが。
 ともあれ、開きかけた目をさらに強く閉じて意識を集中させる。

「あぁ、もしかするとこれがモニカさん達の魔力なのかな……」

 オーガとも違う、空気中に漂っているのとも違う、どこか温かい気がする魔力のような何かを、遠くに感じる事ができた。
 距離が離れているからか、ほんの少し、ちょっとでも意識を逸らすと消えかねないくらいだけど。
 温かく感じ、集中の妨げという程ではないけどどこか感じれば感じる程安心する気持ちが湧いて来るのは、それがオーガなどの魔物特有の荒々しさがないからだろうか。
 それとも、モニカさん達仲間のものだとわかっているからだろうか――。


「ふぅ……とりあえずオーガは倒したね」
「そうね。お疲れ様、リクさん」
「モニカさんも、それにソフィーやフィネさんもお疲れ様」
「あぁ」

 正確な数は数えていなかったけど、三十体以上のオーガ全てを討伐し、息を吐く。
 モニカさん達が近付いてきたことがわかってからは、ただひたすら避けつつ小さな傷を負わせることに集中し、体感で数分程度でモニカさん達が到着。
 そこからは、四人で協力してあっという間にオーガを倒したってわけだ。
 合流したモニカさんに言われたんだけど、俺がオーガの集団に飛び込んだ後エアラハールさんから、合流を終えたら剣にこだわらず、加減にさえ気を付ければ存分に戦って力を振るえと伝えるよう二との事だったらしい。

 要は、俺がモニカさん達が合流するまでどれだけ耐えられるか、それと同時にモニカさん達が俺と合流するのにどれだけかかるか、を見るための訓練でもあったんだろうと思う。
 ともあれ、剣にこだわらなくていいと言われた俺は、錆びた剣を鞘に納めて素手でオーガを倒して行ったってわけだね。
 しかも、モニカさんが一歩引いた場所で俺だけでなくソフィーやフィネさんに対して、的確に指示をしてくれるからただ戦いやすく、すぐに終わった。
 もうなんだろう、訓練にならないと言われればそれまでだけど、最初から四人で戦っていれば凄く簡単に終わったんじゃないかと思う程に楽だった。

 モニカさんの指示もそうだけど、ソフィーやフィネさんも俺が動きやすいように戦ってくれていたように思うし。
 存分に暴れられたよね……これまで否応なく攻撃されて耐えていた鬱憤を晴らすように。
 まぁ、そのせいで周辺は斬られたり魔法で焼かれたオーガの残骸だけでなく、破裂したオーガが散らばっていて、絶対子供には見せられないよ! な光景になっているんだけども。

「それじゃエルサを呼んで……つぅ……!」

 空を飛んでいるエルサに終わった事を報せるため、手を挙げようとするとオーガから受けた傷が痛んで顔をしかめてしまった。
 集中して、緊張が切れたからだろう、体のあちこちが痛む。

「リクさん、大丈夫!?」
「まぁちょっと怪我をしたから、傷んだだけだよ。酷い怪我じゃないから、大丈夫」

 心配そうに寄り添ってくれるモニカさんに笑って答える。
 多少血が出ているけど、それだけで余り酷い怪我という程ではないからね。
 ちょっと切れたり、打撲になったりしているくらいだし……何度も頭を殴られたけど、そちらはもう痛みもなく支障はない。

「珍しいな、リクが怪我をするのは。いや、私が見る限りでは初めてか?」
「うーん、ルジナウムで戦った時に魔力が切れかけて、怪我をしたけど。それくらいだったかな?」

 ソフィーはその時、ブハギムノングにいたから俺が怪我をしたところを見ていないか。
 他では怪我をした覚えは……多分ないと思う。

「とりあえず、応急処置だけでもしておきましょう」
「そうね。私がやるわ」
「放っておいても大丈夫だと思うけど……うん、ありがとう」

 まだ動かしたときに血が滲む程度ではあるけど、フィネさんの提案でモニカさんが傷の手当てをしてくれる。
 二の腕とかにも傷があるから、自分ではやりにくいんだよね……怪我の具合としては、放っておいても大丈夫だけど。
 でも、もし化膿したりしちゃいけないと思い直し、モニカさんにお礼を言って任せる事にした。

「お疲れ様なの」

 そうこうしているうちに、戦闘が終わったと気付いたらしいエルサが地上に降り、その背中からユノが飛び降りて来た。
 エアラハールさんやアマリーラさんも、同じくエルサから降りてきている。
 ロジーナやレッタさんもいるけど、俺達の事よりもただひたすらロジーナを撫でまわしているレッタさんを、ロジーナがうっとおしそうにしているだけで、特にこちらに対して何かある様子はなさそうだ――。


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