上 下
1,789 / 1,903

危険を感じる臭いの元へ

しおりを挟む


「言葉にするのは難しいのですが……暗い何かを感じる臭さです。こちらに向いているものでもないので、このまま離れる事も可能です」
「暗い何か、ですか」

 なとなく、ジメジメした薄暗い場所で嗅ぐ臭いを想像したけど、ともあれその暗い何かのせいで臭いとアマリーラさん達が感じるのかもしれない。

「危険な臭さ、と言い換えてもいかもしれませんねぇ。こう、触れたらいけないような。そんな感じですぅ」
「うーん……」

 リネルトさんの補足を聞いて、さらに悩む。
 もし何かあるとして、俺達に向いていないのなら刺激しない方がいいとも考えられるけど……。
 でも、アマリーラさん達はその臭いが危険なものだろうと感じているみたいだし、このまま放っておいていいとも思えない。
 とりあえず様子見だけでもしておいた方がいいかもしれない……けど。

「どうしましょうか……アマリーラさん達が気になる程だし、見ておいた方がいいかなとは思いますけど……」
「ん、私?」

 悩みながら、チラリと見るのはアメリさん。
 俺の視線に気付いて首を傾げる……けど、エルサにお菓子を上げる手は止まらない。

「もしかすると、何か危険な事があるかもしれませんし、アメリさんを巻き込んでいいのかなって」

 俺やアマリーラさん達は、それなりに心得があるし多少危険があってもなんとかなる。
 けどアメリさんは一応一般人というか非戦闘員だ。
 ん愛花があったらハーロルトさんに申し訳が立たないし……。

「気遣ってくれてありがとう、リクさん。私だって、ハーロルトの所でただ黙ってお世話されていたわけじゃないわ。少々の危険なら大丈夫よ。まぁ、リク君に助けてもらった時のように、オーガ数体とかだと話は別だけど……」
「まぁさすがに町中でオーガ数体はいないでしょうけど……」

 オーガなんかがいたら、他の誰かに発見されて大きな騒ぎになっているだろうし、そもそも魔物が町に入らないよう見張りの兵士さんだっているからね。
 アマリーラさん達も魔物とは言っていないし、それとは違うんだろうけど。

「何かがあっても、リク君が王城に戻るまで見守るのが今日の私の役目だからついて行くわ。武器は忘れてしまったけど……」

 そう言って、少し情けない感じで笑いつつ、腰のあたりで片手をひらひらとさせるアメリさん。
 もう片方の手は、残りのお菓子をエルサにあげている……もう少しで完食だ。

「……わかりました。どんな危険があるのか……そもそも危険かどうかもわからないので、決して俺達の前には出ないで下さいね?」
「えぇ、リク君にしっかり守られるわ。戻ってきたらハーロルトに自慢しましょう」
「それが自慢になるかわかりませんけど……」

 俺に守られるって、自慢になるんだろうか?
 というのはともかく、危険な目には合わせないよう気を引き締める。
 アメリさんは武器を持っていないが、俺やアマリーラさんは念のため武器はちゃんと腰に下げている。
 俺は森でのレムレースと遭遇した経験もあって、白い剣だ。

 服装などは戦いに出るような物ではないけど、とりあえず武器があれば何かが襲ってきても大丈夫だろう、多分。
 アマリーラさんはさすがに目立ちすぎるので大剣は持っていないけど、一般的なショートソードを腰に下げているし、リネルトさんも同じ物を二本、左右の腰に下げている。

「アメリ殿は、リネルトが。決して前に出ぬよう。もし戦闘になったら、私やリク様には近付かぬよう」
「了解したわ」
「リク様とアマリーラさんが暴れたらぁ、私もも守り切れないどころか巻き込まれますからねぇ」
「暴れたりはしませんけど……まぁそうですね」

 森での俺やアマリーラさんの動きを考えると、暴れるという表現はあながち間違っていないけど……さすがに町中で、移動の邪魔だからって建物を薙ぎ倒して進むなんて暴れ方はしないしできない。
 アマリーラさんも大剣じゃないしね。
 とはいえ、力加減が課題の俺の近くにいると巻き込まれるかも、というのは確かなのでリネルトさんに同意して頷いておく。
 なんらかの危険がではなく、俺がアメリさんを気付付けてしまうような事だけは避けないといけないからね。

「それじゃ、行ってみましょう」
「えぇ。ちょうど、エルサちゃんにあげるお菓子もなくなったわ」
「……もっちゃもっちゃ。もっと欲しいのだわ~」
「はぁ……んんっ! アマリーラさん、あちらでいいんですよね?」
「は、はい」

 気を引き締めて行こうと思ったけど、エルサの気の抜ける声で中々締まらない雰囲気だけど、気を取り直してアマリーラさん達が感じた臭いの方へと向かった。

「ん~、ここまで来ても、やっぱり俺には変な臭いとかは感じないですね……」
「私もよ。美味しそう匂いは感じるんだけどね」

 表通りから一本ズレた道に入る。
 裏通りという言葉が正しいそこは、表通りに向かっている各商店の建物の裏側で、人が全然いない。
 商店の中には飲食店もあるので、アメリさんが言うような置いそうな匂いというのは俺でも確かに感じるけど……アマリーラさん達の言うような臭いは感じない。
 まぁ、色んな食べ物の匂いが混じっていたりするので、人によっては臭いと感じる事もあるかな? と思うくらいだ。

「確実に近づいています。あちらの方から……」

 臭いの元へと案内をしてくれるアマリーラさんは、迷う事なく道の先を指し示す。
 やっぱり、俺やアメリさんのような人間と違って獣人の嗅覚の鋭さは、特別みたいだね。
 人間の匂いなどが充満しているとさっき言っていたのも、俺達にはわからないうえに、強い匂いを発する食べ物っぽいのもあるのに……その中で迷わず臭いの元が判別できるんだなぁ。
 なんて感心しながら、警戒しつつゆっくりと進んだ先で……。

「何かの物が臭いを発しているのだと思っていましたが……どうやら人のようです。紛れていてここまで近付かないとわかりませんでしたが、人間のようです」
「人間……リネルトさん、アメリさんをお願いします」
「了解しましたぁ」
「気を付けてね、リク君」
「はい」

 裏通りを進んだ先、他の道にも繋がっていて続いている場所……特に何かがあるわけでもない道の途中で、アマリーラさんが言う臭いの元を発見。
 元アマリーラさんと俺が並んで先頭に立ち、後ろをアメリさんとリネルトさんが付いてくる形だったけど、何があるかわからないので念のためアメリさんとリネルトさんを少し下げる。

「宿なしか何かでしょうか……?」
「かも、しれないですね。見た目だけで判断するのは避けたいけど……」

 ジリジリと、ポツンと立っている臭いの元らしい人間の所へ近づく。
 他に道を通っている人はいない今が近付くチャンスかもしれないね……誰かを巻き込む可能性はないわけだし。
 その人間は、動かずただジッとその場に立って俯いているだけで、それだけで怪しい人物とも言える状態だ。
 こちらには背を向けている状態だけど、後ろから見る限り伸ばし放題のボサボサで、一切整えられていない髪の毛はしばらく洗っていないように思えた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...