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アマリーラさん威嚇中

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「リク君、シャッター街って何?」
「あーいや、なんでもないです。気にしないで下さい」

 おっといけない……ふと口を突いて出た言葉が聞こえたらしく、アメリさんが首を傾げた。
 中央冒険者ギルド跡、建物の惨状を見ていた時は少し顔色が悪かったけど、今はもう大丈夫なようだ。
 ともあれシャッター街なんて言葉、アメリさんは知らなくて当然だろうからね。

 ちょっと強引に誤魔化して、ララさんのお店へと急ぐ事にした。
 大丈夫だと思いたいけど、ララさんお店が開いているといいなぁ……。

「あらぁ? リク君じゃなぁい。相変わらず可愛いわねぇ」
「あーあははは……どうもララさん。お久しぶりです」

 ララさんのお店に到着すると、店先に椅子を出して座っていたララさん本人が俺に気付いたようで、向こうから声をかけてくれる。
 良かった、ちゃんとお店は開いていたようだ。
 相変わらず、ヴェンツェルさんやマックスさんにも負けず劣らずの大柄ながら、クネクネして妙なポーズをしている。
 野太い声で女性の口調なのも、以前と変わらないままだ。

「ふーっ! ふしゃー!」
「どうどう、アマリーラさん。警戒する気持ちはわからなくもないですが……あれも一応人ですからぁ」

 そんなララさんを見たアマリーラさんが、何故か警戒を越えて威嚇するように真っ直ぐ上に伸ばした尻尾の毛を逆立たせていた。
 リネルトさんが落ち着かせているけど、そのリネルトさんも結構失礼な事を言っている。
 幸い小声だったから、ララさんには聞こえていないようだけど。

「アメリちゃんもいるじゃない! 久々ね、しばらく顔を見せなかったけど……」
「町の中が危険だから、しばらく外に出られなかったのよ。それで、今回はリク君も一緒だから出られたの」
「そうなのね……あれが起きてから、人通りも少なくなってしばらくお店を閉めている人もいるくらいだし、寂しかったわぁ」

 アメリさんにも気付いたララさんが、手を取り二人で再開を喜び合っている。
 片方が野太い声で、大柄でなければ女性同士の微笑ましい再開の様子に見えたんだろうなぁ……。

「あら、そちらの三人は? 二人は獣人のようだけど……なんだかすごく睨まれているわね」
「ふしゃー!」
「あ、えっと……」

 アメリさんと手を取り合ったまま、アマリーラさんとリネルトさん、そらからカーリンさんに気付ララさん。
 アマリーラさんの様子に首を傾げているし、アマリーラさんはアマリーラさんで両手の指を鉤爪のように曲げつつ、歯を剥き出しにして威嚇状態だ。
 どうしてこんなに、ララさんに対して警戒や威嚇をしているんだろうか……リネルトさんの方は、いつもとそんなに変わらないのに。
 なんて疑問に思いつつ、アマリーラさんに落ち着いてもらうためにもひとまず、お互いを紹介した。

「……なるほどね。そちらの私を睨んでいる獣人のアマリーラちゃんは、ご主人様を取られたくない子猫ちゃんってところなのね。ふふ、可愛いわぁ」
「ふぐっ……ふ、ふしゃー!」

 しなを作ってウィンクまでするララさんに、アマリーラさんは一瞬だけたじろぐ。
 うぅむ、真っ向からアマリーラさんを怯ませるとは、ララさん恐るべし……。
 しかも威嚇しているアマリーラさんを子猫ちゃん扱いとは……いやまぁ、確かに体格差で言えばアマリーラさんが小柄なのもあって、大人と小学生くらいの差はあるように見えるけど。

「それで、なんでアマリーラさんはそんなにララさんを威嚇しているんですか? こんな事、これまでなかったと思うんですけど……」

 コッソリ、にらみ合っているアマリーラさん達に聞こえないよう、リネルトさんに小声で聞いてみる。
 ……睨んでいるのはアマリーラさんだけで、ララさんはそれをものともせずに微笑んでいるだけだけども。

「それはですね、あの方は……どう見ても男性なのに、女性のような雰囲気を出しているので、アマリーラさんは混乱しているのだと思いますよぉ。見た目と匂いが違うと言いますかぁ」
「見た目と匂い……?」

 確かに、どう見ても男性にしか見えないララさんが、女性のような動きと口調というのは頭が混乱しそうになるというのはわかるけど……匂いっていうのは?
 と疑問に思った瞬間、意識したからだろうか微かに甘い香りがした。
 多分、ララさんが付けている香水か何かだろう、アメリさんはここに来るまでにそんな香りを感じなかったし、カーリンさんは料理人だから多分使っていないし、アメリさんと同じくこれまで感じた事がなかったから。
 アマリーラさんとリネルトさんは、獣人で嗅覚も人間以上らしく、そういった香りの付いたものを体に使うのは避けているらしいから、ララさん以外にあり得ないはず。

「……成る程。俺はそうでもないんですけど、獣人だからなんですかね?」

 ララさんのものと思われる甘い香りは、女性的なイメージを彷彿とされるものだ。
 だから嗅覚の鋭い獣人は、ララさんの見た目との違いに混乱してしまう事もあるのかもしれない。
 その結果が、今ララsんを睨んで威嚇しているアマリーラさんってところだろう。

「そうですねぇ、人間よりも匂いを頼りにしている部分はあると思いますぅ。それだけでなく、耳もですけどぉ」

 そう言って、自分の耳を動かして見せるリネルトさん。
 ちょっとだけ、その耳を覆うモフモフにつられて手を伸ばしそうだったけど、そこは自重しておく。
 またモニカさんに怒られちゃいけないからね。

「人間はあまりわからないらしいんですけど、匂いって意外と多くの情報を持っているんですよぉそれで、見た目と匂いの差異のせいで魔物みたいに感じているんじゃないでしょうかぁ」
「魔物って……それはさすがにララさんに失礼だと思いますけど、まぁ仕方ない部分もあるのかな?」

 俺もかなり失礼だと思うけど、大柄で青ひげが目立つ顎は二つに割れていたりもして……あれで女性的な香りと口調で迫られたら、心臓の弱い人なら失神してしまってもおかしくない、と思えるくらいだからなぁ。
 うん、絶対ララさん本人には言えないけど。
 あと、ちょっと癖があって返答に困ったりする事はあるけど、俺は別にララさんを嫌っていたりはしないからね。
 特徴的過ぎても、悪い人じゃないのは確かだし。

「とりあえず、アマリーラさんの事はリネルトさんに任せます。さすがにないと思いますが、ララさんにアマリーラさんが飛び掛かった利したら大変ですから」
「はーい、任されましたぁ。とはいえ、さすがにそんな事をアマリーラさんが……」
「って言ってるそばから!」
「アマリーラさぁん、駄目、駄目ですよー! ハウス、ハウスです!」

 リネルトさんに任せて、とりあえず俺はカーリンさんとララさんへ本題を切り出そうとした時だった。
 絶対にララさんから目を離さないようにしつつ、姿勢を低くして、けど尻尾は高く、いつでも飛び掛かれる体制になったかと思うと、背中に担いでいた大剣に手をかけ……ようと動いた瞬間に、リネルトさんと二人がかりで止めに入った。
 さすがに刃傷沙汰は勘弁というか、絶対だめだ。

 ただ威嚇しているだけならともかく、さすがに剣を使って襲い掛かるのは……ララさんもだけど、周囲に甚大な被害が出てしまいかねない。
 それこそ、建物が破壊され爆発以上に――。


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