上 下
1,770 / 1,903

値引き交渉を任せる相手

しおりを挟む


「ヒュドラーとレムレース相手だと大きな被害、で済ませられる相手でもないんだけどねぇ……まぁいいわ。今に始まった事じゃないからね」

 小さく嘆息して、話しを戻すようヒルダさんに目で示す姉さん。

「直接的な怪我ほとんどないようでしたが、それでも大きな絶望を前に、生きる事すら諦める状況からの救い。差し込んだ光に全てを捧げても構わないと考えるのは、自然なのではないでしょうか?」

 姉さんい頷いて、再び話すヒルダさん。
 内容とヒルダさんの雰囲気から、何かを感じるような……って、そうか。
 ヒルダさんは昔、魔物に故郷を襲われて全てを失ったんだったっけ。
 それを、姉さんが助けて保護して、王城で雇って侍女にしたとか。

 ミラルカさんを始めとして、今日会った八人は攫われる際に全員、帰る場所を失っている。
 それは故郷を失ったのもあるし、住む場所が家族と共に失われた、など程度の差は多少あっても大きな違いはない。
 攫う際にそんな事をした理由は、多分口封じとか魔物に襲われたと偽装するためとか、色々あるのかもしれないけどあまり理解はしたくない。

 ともかく野党と魔物で違いはあるけど、状況的には似た経験をしているから、あの八人がどう考えているかという心の動きなども、なんとなくわかるのかもしれない。
 いや、でもさすがに大袈裟な部分はあるとは思うけどね。

「全てを、とまでなるのはちょっと俺自身あまり想像できませんけど……」

 あと、重すぎて受け止めきれないというのも少しある。
 ちょっと無責任かもしれないけど……。

「あくまで、最前線にというのは例ではありますが……そういう考えを持ってしまう事もあるのだと、ご理解下さい」
「それはまぁ、はい」
「ヒルダ……」

 憐憫の目というのだろうか? ちょっとだけ眉根を下げた姉さんがヒルダさんを見て、名前を呟く。
 ヒルダさんは「持ってしまう」と言ったから……多分、過去の出来事に縛られているは言い過ぎでも、近い感覚なのかもしれない。
 まぁ、そんなヒルダさんも姉さんを叱る時は結構怖いけど、普段は割と楽しそうに過ごすというか、お世話をしてくれているから、なんとかしないといけないってわけでもないんだろうけど。
 ヒルダさんを見ていると、侍女や誰かのお世話をする仕事が天職なんじゃないかとすら思えてくるくらいだしね。

「私の事はともかく……」

 ヒルダさんが姉さんの視線に気付いたんだろう、少し誤魔化すように顔を逸らしながら話を続けてくれる。

「助けてくれた相手が何を望むか、という部分もありますが、とにかくリク様から何かを頼まれる、任されるというのは、あの八人にとっては嬉しい事になっていると思われます。その表れとして、リク様のおお傍で役に立ちたい、という望みなのでしょう」
「つまり……ワイバーンの皮を取引するための交渉を、ナラテリアさんとカヤさんに任せるのは喜ばれる、と?」

 随分話が逸れたような気がするけど、そういえばワイバーンの皮の取引や、値引き交渉を任せられる人という話だった。
 早い話が、ナラテリアさん達なら目的などはどうあれクランに入らないと言う事はないし、仕事を任せられて喜ばないはずがない、とヒルダさんは言いたいみたいだね。

「はい。おそらくですが、諸手と歓声を上げて頷くのではないでしょうか」
「そこまで喜ぶのは、ちょっと想像できませんけど……」

 さすがに、二人のそんな様子は思い浮かばない。
 俺の想像力が貧困だからとか、まだ二人に会って間もなく、よく知らないからっていのもあるかもしれないけど。
 あと、ナラテリアさんもカヤさんも、ヒルダさんが言っているような喜び方をする性格じゃないような……?

「とにかく、ヒルダさんの話は少し大袈裟な部分があると思いますけど……本当に二人が承諾してくれるのなら、そっちに任せてみようかと思います」
「大袈裟、ではないのですが……はい、差し出がましい事を申してしまいました。陛下とのお話中に申し訳ございません」
「いえそんな、参考になるというか俺達だけではどうしようと悩むばかりだったので。ありがとうございます」

 何やら小さく呟いた後、深く頭を下げるヒルダさん。
 俺達だけでは、ナラテリアさん達に任せてみる……という案は出なかっただろうし、ヒルダさんの意見はありがたく、謝られる程じゃない。
 姉さんも、話の途中で入って来たヒルダさんを咎めたりはしないだろうしね。

「あと、一応ですけど……ナラテリアさん達にはちゃんと事情とか、クランについての話をしたうえで、承諾してもらって無理をしない範囲で任せるという事で」
「畏まりました。詳細については、私からお話しても?」
「はい。手間をかけますけど俺からよりはいい気がしますので、お願いします」

 なんとなく、俺から説明するとナラテリアさん達が絶対断れないような、そんな雰囲気を押し付けてしまう気がするからね。
 ……ヒルダさんにちょっと怯えていたようでもあるから、大きく変わらないかもしれないけど……その辺りはやんわりと伝えてくれるって信じておこう。

「そう言えば結局、例の八人は全員りっくんが?」
「いえ、八人のうち三人です。他の五人はそのままお世話係にと……陛下の予想は外れましたね」
「くっ! りっくんなら私の期待に応えてくれると思ったのに! 薄情なりっくんねぇ……」
「いや薄情って言われても……」

 悔しそうな姉さんだけど、さすがに八人全員を引き抜くような形にはできないからね。
 ちゃんと王城で雇われているんだから、本来なら俺が何か口を出さなくても良かったわけだし。
 三人でも、やりすぎたと思うくらいなのになぁ……まぁ八人の行く当てがなく、働き口がないとかだったら別だっただろうけどね。

「とにかく、ワイバーンから剥ぎ取った物については、ナラテリアさん達が頷いてくれたらそっ地に任せるよ。――あ、ヒルダさん。俺の利益とかはあまり考えなくていい、と二人には伝えていてください」
「そちらも畏まりました。陛下が、どれだけリク様の利益の前に屈するかも見て見たかったのですが……」
「屈したら、国の予算が圧迫されて他の部分で割を食ってしまうわよヒルダ……」

 ヒルダさんの冗談に、こめかみを抑える姉さん。
 さすがに国益を損なうとまでは言わなくても、厳しいからこうして話を持ち掛けているんだろうし、俺にとっての利益なんてほぼなくて構わない。
 まぁどちらかというとこれはワイバーンに還元する予定だし、ワイバーンの利益となるのかな?
 その辺りは、値引きした代わりに姉さん達国側に、特別扱いじゃないけど優遇してもらうようにしてもらえばいいか。

 ワイバーンができるだけ快適に過ごせるようにってね。
 そうして、ワイバーンに関する話が一応はまとまり、その後は和やかに夕食が進んだ……わけではなかった。
 カーリンさんの事、というかアルケニーの素材を使った調理道具を作る話をしたからだ。
 いつ作ってくれる人を探すかの話の中で、早い方がいいと言っていたカーリンさんの話をすると、マックスさんを近くで見ていたモニカさんが賛同した――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...