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積極的にワイバーンを活用するために

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「鞍ですか……確かに何もないよりはあった方がいいですね」

 馬みたいな手綱はほとんど必要ないとはいっても、地面を走るよりも空を飛ぶのは不安定だからね。
 何かの拍子に落ちてしまう可能性を考えれば、鞍がある方が安定性も増すだろう。
 ワイバーンの背中って、結構滑るし。

「問題とか、困った事とかはないんですね?」
「徳のこれといった事は……いえ、一つだけ困ったと言うべきなのか、少々迷う事があります。が、これはワイバーンがというわけではなく我々の問題ですが」
「それは?」
「……我々は元々剣を主体にしている兵であり、馬で騎乗して戦う部隊でない者が多いのです。そのため、ワイバーンに騎乗した際にやりに持ち替えるのですが、少々まごついている者が多いですね。魔法が使える者は別ですが」

 馬に乗らず剣を使う、つまり歩兵って事だろう。
 槍が使えないわけではないし、歩兵だからって使わない事もないだろうけど、あくまでと一番得意で訓練もしていたのは剣になるわけだ。
 だから槍に持ち替えた時に、馬ならぬワイバーンに騎乗した状態で上手く扱えていないといったところか。
 馬もそうだけど、ワイバーンも大きいから乗ったまま武器で攻撃する場合は、リーチの長い槍の方が便利なのは少し考えればわかる。

 馬で言うと、剣だとかなり相手に近付かなければいけないし、騎馬同士だとお互いの馬がぶつかってしまうなどの事故も起こりかねない。
 リーチの長い武器ならば、その問題が多少は解消されるってわけか。

「基本的に、戦う際のワイバーンには二人一組で乗り、片方は魔法遠距離を。もう片方が武器で近接をが基本と考えていいんですよね?」
「はい。場合によっては、敵に近付かないよう一方的に攻撃するため、魔法が使える者が二人、という事もありますが……」

 逆に言えば、突撃するのに武器を持った二人を、という事もなくはないって事でもある。
 荷物を運ぶ時には重量の関係で、できるだけ乗るのは一人の方がいいだろうけど、二人一組で乗る事によって戦闘の幅が広がると考えればいいと思う。
 実際、センテでアイシクルアイネウムを捜索、討伐する時にそれで運用していたしね。

「その辺りは訓練次第でしょうか……ワイバーン自体が丈夫ですし、再生もするので騎乗した人が無理に戦わなくてもいい場合もありますが、これから先の事を考えると、訓練を頑張って欲しいところですね」
「はい! 今のところ輸送をとの事でしたが、それでも戦闘がないとは限りません。ワイバーンに頼るだけでなく、お互いに存分に力を振るえるよう励みます」
「まぁ、もしかしたら前線に出る事もあるかもしれませんしね……」

 これまでは輸送部隊として見込んでいたけど、決意表明をした事でもっと踏み込んでワイバーンには協力して欲しいと思っている。
 どう運用するかは相談次第だけど……帝国はもし別のワイバーンを復元して使ったとしても、それはワイバーン単体としてだ。
 そこにこちらは人を乗せる事でさらに有効活用しようってわけだね。

「ともあれ、仲良くやってくれているようで何よりです。ただちょっと、お願いがあります」
「リク様がお願い、ですか? もちろん、リク様からでしたらできる限りの事はしますが……私にできる事でしょうか?」
「そんなに難しい事じゃありませんから、大丈夫ですよ」

 俺、そんな無茶なお願いをする人だと思われているんだろうか?

「お願いというのは、リーバーをワイバーンのリーダーなので、先頭にして編隊を組むように戦えるようにして欲しいんです」
「空で編隊を、ですか?」
「はい。今のところ空中戦のような事は想定していませんけど、もしかしたらもあるかなって。それだけでなくても、地上にいる敵に対して急襲を仕掛ける事もできますし」

 それこそ、一撃離脱のように空から急襲して敵をかく乱する事だって可能だろう、と改めて考えた。
 空から魔法で援護をするだけでも、戦況は有利になるだろうしね。
 数が少ないから全てに対応する事はできないだろうけど、それでもやり方次第でかなりの強みになるのは間違いない。
 帝国との戦争をできる限りこちら側に有利にするのならば、ワイバーンを活用しない手はないし。

「成る程……承知いたしました。これまで以上に、部隊としての動きを意識して訓練に励みます。ちょうどいい事に、魔物の討伐という役目も任せられておりますから」
「あくまでも一手であり、それで全てが決着するわけではないとは思いますけど……よろしくお願いします。もちろん、無理や無茶はしないで下さいね?」
「はっ!」

 俺の言葉に敬礼で応える兵士さん。
 魔物との討伐を訓練代わりか……俺やモニカさん達と余り状況が変わらないなぁ、と思いつつ、前哨戦みたいなものだねと考えた。

「リーバーの方も、よろしく頼むよ?」
「ガァゥ! ガァ、ガァゥ?」

 力強く頷いたリーバーだけど、次の瞬間には何か気になるのか、自分の背中や俺を見比べて問いかけるように鳴いた。
 えっと……?

「どうやら、リク様に乗ってもらえないのか、と聞いているようですね」
「すっかり、ワイバーンというかリーバーが言う事もわかるようになっているんですね?」
「ずっと接していて、仕草や声でなんとなく、でしょうか。特にリーバーは他のワイバーンとも鳴き方が違うので、わかりやすいですね」
「成る程、そうですか……でも、うーん……」

 接する時間が増えて、親しくなって行けばある程度は伝えたい事がわかるようになるのかもしれない。
 特にリーバーは鳴き声が動物に近いからね、他のワイバーンは魔物らしい鳴き声だし。
 それに犬とか猫も、一緒にいればなんとなくわかっていくみたいだし、そういうものなんだろう。
 ワイバーンを同列に扱っていいのかはわからないけど……。

「リクには私がいるのだわ! 思い上がるなだわ!」
「ガァゥ……」

 俺が考えるようにしていると、頭にくっ付いていたエルサがバンバンと前足で叩きながら、リーバーを一喝。
 リーバーは俯いて落ち込んでしまった。
 そこまで言う必要はないんじゃないかな? と思う以前に、エルサが叩いているのは俺の額だ……ちょっと痛い。

「こらこらエルサ、痛いから止めて。あと、リーバーが落ち込んじゃったから」
「そうして、同情をかってリクを乗せようとしているのだわ。狡猾なのだわー」
「ガァ、ガァゥ……」

 リーバーに俺の同情をかうような雰囲気は感じないから、エルサがそう思っているだけなんだろう。
 うーん、このままじゃリーバーがかわいそうだし、色々とやってもらって活躍もしているのに、落ち込ませたままっていうのは悪いね。
 それじゃあ……。

「せっかくだし、今日はリーバーに乗る事にするかな」
「なっ、だわ! 何を言っているのだわ!? リクは私に乗るのだわ!」
「まぁまぁ。さっき話したように、リーバーを先頭にしてワイバーンで編隊を組むからね。最初はリーバーも気分良くやった方がいいだろう?」
「リク様がリーバーに乗って先頭を担うのであれば、他の者達も士気が上がるというものです!」

 というわけで、今日のところはエルサではなくリーバーに乗る事に決めた。
 エルサはモニカさん達を乗せてもらう事にする。
 不機嫌そうに鼻を鳴らすエルサだけど……後で機嫌を取るために、キューと一緒に慰めるかなぁ。
 頼りになる相棒だから、不機嫌のままでいて欲しくないし、モフモフを撫でさせてくれなくなったら大変だしね――。


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