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魔法が使えないからこそ有利に進められる可能性

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「もし魔法が使えても、向こうにも同じ条件の人物がいるわけですから、実際はあまり大きなアドバンテージにはなりません。えっと、こちらが絶対的な優位に立てない、という事ですね」
「同じ条件の人物、ですかな?」
「はい。帝国には……」

 同じ条件の人物、それはズバリクズ皇帝の事だ。
 ドラゴンと契約していると推測されるわけで、しかも魔力量も多いとくれば、向こうにも俺と同じような人がいると言って過言ではない。
 というか、この世界に来た当初の俺より魔力量は多いみたいだから、同じというよりそれ以上かもしれない。
 そして、俺が魔法を使って戦場で戦った場合、向こうもクズ皇帝が出て来る可能性が高いという事でもある。

 多分立場的にも、本人の性格的にも多くを率いて自分が前線に出るという事はしそうにないけど、魔法という派手な手段を取っていたら、目立つし向こうは出て来ざるを得ないだろう。
 どういう考えであれ、ドラゴンの魔法を大量の魔力で使う相手には、同じくドラゴンの魔法を大量の魔力で使える者しか、現状は相手にできないのだから。
 ただ、現状で俺は魔法が使えないため、魔法を使っての派手な活躍はできないので、勝敗はともかくクズ皇帝は前線に出て来る可能性が低い、と見ている。
 まぁこれは、レッタさんから話を聞いてそう判断しているだけなんだけど、レッタさん自身も、そしてロジーナもそういう評価だ。

 帝国の中央、皇都まで王国側が迫れば別だろうけど……自分達が不利だからといってそれを覆そうと、自ら戦うのではなく、むしろ不甲斐ない自陣側を責め立てるだろう、という見方だね。
 ただまぁ、皇都にまで王国軍が迫る状況になれば、怒り狂ってクズ皇帝が出て来るか、それとも完全に帝国が不利な状況になっているため、引きこもるかの二択でどちらになるかはわからないけど。
 これも、レッタさんやロジーナも同意見だったりする。
 ともかく、俺が魔法を使えないという状況は確実に悪い意味だけでもないってわけだ。

 クズ皇帝が出て来て、大規模で多くを巻き込む魔法を乱発するなんて事にならないし、その場合向こうがどんな事をしてくるのかわからない。
 それがないだけでも、こちらの被害は抑えられるうえそうするように、備えて行動する事もできるってわけだ。
 といった事を話し終えたうえで……。

「ですので、魔物の利用や何をしてくるかわからない部分もありますが、通常と言っていいかはわかりませんが、戦争の範囲を出ません」

 自分で言うのもなんだけど、俺とクズ皇帝が魔法を全力で使いながら戦ったら、怪獣大戦争の様相になってもおかしくない。
 場合によっては街数個分で済むか怪しいけど、かなりの広範囲が荒野になる事も予想できる。
 実際、俺一人でも高次元魔力……赤い光などを使わなくても森を一つ消したり、センテの周囲を氷で閉ざしてしまったりしているからね。

「その事から、俺が全力で戦う事だけでなく、この国の兵士さん達。それから参戦する冒険者さん達などには、精一杯頑張ってもらおうかと思っています。具体的に言うと、こちらが有利になる条件を揃えるように準備する、ですね」
「簡単に言うが、それが難しい事だというのもわかっているのか?」
「もちろんです。先程、俺が参戦するかどうかで兵士さん達の士気が変わるというような事を言われましたけど、それだけでなく……」

 要は、俺の決心や決意というのは、俺自身が参戦する事や全力で戦う事のみではなく、アテトリア王国が有利になるよう準備を整えるって事だ。
 それはつまり、戦争に多くの人を巻き込み、背中を押す行為にも等しいのでずっと迷っていた事でもあるんだけど……。
 参戦する事は決めていたし、冒険者さんなど多くの人をクランを作る過程ですでに巻き込み始めているから、今更ではある。
 でもやっぱり、自分からそう働きかけるのは躊躇している部分があった。

 やっぱり、戦争というはっきりとした殺し合いに、どこかで気が向かない、忌避する気持ちがあったんだろうと思う。
 けど今回、人間を爆発させる破壊工作を帝国が仕掛けている事、爆発する瞬間には遭遇していないけど、その直後の現場を見た事。
 そして、爆発させられる人間の状態を見た事で、決心が固まった。
 帝国は、特にクズ皇帝だけはこのまま放っておく事は絶対にできないし、アテトリア王国は負けてはならないし、被害もできるだけ少なくしたい。

 半分以上、俺の願望というか希望も混ざってはいるんだけどね。
 そうするための行動をする、決意もしたわけだ。
 この戦争を、アテトリア王国の有利にするための手段は、これまででその種のようなものは蒔かれているのだから。
 あとは、俺が決意して行動するだけで動き出すはず……。

「正直、この戦争を圧倒的有利のまま、アテトリア王国が勝利を収めたとして、その後どうなるのかはわかりません」

 あくまで、侵略を企んでいるのは帝国で、王国が防衛側ではあるけど……完全に終わらせるためには、帝国の皇都にいるクズ皇帝をどうにかしないといけないだろうから。
 それはつまり、現皇帝を引きずり下ろさなければならないわけで、ただ守って帝国軍を退けるだけでは終わらないし、達成できないからね。
 皇帝を引きずり下ろした後、帝国の国土をアテトリア王国が占領するのか、代わりの皇帝などをすげるのかなど、政治的な事はわからない。
 無責任だろうけど、あまり興味がないと言った方が正しいかな? もちろん、多くの国民が平穏に暮らせるような国にできる人が望ましいとは思うけど。

「あくまで話を聞いた限りですけど、帝国の皇帝は傲慢で自分が負けるとは絶対に考えていないと思うんです」
「それは……そうだろうな。直接話した回数は少ないが、それでもわかるくらい自分に自信を持って、他者を見下していた」

 そういえば、姉さんは会った事があるんだったっけ。

「はい。そんな皇帝を、人として許されない範囲にまで踏み出した相手を、圧倒的有利に叩き潰して、本人に突き付けたいんですよ。俺自身が正義で、正しいとは一切考えていませんが、それでも絶対に間違っているって」

 魔物だからとはいえ、命を弄ぶ研究。
 さらには、人を人とは思わない研究により作られた人間爆弾。
 そのうえ、レッタさんから聞いた他人の扱い等々……レッタさんがひたすらにこき下ろし、ゴミにも劣ると言っていたくらいのだ。
 その人間性が最悪なのは、簡単にわかる。

「……な、成る程な。傲慢な皇帝の鼻っ柱をへし折るというわけか……中々、痛快な様子が見られそうだ」
「そうかもしれませんね」

 痛快と言いつつも、姉さんは少しだけ暗い表情になっている気がする。
 他の人達も、どこか体を震わせているように見えるし……何かに怯えているようでもある。
 どうしたんだろう?

「しかし、リクが参戦してくれるのはもちろん我が国としても助かる。むしろ、リクが加わるだけでもこちらにとってかなり有利になるはずだ。だが、それ以外にどうするのだ? 当然だが、我々は予想される戦争に備えて、できる限りの準備をしているのだぞ? これ以上どうやって有利にすると言うのだ?」

 それは俺も知っている。
 姉さん達が、宰相さんや大臣だけでなく多くの兵士さんや役職に就く人達が、戦争に備えて頑張って準備している事を。
 ただそれだけじゃなく、俺にできる範囲で有利になるようにするんだけどね――。


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