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殴り殴られ泥仕合

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「とりあえず、今のは後でエアラハールさんに許してもらうとして……このくらいかな?」

 オーガを見据えながら、自分を中心に地面に円を描く。
 円の中心から外まで大体散歩程度の半径……まぁこんなものだろう。

「この円から出ないように戦う訓練って事で……さぁ、来い!」

 円は目印で、エアラハールさんから課せられて訓練の制限。
 それをわかりやすくしたものだ。
 さっきの場所だと、オーガの残骸やら液体やらが散らかっていて目印なんて付けられなかったからね。
 なんて考えながら周囲のオーガに向けて剣を構えなおす。

「っ!? つぅ……痛いじゃない、かぁ!」
「GYAGYA!」

 突然、後頭部に強い痛みと衝撃。
 後ろにいたオーガが殴りつけて来たらしい。
 痛みに耐え、涙目になるのを堪えながら振り向きざまに蹴り飛ばす。
 巨体を回転させながら、他のオーガも巻き込んで飛んでいった。

 うーん、さすがにオーガとの距離が近すぎるし、三百六十度全て囲まれているからかなり厳しいね。
 ゴブリンの時も似たような状況だったけど、あの時は動き回れたしそもそもゴブリンが俺より背が小さかったのも大きい。
 オーガは二メートルは優に超える巨体で、大きい個体だと三メートル近くもある。
 そのため、基本的に振り下ろす系の攻撃は頭上から来るから認識しずらいのが厄介だ。

「っとぉ! そうやすやすと当たらない……ってぇ?! いつつ……やすやすと当たっちゃうなぁ」

 横からフックの要領で俺の顔面目掛けて殴りつけて来るオーガの腕を、しゃがんで避け、反撃しようとした瞬間、逆方向からきた別のオーガによる攻撃をまともに受けてしまう。
 左肩を殴られて強い痛みを感じけど、弾き飛ばされないよう足を踏ん張って殴ってきたオーガを睨む。

「このぉ!」

 殴られた恨み、とばかりに錆びた剣を振るい、さらに別方向から殴りかかろうとして来ていたオーガの腕を斬り落と……せなかった!

「魔力を通しているのに、やっぱり切れ味が悪っ……いたた……」

 オーガの腕半ばで剣が止まり、棒立ちになる俺に別のオーガからの攻撃がぶち当たる。
 魔力を通していて、丈夫にはなっているし錆びた剣にしては切れ味もそれなりに高まっているんだろうけど……いつものような戦い方をしてちゃ、オーガの的になるだけだねこれは。
 しかも、今の攻撃を受けた衝撃のついでに、剣が抜けたけど……ちょっとだけ刃が欠けてしまった。
 今すぐ折れる程ではないけど、もっと慎重に扱わないとすぐに折れてしまいそうだ。

「斬れないのなら……っ! つぅ!」

 斬り割けないのならと、体ごと殴りかかって来たオーガの攻撃を上体を逸らして避けつつ、胸辺りに剣を突き込む。
 さらに剣を抜くついでに、オーガの体を蹴り飛ばし周囲のオーガも巻き込む。
 斬るよりも、突く方が効率が良さそうだね……と考えるとともに次へと備えようとした瞬間、再び後頭部に鋭い痛みと衝撃。
 少し考える暇もないな……。

 しかも、蹴り飛ばしたり剣を突き込んだオーガも、後頭部の痛みで星が舞っている視界の隅で、立ち上がっているようだし。
 斬り割けないから、急所……心臓とかを狙わないと、確実に倒すのは難しいかぁ。
 オーガの心臓、人間と場所が違うらしいしどこにいあるのかわからないけど。
 タフな相手って、こうやって戦ってみると結構難しいんだね。

「ぐっ! つっ! こなくそぉ!」

 地面に自分で描いた円から出ないよう、動きを制限されているうえ殴り飛ばされてはみ出ないようにも気を付けながら、オーガからの攻撃に耐え、やり返す。
 半ばやけくそになって殴り飛ばしたら、そのオーガが破裂して吹っ飛んでいった。
 そういえば、剣を使わなくても素手でこういう事もできたんだっけ……。
 ただ、これは多分減点対象だろうなぁと思う。

 エアラハールさんは剣を使って、と言っていたからね。
 なので、ちょっと反省して殴ったり蹴ったりするのは最小限にとどめ、できるだけ剣を使うように戦う。
 もう何発……何十発もの攻撃を受けたかわからないくらいだけど、剣を突き刺し、折れないよう気を付けながら斬り付け、着地した時と拳で破裂させたのを除いて、なんとか三体程のオーガを倒せた。
 けど、元々三十体以上いるオーガの集団、その中心にいるのだから囲みが緩くなったり、数が減った気はしない。

 幸いと言えるのか、待っていても勝手に襲い掛かって来ると予想した通り、仲間がやられてもオーガは怯む事なくこちらに突っ込んできてくれるのは、少し助かっているかな。
 円から出ない以上、こちらから向かう事がほぼできないんだから。

「剣魔空斬が使えたならなぁ……っつ! くっそぉ!」

 一人で呟く余裕もなく、何度もオーガに殴りつけられる。
 場合によっては、そこらに落ちていた物なんだろう……太い木の枝というか、木の幹のようなこん棒とも言える物を持っているのもいて、それで殴られる。
 素手よりよっぽど痛いんだけど、まぁそれは当たればそのこん棒が壊れるから一度耐えれば同じ個体からの次はない。
 まぁ、こん棒が壊れるってオーガの膂力への驚きよりも、頭に当たっても痛いだけで済む俺の石頭具合に驚いてしまうけど。

 ちなみに剣魔空斬だけど、使用はエアラハールさんに禁止されている。
 あれを使えれば、動ける範囲が限られているとか関係なしに楽なんだけど、訓練にならないからね。
 あと、威力というか切れ味などは使っている剣に依存するらしく、錆びている剣だと思ったような効果はなさそうなのと、味方が近くにいる場合は巻き込む危険があったりもするし。

「ぐっ! はぁ! せ……ぐぬぁ! こんのぉ!」

 殴り、殴られ、剣で突き刺し、ちょっとした隙にまた殴られ、それの繰り返しでさらに二体程のオーガを倒せた。
 タフだから、何度も剣を深く突き込まないと倒せないのは、やっぱりきついなぁ。
 あと、さすがに何度も殴られているからだろう、体の複数個所で血が滲み始めている。
 このまま長引いて、血が失われて行けばオーガを倒し切るよりも俺が倒れる方が早いかも……。

「GYAGIー!!」
「っ!?」

 そんな事を考えつつ、血が滲んでいる箇所を庇いながら戦っていると、遠くからオーガの物と思われる声が響いた。
 俺の近くじゃない……どころか、かなり離れた場所だ。
 手段の外側、つまりようやくモニカさん達が戦闘を開始したのだと思われる。
 オーガが立ちふさがっていて見えないため、予想でしかないけど。

「オーガの攻撃をほとんど避けられていないから、エアラハールさんの訓練強度とやらが上がるのはほぼ確定だとして、とりあえずしばらく耐えればモニカさん達が来てくれそうだね……っとぉ! ぐっ!」

 油断したわけじゃないと思うけど、モニカさん達が来てくれると考えて緊張が緩んだのかもしれない。
 再び殴られる後頭部の痛みに耐え、歯を食いしばる。
 意識が飛ぶほどの衝撃だとか、痛みじゃないのは魔力のおかげであって、それでなんとかなっているけど……やっぱり痛い物は痛いねまったく……!

 って、魔力といえば……?
 頭の中でひらめいた、という程の事じゃないけど抜け落ちていた記憶を拾い上げる感覚がした――。


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