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微小な揺れと異変
しおりを挟むもう使われなくなった地下牢、不審者を隔離して捕まえておくにはちょうどいい場所だけど、近く埋められる可能性もあったみたいだ。
まぁ完全に隔離して、王城から離しておかないといけない悪人なんてそうそういないからね。
収容できる場所……要は牢屋などが足りているのなら、封鎖して使わないようにするのもおかしくない。
あと、もしかしたらだけど姉さんの事だから、そういう場所を減らしたいとかも考えているんじゃないだろうか? 単なる想像だけど。
とにかく、埋められる前で良かったと思うけど、封鎖を決定した姉さんに、また使わせて欲しいと許可を求めるのは少しだけ申し訳なさを感じた。
「……ん?」
「どうされました、リク様?」
「いえ、今何か……」
ふと、何かを感じて天井を見る。
そこに何があるわけではないんだけど……揺れのような物を感じたからだ。
これまで話をしていた兵士さんが、急に天井を見上げた俺に釣られて天井を見上げつつ、声を掛けられたのに視線を戻し、周囲を見てみるとアマリーラさんも同じく天井を見上げていた。
「リク様、今ほんの少しですが揺れたような気がしましたが……」
「アマリーラさんも感じたんですね。じゃあ、気のせいってわけじゃないのかな?――エルサは……?」
「私はリクが揺れたら揺れるのだわ。よくわからないのだわ」
「……だよね」
眉を潜めたアマリーラさんに言われ、自分の勘違いではなかったのかもしれないと思う。
エルサにも聞いてみたけど、俺の頭にくっついているからちょっとした揺れはわからないか……むしろ、パッと顔を上げて天井を見たのに、落ちそうにすらならずにくっ付いているのはもはや磁石でもあるんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
どうでもいいけど、自信があるとつい天井を見上げてしまうのはなんだろうね? 癖みたいなものなのかな……アマリーラさんも同じくだし、俺だけじゃないとは思うけど。
「地震……かな? でも、こちらに来てから地震なんて起こった事はないし……」
この世界に来てから、一度も地震を経験した事はない。
日本では、ちょっとした揺れくらいなら誰もが経験した事があるだろうけど……だからといって、絶対にないとは言えないし、うーん。
「アマリーラさんも感じているので、気のせいではない……とは思うんですが。今一瞬だけ地面というか、この家が少し揺れた気がしたんです」
「家が揺れた、ですか……?」
とりあえず、その後に続く地震かもしれない揺れはないので、不思議そうにしている兵士さんに話しておく。
本当に微かな揺れで、外にいればほぼ気付かないくらいだと思う。
俺だけなら気のせいだった可能性が高いけど、アマリーラさんも感じていたくらいだから、多分揺れは起こったのだと思う。
とはいえ、物も揺れていないし特に何も音がしたわけでもない、地震が起こる事があるのかすらわからない国や場所だから、兵士さん達はよくわかっていない様子だ。
まぁ何かあるわけでもないだろうし、もし本当にちょっとだけ揺れる地震で自然現象であり、その後に続かないなら気にする必要もないのかな? と思っていたら。
「あ゙……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……」
「な、なんだ!?」
急に、運んで来ていた不審者の発し続けていた声が、激しくなった。
驚いて横たわらせているその不審者を見る。
俺だけじゃなくアマリーラさんや、この場所にいる兵士さん達全員もだ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……!」
運んで来る前と同じように、特に体を動かすわけではなく、ただただ濁った声を激しく発する不審者。
それ以外は変わったところはないんだけど……ほんの少し、見開かれている目がさらに大きく開かれているかな? 程度だろうか。
「……結界! だわ!」
「エルサ!?」
激しく声を出すだけの不審者に、俺だけでなく兵士さん達やアマリーラさんも戸惑っている中、頭の上でエルサが突然鋭い声を発した。
語尾で気が抜けるのは相変わらずだけど……。
「……魔力が、さらに激しく体内で渦巻いていたのだわ。破裂する寸前までいっていたから、結界で遮断したのだわ」
「結界……成る程、確かに結界が張られているね」
不審者に近付き、手で触れようとするとその手前でガラスのような手触りの何かに当たる。
エルサが張った結界だろう。
その結界は、不審者を包むように張られているようだ。
「これなら、もし爆発しても周囲に被害が出る事はなさそうだね」
エクスブロジオンオーガと戦った時の要領だ。
いくら爆発しても、強固な結界に包んでいれば周囲に爆発の余波や衝撃を撒き散らす事はない。
自分が使えなくなっていて忘れていたけど、こうして結界を使えばもし何かあっても建物や人が危険になる事はないだろう。
とはいえ、本当に爆発したら無色透明な結界で包んでいるのもあって、人体が爆発するというのをしっかり目で見てしまう事になるけど。
……吸蔵して、少しだけ気分が悪くなってしまった。
「けど、なんで急に破裂する寸前に……」
運んで来てからは、特に誰かが触れたりはしていないし、戦いが行われたわけでもないので、レを含め誰も魔力をはする事なんてなかった。
何か、不審者の体内の魔力を刺激するような事はなかったはずだけど……って。
「もしかして、さっきの小さな揺れ!?」
「私はわからなかったけど、多分そうなのだわ。何がどうなってかはわからないけどだわ、魔力の波動のような物が、そこの人間に向かっていたのだわ。この結界は、内部の爆発の衝撃を防ぐためというよりも、外から干渉させないためなのだわ」
「な、成る程……」
おそらくエルサは、ここに来てからも探知魔法で不審者を見張り続けてくれていたんだろう。
だからこそ、感知できるかどうかという微妙な揺れに気を取られていた俺達とは違って、不審者の様子が変わった事に気付けたんだと思う。
その不審者は、結界で包まれているため声を発し続けているのかもしれないが、こちらには届かない。
他に変わった様子はないし……心なしか、少しだけ見開かれている目が閉じかけているような気はするけど。
「でも魔力の波動って……?」
「詳細はわからないのだわ。けど魔力の反応を見ていたら明らかに自然の魔力とは別物の魔力が、この人間に向かっていたのだわ」
「どういう原理かはともかく、もしかするとそれが爆発するための発動キーみたいになっている可能性があるのか……」
遠隔操作、という事だろうか。
どうやってかはともかくとして、破裂寸前の体内魔力に外部から刺激を与える事で、爆発させるという事なのかもしれない。
頭の中でリモコン爆弾という言葉が浮かんだけど、爆発するのは人間なので考えた誰かは倫理観とかそういうものが完全に欠如していると思う。
あくまで、体内の魔力が臨界点に達したら大きな爆発を起こす、という推測が正しければだけどね。
エルサからの話でもあるので疑ってはいないけど、エルサ自身もわからない事があるらしいから絶対とも言えないのがもどかしいところだな――。
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