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まずは地道な訓練から

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「リクの能力なら、それでもなんとかなっておったんじゃろう。少なくとも、Aランクの魔物は苦もなく倒せたのじゃろうし、単純に手数が増えるのは間違いないの。だから便利だと勘違いもする」
「Aランクを苦もなく倒す時点で、さすがリクさんとしか言えませんが……リクさんなら、力を発揮できない状況でもそれくらいはなんとかなるだろうし、なんとかする姿しか思い浮かばないわ」
「まぁ、確かにそれでレムレースとも戦ったし、便利だなって自分でも思っていたからエアラハールさんの指摘通りなんだろうね……はぁ」

 森で戦ったレムレースの魔法を打ち落としたりと、反応が鈍くても、手数が増え多分有利に思えていたのは確かだ。
 だから勘違いしてしまった、というエアラハールさんの言葉は正直耳が痛い。

「一つの武器でも、極めれば手数を増やす事は可能じゃし、一振りで無数の手数をねじ伏せる事だってできる。それが、最善の一手でもあるんじゃがの」
「一振りでねじ伏せる……」

 確かに、最善の一手を初めて見せてもらった時は、目にもとまらぬ速さで本来は切れる事のないはずの物を斬っていた。
 エアラハールさんの言う事を信じるなら、どれだけの手数を持っていようと、圧倒的な一撃でそれらをねじ伏せる事も可能なんだろう。
 そこに至るまでに、途方もない努力をしないといけないんだろうけど。

「とはいえ、最善の一手はこれだという状況で使ってこそ、本当の意味で最善と言える。ただそれだけを使うだけでは、最善とは言えんのじゃよ。つまりは、状況次第。その状況、場面ごとに最善と言える行動を行うための訓練じゃ。最善の一手を使うためではなくな。じゃが、無駄な動きが多いと……」
「エアラハールさんの言う、最善と言える動きができなくなる、ですか?」
「そうじゃ。常に最善の動きができるのが理想じゃが、相手もさる者。力量その他様々な要因でこちらの最前を崩してくる事もあるがの。じゃが、ただの一度でも最善の動きができれば……という理念を突き詰めていたのがワシじゃ……少々語りすぎたかの」

 俺とモニカさんが、感心するように見ている視線に気付いたのか、恥ずかしそうにして再びそっぽを向くエアラハールさん。
 結構、恥ずかしがり屋というか素直じゃない人だよね、それがエアラハールさんらしいとも思うけど。
 エルサやロジーナもそういうところがあるけど、俺の周囲にはそんな人が多い気がする……類は友を呼ぶと言うけど、俺はそうじゃないと思いたい。
 まぁ、恥ずかしい事とかはあるし格好つけたいと思う事だってあるけども。

「とにかくじゃ、二つの武器を持つ、武器その物の長さや種類などは、扱う人物によって変わる。体の大きさや力、思考……極端な話をすれば生まれや育った環境でも多少変わってくるくらいじゃ。その中で、一つの武器、剣に頼るよりも二つ。もしくは別の武器を求める場合もあるじゃろう。じゃが、リクはその前段階じゃ。使っている武器も少々どころではなく特殊じゃしのう……下手に工夫して小細工を考えるよりも、まずはねじ伏せる方向でやった方が良さそうじゃ」
「そうですか……ありがとうございます」

 初めて、というわけではなくこれまでもエアラハールさんの助言や訓練のおかげで、助かった事は何度もある。
 けど今回は特に、その言葉は体に身に染みる気がする。
 色々考えて、自分では試行錯誤していたつもりだったけど、にわか二刀流とか迷走してしまっていたようだと気づかされた。
 なんとなく違和感みたいなものはあったし、動きづらく感じる事もあったんだけど、慣れていないからだと思っていたしね。

「なんにせよ、多少詰め込むようにしばらくは厳しく訓練する必要があるじゃろうが、一日にして成らず、じゃ。これからは毎日やっていくぞ」
「は、はい、わかりました……」

 かなり厳しかったから、あれが続くとなるとちょっと気持ちが暗鬱となってしまうけど……自分から求めた事だし、ちゃんとした技術を身に着けるには仕方ない。
 あと、一日にして成らずっていうのは、ローマは云々のあれかな? 近い言葉というか、さすがにローマとは言われなかったけど、似たような言葉があるんだなぁと少し感心。
 とにかく、エアラハールさんじゃないがことわざ的な言葉を借りるなら、継続は力なりだ、しばらくは厳しくても、疲れても、しんどくても、頑張るしかないだろうね。
 ……今まで真剣にやって中たわけじゃないけど、魔力量の多さに胡坐をかいて、おろそかにしがちだった気もするし。

「おぉそうじゃ、明日からはもっと厳しく行くからの。続けていれば慣れるのが人というものじゃ。じゃから、徐々に厳しくしていく事で、短期間でもある程度はものになるじゃろう」
「は、はーい……」
「あははは……大変そうね、リクさん。まぁ私も、人の事を言っていられないんだけども……」

 エアラハールさんの言葉を聞いて、かろうじて返事をするくらいしかできなかった……今日以上に厳しい事があるのかぁ……うん、頑張ろう。
 モニカさんの乾いた笑いも聞きながら、現実逃避とばかりに、この後のカーリンさんの調理道具を作ってくれる人探しの方へと、思考を変えた――。


 ――訓練後、汗を流してさっぱりした後は、エルサを頭にくっつけてカーリンさんと合流し、城下町へ。
 昼を過ぎて二日酔いから復活したエアラハールさんが、妙にやる気だったので、今日の魔物相手の実践訓練はアマリーラさんや、リネルトさん抜きで、ユノやロジーナ、それとレッタさんを加えてモニカさん達を集中的に見るとかなんとか。
 そのため、カーリンさんの他にアマリーラさんとリネルトさんが、城下町に出る俺と同行している。

 モニカさんがいてくれた方が良かった、と思うのは俺自身の気持ちとか浮かれている気持ちが少しくらいあるのかもしれない。
 実際にはいないんだけど、その代わり……。

「久しぶりねぇ、リク君!」
「アメリさん、何故ここに……?」

 王城の出入り口で待っていたアメリさんが、俺に気付いて駆け寄り、すぐさ頭にくっついているエルサを撫で撫でし始めた。
 俺への挨拶はまぁ適当でいいんだけど、エルサに手を伸ばしている恰好じゃ、俺じゃなくてエルサに挨拶しているみたいに見えますよ?

「リク君が、町に繰り出すから案内してって頼まれたの。あの……なんて言ったっけ、リク君をお世話している女の人の……」
「ヒルダさんですか?」
「そうそう、その人! くれぐれもよろしくお願いしますって言われたわ」
「……ヒルダさん、案内なんていらないのに……」

 同行者が増えるのは構わないけど、急にアメリさんが合流して驚いた……城下町には何度も出ているし、ララさんの店に行く道も覚えているから、案内は必要ないんだけど、と肩を落とす。
 なんだろう、ヒルダさんの気遣いだとは思うんだけど、目を話したら迷子になるんじゃないかと心配されているような気分になってしまうなぁ――。


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