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なんだかんだあってようやく本題
しおりを挟む「要は、ハッタリって事ですか?」
「そうそう、それよ。だから実際に私が戦ったら、絶対に勝てなかったわ。冒険者だった頃にはわからなかったけど、鍛冶師で色んな男達を診ているうちに、相手の力量は大体わかるようになっただけだしね」
うん? 今なんか、見ていると言うニュアンスがおかしかったような?
なんだろう、見るではなく診ると言ったように聞こえた……? 鍛冶で武具を作るのに、一体男達の何を診たのか……これもまた、深く追求しない方がいい気がした。
「なんなら、リク君も診てあげましょうか? むくつけき男達と違って、可愛いリク君を診るのは私ドキドキしちゃうけど」
「……え、遠慮しておきます」
こちらにウィンクを飛ばすララさんに、若干引き気味になりながらも断る。
さっきの殺気と一喝よりも、俺を引かせるにはこちらの方が効果的だなぁと自分で思う。
俺の後ろに隠れていたアマリーラさんが、また威嚇するような唸り声を上げているようだ。
結局のところ、アマリーラさんはララさんの見た目と口調や甘い匂いなどの差異に混乱しつつも、俺を守ろうとして威嚇していたんだろうなぁと思う。
さっきも、魅力的……かどうかは人によるだろうけど、男女の女性側に睨まれる事が多かったと言っていたとおりなんだろうね。
「まぁ、とりあえず話が進まないので……アマリーラさん達の事はいいとして……」
リネルトさんはなんとか表面上平静を取り戻しているようだし、アマリーラさんの方はアメリさんとカーリンさんが撫でて慰めているから、いずれ怯えや混乱から脱出できると思う。
アメリさんは、どさくさに紛れてアマリーラさんのモフモフな耳を堪能しているようではあるけど……もしかすると、慰めるよりもそちらの方が重要なのかもしれない。
アマリーラさんが嫌がっていないんだったら、いいんだけどね。
同じ女性だし、俺みたいに起こられることはないと思うし……ちょっと羨ましいので、頭にくっついているエルサを撫でておこう。
「本題に入りますけど……今大丈夫ですか? 他に仕事があったり……」
「見てのとおりよ。ここ最近お客さんはさっぱりね……だからこうして、私が外に出て客引きをしていたんだけど……私の魅力でも、外に出ている人が少なければ効果も薄いわ。ここ最近、鞄の制作依頼とかも少ないし。ルドルの方は、忙しくしているみたいだけど」
「そ、そうですか……」
ララさんが外に出て客引きとか、どこぞの二丁目のイメージしか頭に思い浮かばない……実際は行った事ないから、あくまでイメージだけど。
あと、ララさんが外に出るのは逆効果な気がしたり、元々お客さんはそんなに多くなかったなどということは口に出さないよう気を付ける。
ちなみにルドルさんというのは、ララさんが鍛冶師をしていた時に親しくなった人で、鍛冶工房を持っている人だ……鍛冶工房の親方さんの息子とかだったかも?
時折、手が足りないとかなんだかの理由で、ララさんに手伝ってもらうようお願いに来たりしているらしい。
「えーっと、それならちょっと頼みたい事があるんです」
「何々、新しい鞄? リク君の頼みなら私張り切っちゃうわよぉ! 他の制作依頼なんてそっちのけでね!」
いや、それは単にさっきも言っていたように他の制作依頼がないだけなのでは……。
「鞄の制作じゃなくて申し訳ないんですけど……こちらの素材を加工してもらえないかなって。ララさんじゃなくても、加工してもらえる人を紹介してくれればと……」
持ってきていた荷物の内、アルケニーの足が入っている袋を広げて中身をララさんに見せる。
元鍛冶師で、今は鞄専門だからそれ以外の物を作るのは抵抗があるかもしれないし……実際、ルドルさんが手伝いをお願いしに来た時、少し嫌そうな雰囲気を出していた。
だから、断られるのなら別の誰かを紹介してもらえないか、というお願いでもある。
まぁそれこそ、ルドルさんとかね。
俺から直接ルドルさんに……という手もなくはないだろうけど、そのルドルさんがどこにいるのかとか知らないし、俺が城下町で頼りにできて当てにできるのはララさんくらいだからね。
「ん~? ふぅん……成る程ね」
「……どう、ですか」
俺の開いた袋の中を覗くララさんだけど、なんだか少しだけテンションが下がったような、さっきまでの雰囲気とは変わった気がする。
どうしたんだろう、アルケニーの素材に何か思うところがあったのか……と思いつつ、窺う。
「リク君の頼みだから聞いてあげたいけど、ちょっと難しいわね」
「それは、加工が難しいって事ですか? だったら、できれば加工できる人を紹介してもらえれば……」
なんとなく、ララさんには失礼だろうなと思いつつそう言う。
「そうじゃないわ。アルケニーよねこれ? アラクネじゃなくてそのさらに上位のアルケニーなんて、簡単にはお目にかかれないけれど……加工するだけなら簡単よ。アラクネよりも素直な性質で、難しい事じゃないわ。それだけに、ちゃんと特性を引き出して室を良くするのは難しくはあるんだけどね。そうね……いっぱしの鍛冶師なら大体は加工できると思うわ。ワイバーンとかよりよっぽど、扱いやすいわね」
「そうなんですか? なら、どうして……」
素材によって、加工のしやすさとかがあるのか……考えてみれば当然かもしれない。
けど、難しい物じゃないのにどうして断られたのか気になる。
ララさんも、今はアルケニーの足が入った袋から体を背けていて、それが断る意思表示のようにも感じられた。
さっきまでの雰囲気は全くなく、少しだけピリッとした空気をまとっている気がする。
「……最近、王都全体がピリピリしている雰囲気を感じるわ。それだけでなく、ルドルのいる鍛冶工房……他の所もそうみたいね。多くの依頼が舞い込んできて忙しくしているわ。そしてその依頼は、大体がこの国からよ」
「……」
ピリピリした雰囲気、というのは多分戦争の準備を進めているからだろうと思う。
城下町は爆発に対しての反応がみられるようだったけど、王城内は全体的にのんびりしていた以前と違って慌ただしい部分もある。
そしてさらに多くの鍛冶工房に制作依頼を出している。
作っているのは兵士さん達用の武具だろう。
それだけでなく馬具とか馬車とか……鍛冶工房が関わっている物は多岐にわたるし、消耗品だったりするから。
「そのうえ少し前の爆発騒ぎ。何が起ころうとしているのかまではわからないけど、なんとなく察している人も多いわけなのよ。近々、国全体を巻き込んだ大きな戦いでもあるのか……と」
まだ帝国との戦争に関しては、はっきりと発表はされていない。
王城の人達や各領主貴族などには伝わっているだろうし、王軍の兵士さん達から少しくらいは広がって噂程度にはなっているらしいけど。
帝国と、という事まではわからなくとも戦争の準備を進めているというのは、ある程度察していたり雰囲気で感じている人が多いようだ。
それは、ララさんも例に漏れずってわけだ――。
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