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リクが去った後の執務室
しおりを挟む「……では、近いうちに書状を送る事にする。その際には」
「はい、お任せください」
おっと、リネルトさんから色々と聞いている間に、姉さんとアマリーラさんの間で話がまとまったらしい。
一応宰相さんは立場的に話について行かないといけないから、真剣に聞いていたけど、大臣さんはまだ少し驚きなどが残っているみたいで、微妙に呆けている感じもあったけど。
まぁそれでも、国の重鎮さん達だからちゃんと話は聞いていたんだろうと思う。
「それではリク、この度の救助活動、そしてその報告ご苦労であった。また、我が国への協力も感謝する」
「いえ、俺は俺にできる事をやっただけですから」
大体は、目の前で起こった事に対していっぱいいっぱいになりながら、なんとか対処していたのがほとんどだし。
あと、色々あって自分を「私」なんて呼ばなくなっちやったけど、誰も気にしていないようだし、いいよね。
ともあれ、姉さんや国の重鎮さん達との話を終えて、一度礼をしてから退室した――。
―――――――――――――――
――我が国の英雄が、従者……獣人の二人を連れて部屋を出る。
ゆっくりと扉が閉まるのを待ち、腹の底に溜まっていた何かを絞り出すような溜め息を吐く。
「はぁぁぁぁ……報告と参戦の意思確認だけだと考えていたが、まさかリクがあんな事を考えていたとはな。ティアラティア王国に関しては、元々案としてはあった事だが……」
リク……私の可愛い弟のりっくんが、まさかあそこまではっきりとした決意を胸に秘めていたなんて、嬉しいやら切ないやらだわ。
まったくもう、いつの間にあんな立派に成長していたのかしら。
離れていた時期があるから、その間になのかしら? ずっとそばで見守っていられなかったのが悔やまれるわ……私が死んじゃってこの世界で生まれ直していたからなんだけど。
こちらにりっくんが来ているとは夢にも思わなかったし、顔を合わせる時まで私の事を忘れていたのは、ちょっとどころじゃなくショックだったけど……でも、事情を聞いて納得もしているわ。
辛い記憶だったからこそ、奥に閉じ込めて封印して表面上は忘れているっていう事だったから。
そりゃそうよね、私が目の前でりっくんの前からいなくなっちゃったんだから……ふふふ、それだけあの頃のりっくんから見て私の事が大事ってわけでも証拠でもあるものね。
もっと小さい頃しか知らなかったけど、こちらで再開してからすっかり成長したりっくんは、でも大きく変わってなくてあの頃のままでいてくれて。
でもそれだけじゃなくてちゃんと男の子ではなく、男としても成長してて……もしかしたら、さっきのりっくんはこの世界に来てからの経験で、大きく成長していたのかもしれないわね。
その経験の多くが、私じゃなくて帝国のせいだと思われるのは、少し……いえかなり許しがたい事だけれども。
でも私にとって可愛い可愛いりっくん、大切なりっくんである事には変わりはないのだから、つい色々と頼んじゃうけど、これまでと変わらず大切な弟として接していくのは変わりないわ。
……ただ、成長しているとは思ったけど、女性の機微に疎くてモニカちゃんがちょっとかわいそうではあるけどね。
モニカちゃんも可愛い子だから、早くりっくんと一緒になってずっと私といてくれればいいのに……まぁ、最初はモニカちゃんの人となりを見るまでは、少し警戒していたのだけど。
私からりっくんを奪い去っていくんじゃないかって。
でも、その心配も今はないと安心しているわ。
りっくんはずっとこのまま、やりたい事をやって私と一緒に笑ってくれればそれでいいの。
そのための力……魔力だとかエルサちゃんだとかを、りっくんは持っているし私だって女王として国に君臨している。
全てはりっくんのため、そして私のために……完全に私物化しているのに近いから、表にはほとんど出せないけれど。
一部、ヒルダと爺……宰相にバレているのは気にしないとして……一応これでも、表面上はちゃんと国を治めているのだから、文句は言わせないわ。
最初はこの世界で、りっくんがいない空虚さを感じつつもある程度上手くやって来たけど、りっくんがいるのだから、りっくんが国民の事を思ってくれるのだから、私もしっかりしなければいけないわよね。
はぁ……りっくん、りっくん、りっくん、りっくん……私のりっくん……。
モニカちゃんがいなければ、この世界でならりっくんと色々とこう……精神的にとか記憶的には別でも、遺伝子的にはつながりがなくなっているのだから、できるしそうなってもいいとは思っていたのだけど……。
あくまで、りっくんがそれを望むならではあるけど……何はともあれ、りっくん、りっくん……。
「陛下、何やら黒く不穏。そして邪悪な気配が漏れておりますが」
「ぐへへ……っと。ジュル……いけないいけない。気にしないで」
宰相の指摘に、りっくんの事で頭がいっぱいになり、気付かぬうちに怪しい笑いをしていたようね。
垂れていた涎をすすり、体裁を繕う私。
それにしても、黒いとか不穏だとか、邪悪だなんて失礼ね。
私は純真無垢な気持ちで、りっくんの事を心から愛しているっていうのに……。
ともあれ、宰相に指摘されなかったら危なかったわ。
さすがに涎まで垂らして、変な笑いをしていたらギリギリで保っている私の女王としての体裁が台無しになるところだったもの。
「私やヒルダなど、一部の者の前でだけならまだしも、ここには他の者もおりますので、ご自重なさって下さいませ」
「……わかっているわよ」
宰相に頷き、緩んでいた顔を引き締めつつ周囲を見ると、執務室にいる他の者達は皆、りっくんの話をしているようで私の様子には気づいていないようだった。
こうならないように、りっくんはさっき魔力をお漏らししていたのかしら? 私のために……さすがりっくん! というのは考え過ぎね。
ふぅ……と、心の中でのみ深呼吸をして気持ちを切り替え、女王様としての振る舞いを心掛ける。
何はともあれ、ここにいる者達は黙らせておかなければいけない。
じゃないと、私のりっくんにとんでもない迷惑をかけそうだからね。
宰相へと目配せをすると、咳払いをして注目を集めてくれる。
「んんっ! 皆、それぞれに考えはあるだろうが、陛下の前であるぞ」
「も、申し訳ありません、陛下!」
宰相の言葉にハッとなる者達。
これで、この国を今動かしている者達なのだから、少し頭が痛くなる気がするわ……。
「よい。先程のりっく……リクとの話を踏まえれば、騒ぎたくなる気持ちもわかるというものだ」
おっといけない、りっくんの事で頭がいっぱいになっていたから、思わず呼び方を間違えそうになってしまったわね。
りっくんも、時折私の事を自室以外で口に出す時、姉さんと呼び間違えそうになっているのは知っているけど、やっぱり私達は姉弟なんだなと実感できて嬉しい。
って、いけないわ……宰相がこちらを睨んでいるから、集中しないと。
私が悪いのはわかるけど、ジト目ですらなく睨むのは女王に対して不遜じゃないかしら? まぁ私がそれを許しているせいもあるけれど――。
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