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ダイナミック突撃

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「リク、一つだけ助言しておくの」
「ん、ユノ?」

 エルサの背中を移動し、男の一部が震えあがって縮みそうな高さを実感しつつ、地上にいるオーガの様子見をしていると、後ろからユノに声をかけられた。

「魔力を意識するの」
「それは、前にゴブリンの集団と戦った時に、ロジーナから言われたから今回もするつもりだけど……」
「リクがリクの魔力を意識するのは、内側なの。だから今度は、外側の魔力を意識するの」
「外側?」
「リクは普段、分厚くて異常な魔力に覆われているから、無意識にも外側の魔力が感じづらいの。だけどそうする事で、今回の訓練も少しは簡単になるの」
「簡単にって事は、オーガの攻撃を避けやすくなるとかかな? うーん……まぁ、よくわからない部分も多いけどやってみるよ」
「頑張るのー」

 フリフリと手を振って、暢気な応援の声を出すユノ。
 これからオーガの集団に突撃する俺に対する応援としては、正しいとは思えなかったけど……まぁいくら制限があっても大丈夫、と思っている信頼の証だと思っておこう。
 あと、最近は言われ慣れて来ていて、さらに話が気になって聞き流したけど、またユノに異常な魔力って言われてしまった。
 創造神にまで異常と言われる魔力に関して、そろそろ諦めた方がいいのかもしれない。

 それはともかく、ユノの言葉の意味は分からない部分もあったけど、忘れないよう何度も頭の中で復唱しつつ、地上への効果のため体を傾ける。
 この後、俺が降下を開始したらエルサが移動して、オーガの集団近くに降りてモニカさん達を降ろす予定だ。
 エルサはその後、エアラハールさん達を乗せたまま空で俺達の戦いを観察、モニカさん達は救出作戦の開始ってわけだね。
 モニカさん達が来るまで耐えないといけないけど、ただ避けるだけじゃなくて俺もオーガを倒せるように頑張らないと。

「それじゃ、行ってくるよ」

 皆に手を振って、背中から倒れるように体を投げだす。
 特に降下する際の体勢はなんでもいいけど、ちょっとだけやってみたかっただけだ。
 風を切る音が、耳を刺激する。
 頭から真っ逆さまに地上へと向かい、速度がグングンと増していく。

「ん……と」

 降下しながら、水中を泳ぐように手足を動かして姿勢を変える。
 なんとか、頭から真っ逆さまではなくなったけど……大の字のようになっているから、このままだと痛いでは済まされない気もする、多分。
 水面に飛び込む時にお腹を打って痛い、という話があるけど俺が今落ちている先は、オーガひしめく土の地面だ。
 高さによっては、水面もコンクリート並みの硬さと同じになると言われるけど、そもそも水よりも当たり前に硬い土だと……子供にはお見せできない状況にだけはなりたくない。

「自分から飛び込んでおいて、見せられないよ! な事は勘弁だから……うーん、まぁやる事は一つかな」

 スカイダイビングが趣味だったりしないので、空中での姿勢制御なんて上手くできない。
 かろうじて、頭から落ちないようにするくらいで精いっぱいだ。
 できれば足からがいいんだけど……今度から、やりたいからと言って変な降り方はやめよう、最初に足から飛び込んでおけば多少はマシになるだろうし。
 ともかく、このままだとオーガに殴られるよりも痛い事になるだろうから、一計を案じる。

 なんて格好つけても、ただ単純に硬い土に激突する前にクッションを利用するというだけなんだけどね。
 クッション……木々があればそれが使えるけど、見晴らしのいい場所でちょうど良さそうな樹木なんてない。
 けどその代わりに、集団でひしめいているオーガ達がいるからね……。
 段々と近付くオーガの巨体と地面に、再び不格好ながら手足をバタバタさせて姿勢を変え、ついでに覚悟も決める。

「ちょっと反則くさいけど……まずこれで一体……だっ!」

 万歳するように両手を上げ……頭が下だから、下げているとも言えるけど。
 その体勢のまま、オーガの集団に突っ込む。
 集団の中央付近、そこにいる一体のオーガに狙いを定めて……というか、隙間があまりないくらいだから、どちらにしてもオーガに激突するのは避けられそうにないし、反則でもないかな。
 なんて考えつつ、衝撃に備えて体を固くする。

「……つっ!!」

 手から伝わる衝撃と、ほんの少し柔らかいような肉の感触。
 あまり感じたい感触じゃないのを我慢しながら、ズドンッ! という衝撃と音。
 声を出す事なく、オーガの一体……落下する俺のクッションになったオーガが、地面に沈み弾ける。

「うへぇ……」

 オーガの肩くらいに両手を使って飛び込んだわけだけど……ある程度覚悟していたとはいえ、気持ちの悪い感触と飛び散ったオーガの残骸。
 まぁ、半分以上は原型をとどめているけど、まともに俺の落下を食らった部分は言葉にできない状況になっていた。
 当然ながら、俺の手も含めてオーガのあれこれがこびり付いてしまっていて、思わず嫌な声が出てしまう。

「GIGAY!?」
「GA!? GAGA?!」

 手を振りつつ、両手を上げた格好でオーガの残骸と共に、少し地面にめり込んで小さなクレーターになった場所に立ち上がる。
 ……ビチャ、なのかそれともヌチャなのか、とにかく不快な水音が足元というか、踏みしめた足から聞こえる。
 俺のせいだけど、足場がかなり悪いなぁ……というか、オーガの残骸の上でこのまま戦いたくはないから……。

「ちょっとくらいなら、エアラハールさんも許してくれるよね……」

 腰に下げている鞘から錆びた剣を……うぬ、錆びえているからか途中で引っかかって、中々抜けない……けど、なんとか抜いて構える。
 周囲のオーガは、突如空から降って来た俺に対して状況が呑み込めず、混乱しているようだ。
 その間に、抜いた剣に魔力を通していく……通りが悪いなぁ。
 剣は、表面の半分程度が錆びている状態で、ちょっと乱暴に扱おうものならあっさりと折れてしまいそうだ。

 エアラハールさんが手本を見せてくれた物より、まだマシだけど五十歩百歩みたいなものだろう。
 ちなみに、エアラハールさんが完全に錆び切ってしまている剣で最善の一手を使い、木剣を斬った後にその剣は自戒するように崩れて行ったりもしたけど、これは余談か。

「錆びている方が魔力の通りが悪いのかな。剣の状態とか、材質によって違うとかもあるかもしれないね。よし……今のうちに……」

 素早く視線を巡らせ、足場の悪いこの場からの移動先を定める。
 目測で大体だけど、距離五メートルってところかな……他のオーガが邪魔だけど、なんとか隙間からいけそうだ。
 そして、混乱しつつもとりあえずという形で俺に向かって腕を振り上げているオーガ数体を、視界の端に捕らえながら一気に狙った場所へと飛ぶ。

「GYA!?」

 飛び込んだ勢いのまま、オーガの体に剣を深く突き刺し……って、抜けない!?

「錆びているから、引っかかっているのか……っとぉ!」

 オーガの体に着地するように足を付け、全身で抜き去り、驚いた声を発した以外声を出せなくなったオーガの体を蹴り飛ばす。
 他のオーガを巻き込んで飛んでいくオーガを見つつ、ようやくまともな地面に立つ俺。
 ふぅ、これでようやく落ち着けたね……いや、落ち着いている状況じゃないけど――。


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