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リクを待ち構える国の重鎮

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「リク様、こちらになります」
「えーっと、ここは……?」

 連れて来られたのは、王城の奥の奥、俺が使わせてもらっている部屋などよりもさらに奥で、兵士さん達が絶えず行き交い厳重に警備されている場所。
 そこにある人が四、五人横に並んでも余裕で通れる大きな扉の前に連れて来られた。
 ちなみに今もその扉の左右には二人ずつ、重装備でワイバーンの鎧を着た兵士さんが二人ずつ立って、警備をしている。
 厳重な理由は、ここが……。

「陛下の執務室になります」
「まぁ、それは知っていますけど、来た事もありますし。そうじゃなくて、なんでここにつれてこられたのかなぁ? って、ちょっと疑問に思っただけです」

 女王陛下である姉さんの執務室。
 まぁつまりは女王様としての仕事、国政を担っている場所とも言えるかな。
 何度か、報告なりなんなりで来た事があるから、ここがなんなのかは知っていたけど……いきなり連れて来られたから、どうして? という気持ちが口から出てしまっただけだ。

「陛下より、リク様がお戻りになられたらすぐに連れてくるよう厳命されておりましたので。理由は、おそらくリク様自身も覚えがあるのではないでしょうか。ですが、ご無礼をお許し下さい」
「そうですね……覚えがあり過ぎるくらいです」

 謝罪しながら、他の人達と共に深く頭を下げるヒルダさん。
 姉さんがそうしろと言ったのかまではわからないけど、まぁ連行開始される時よりはマシかな?
 王城に入った直後に、「失礼します!」でガシッ! だからね、もう少し説明して欲しかった。
 姉さんから連れて来いと言われたのだし、色々と身に覚えがあるというか城下町で予想もしていなかった事件があったわけで、問答無用になるのもわからなくもない、かな。

 いや、本当にその必要があったのかとか、言ってくれれば別に俺は逃げなかったのに、とも思うけどね。
 ヒルダさん以外の人達がいる必要があったのかわからないし、全員で俺を掴んでいた理由もよくわからない。
 一部の人は、人が密集しすぎて潰されかけていたし……。

「とりあえず、陛下には報告をって事ですね。わかりました」
「はい」

 戻ってきたらさっさと報告しに来い、という姉さんからの指示なんだろう。
 そう思って、連行された際に少し乱れていた服を直す……一応というか、女王陛下の前に出るわけだからね。
 まぁ俺がやるまでもなく、ヴァルニアさん達がささっと髪も含めて直してくれたんだけど。
 手際がいい、これがヒルダさんの教育か……。

 とにかく俺の部屋に来た時はリラックスモードだから、特に気にしなくても大丈夫だけど、執務室にいるって事はちゃんと女王陛下と会う、という気構えをしておかないと。
 間違えて「姉さん」なんて呼んじゃいけないし。
 ちなみに、俺を追いかけて来ていたアマリーラさんやリネルトさんも同じく、簡単にではあるけど身だしなみを整えていた。
 という事は、アマリーラさん達も一緒でいいんだろう。

「それでは………」

 俺の姿を一度確認、アマリーラさん達にも視線を向けて確認した後、ヒルダさんが扉の左右にいる兵士さんに目配せ。
 すると……。

「リク様がご到着されました!」

 大きく扉に向かって声を出す兵士さん。
 その声に答えるように、ゆっくりと開かれる扉。
 ……前に来た時は、こんなに仰々しくなかったんだけどなぁ? 厳重に警備されているのはそうだったけど。

「リク様とお連れの方々が入室されます!」

 と少し疑問に思いながら、ヒルダさんが部屋の中に報告するように放った声に促されるように、ゆっくりと足を踏み入れた。
 ヒルダさんを始めとした、俺を連行したヴァルニアさん達は、深々とお辞儀をして送り出してくれる……入るのは俺とアマリーラさんとリネルトさんだけみたいだね。
 ……というかやっぱり、前よりも大分仰々しいなぁ。
 以前は、見張りの兵士さんはいたけど顔パスで、扉をノックして入室許可が下り、自分で開けて入ったんだけど……なんて考えながら部屋の中に入ってすぐ、気付いた。
 部屋の中にいるのは姉さんだけではなく、他にも数人の男女が長机の奥に座っているのがわかる。

 それぞれ年嵩(としかさ)の男女で、ほとんど見た事がある人達ではあるけど……。
 中央の大きく豪奢な執務机の奥で、これまた豪奢な椅子に座っている姉さんは言わずもがな、というか前に来た時と同じだ。
 けどその左右、執務机から繋がるように設置された長机に着いている人達は、言ってみればこの国の重鎮。
 領地を持った貴族ではないけど、同等かそれ以上に権限を持った人達……まぁ要は、大臣さんとか宰相さんとか、トップの方々ってわけだね。

「よく来た、リク。早速報告を聞きたいところだが……まぁ、座ってくれ」
「はい」

 部屋内の光景に若干気圧されながらも、姉さんによる女王様モードの声に従う。
 中央付近に用意されていた椅子は、革張りで一人用のソファーに近い物が三つ。
 一つだけ姉さんに近い位置に置かれているのは誰が座るんだろう? あ、はい、俺ですね……。
 とりあえず座ったけど、沈み込んで優しく体を受け止めてくれる椅子、もといソファーの座り心地はよくわからない……いい物なんだろうけど。

 だって配置がなぁ……。
 中央に並んで……俺だけソファー一つ分前に出ているけど、とにかく座っている俺達の対面には、中心に一番偉い姉さんの据えて左右に広がるように座るお偉い人々。
 なんだろうこれ、面接かな? しかも、圧迫気味なやつ。

 お偉い人達はそれぞれ深刻な表情をしており、王城内で何度かすれ違った時のにこやかさの欠片もないし。
 いや、高校受験の時に経験したくらいで、実際に圧迫されるような面接なんて経験した事はないけど。

「ではリクよ、ある程度は聞き及んでいるが、城下町であった事を報告してくれ」
「はい……」

 早速とばかりに、姉さんから報告をするよう求められる。
 何故か、宰相さんとか並んで座っているお偉いさん達が少し前のめりになった気がするけど、気のせいだろう。
 ともあれ、アメリさんも含めて城を出たあたりから順を追って、今日の行動を話していく。
 まぁ、ララさんと会ってとかはさすがに大まかにで、詳細を話すのは不審者を発見したあたりからだけども。

 俺を見ている人達全員が、ジッと報告を聞いてくれるのでさっき考えた圧迫気味の面接、という印象は薄れた。
 まぁ、険しい表情になっている人もいるので圧はやっぱりあるんだけど、それは俺に向けられているものじゃないからね。
 爆発やら、大きな火事、そして多くの人が巻き込まれた事に対して、顔をしかめて険しくなっているだけだし。

「そうか……リク、民の救助ご苦労だった。そして、助力感謝する」
「一足早く、被害状況の第一報はこちらに届いておりました。リク様の尽力のおかげで、最小限にとどめられた事も。感謝いたします」
「あ……いやそんな……」

 報告を聞き終わった姉さん、それから要職に就く方々が立ち上がり、一斉に頭を下げる。
 さすがにこれには面を食らって、どう答えていいのかわからず戸惑う。
 ふと見ると、少し後ろにいるアマリーラさんとリネルトさんも驚いている様子だった。
 けど、俺より場慣れしているのか、すぐに立ち上がって姉さん達と同じく、俺に向かって頭を下げた。

 いやアマリーラさん達も協力してくれたから、こちら側じゃないのかな?
 と思ったけど、とりあえず今はこの場をなんとかしないと……えっと、うーんと……。


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