1,763 / 1,903
外部からより内部で固める考えを
しおりを挟むヒルダさんから視線を向けられたミラルカさんは、それに気づいて体をビクッと大きく震わせていたけど、それはともかく。
ミラルカさんを冒険者としてスカウトした事までは、さすがにヒルダさんや姉さんの思惑通りではなかったみたいだね。
本来なら、三人くらいを事務員みたいな形で雇う事を想定していたのかもしれない。
当初の予想より、クランの規模が大きくなりそうだから三人でも足りないくらいだろうし、それこそ場合によっては、ここにいる八人全員をって事も考えていたりした可能性もあるか。
「さっきヒルダさんも言っていたように、本人が一番望む形で……望んでいるかな? と思う範囲で考えましたから」
「さすがはリク様です。陛下は八人全員をそちらに、と予想していましたが外れましたね」
「ははは……さすがにそれは」
もしかしたらそうかも? と考えていたら本当にそんな予想をしていたのか姉さん……。
いくら俺でも、王城で雇った形の八人全員を引き抜くなんて豪胆な事はできないよ。
ちなみに、後で聞いた話だけどヒルダさんは三人と予想していたみたいで、そのままズバリに近いんだけど、ミラルカさんが冒険者としてという事なのでちょっとズレていたとの事だ。
少しズルいけど、だからこそヒルダさんは俺やモニカさんに、ミラルカさんとナラテリアさん、カヤさんの三人に付いて詳しく教えてくれたんだろう。
結構な策略家かもしれない。
「それとですが……少々お耳を拝借」
「はい?」
再び、ミラルカさん達をそのままに、俺とモニカさんに内緒話を持ち掛けるヒルダさん。
さっきみたいに場所を移動してという程ではない。
また八人の女性に関して何かあるのかな? と思ったけど今度は違う内容だった。
「統括ギルドマスターのマティルデ様も、そちらの事は考えていたようで。ギルド職員を貸し出すよう考えているみたいです。ですが、マティルデ様は信頼できる人物と考えますが、その貸し出す職員まで全てが信頼できるとはわかりません」
「まぁ、それは確かに……」
俺達が考えていなかった事を、マティルデさんは考えていたのか……さすがに、冒険者ギルドのしかも統括ギルドマスターという大きめの組織をまとめている人なだけはあるってところかな。
マティルデさんの事だから、信頼のおけない人を貸し出したりはしないだろうけど、俺達が信頼できるか、本当に信頼に足る人物かはまた別だからね。
あくまで貸し出された人達は、俺が作るクランの所属ではなく冒険者ギルドの職員さんだし。
「あくまで別組織の人物ですので、それだけで内部を固めるのはまずいとの考えもあります。ですので、リク様の近くにはできる限り信頼できる者を置いた方がいいと、陛下はお考えです」
「成る程……」
帝国との事で、少し内通者に対して敏感になっているのかもしれないけど……国と冒険者ギルドとの協力関係がそれなりに上手くいっているとはいっても、全幅の信頼を置いているというわけでもないのかもしれない。
ともかく、貸し出された職員さんと自分で選んで雇った人員では、色々と違うって事だね。
まぁ今回選んで雇う可能性のある人達は、まだクランの目的などを話して承諾してくれるか、というのもあるけど、そもそもに姉さんやヒルダさんが送り込んだとも考えられる……。
内通や監視するためにとかではないとは思う。
基本的に俺が王城にいる時は、姉さんが部屋に来、皆と一緒に雑談するくらいだし。
今回は助けた女性八人の希望と、姉さんやヒルダさんの心配から、俺達に気付かせるためというタイミングがあってそう仕向けたんだろうね。
何はともあれ、まだ二人だし人数は足りないだろうから、他の人を雇う事など俺が探す事なんかも考えないとなぁ……。
「ではとりあえず、リク様からお話のあった三人は後々詳細を。また残りの五人に関してはある程度希望に沿える形でという事でよろしいでしょうか?」
「はい。まぁ五人がそのまま希望して、それからモニカさん達のお世話係が増えすぎ、という事にならなければですけど」
「そちらは問題ありません。リク様方の人数も順調に増えておりますので……では」
そう言って、ヒルダさんは八人の女性に一言二言伝えた後解散になる。
この後色々と話し合いたいだろうと思われる八人の女性を残して、俺達はもとの部屋に戻る……その前に。
「ミラルカさん、ナラテリアさん、カヤさん。それからえーっと、ヴァルニアさん、エッダさん、オクアファさん、テレジーヌさん、エレアさん。もう一度、皆さんを助けられた良かったです。これから、よろしくお願いしますね」
と、改めて八人に向き直ってお辞儀をする俺。
こういうのは、なんとなくちゃんと伝えておかないとなって思う。
横柄にじゃあよろしく、というだけで済ませられないのは性分なのかな?
「は、はい! リク様のお近くにいられるだけで光栄です!! また、助けて頂いてありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
「はい、それじゃあまた……」
俺以上に深々と、この部屋に入った時と同じように頭を下げる八人の女性達に苦笑して、モニカさんやヒルダさんと部屋を出る。
廊下に出て、パタンと扉が閉まった瞬間……中から黄色い歓声みたいなのが少し聞こえた。
「……少し、扉というか壁が薄いのかもしれませんね」
いや、王城の壁は分厚く、本来ならちょっとした声くらいは外に漏れる事はないんだけど……さすがに八人全員が大きく歓声を上げたっぽいから、廊下にまで聞こえてしまったんだろう。
「お恥ずかしい……後日、改めてあの者達には厳しく言っておきましょう」
「あーいえいえ。怒ったり叱ったりはしなくても……我慢できなかったんでしょうし」
この程度の事であの人達がヒルダさんに厳しく言われるのは、なんだかかわいそうだからね。
王城の使用人として教育されていたんだろうし、そういう意味ではヒルダさんくらい厳しくても、当然なのかもしれないけど……。
「まぁ、憧れのリク様にあんな事を言われてしまったらねぇ」
「モニカさんまで、様付けなんて止めてよ……」
「あらそう? でも少し疲れたわ。勝手に警戒して、気を張っていただけなんだけど……」
「警戒はともかく、俺もちょっと疲れたね。考えていなかったのが悪いんだけど、ものすごく頭を使った気がするよ」
あの場で急に考えた事だったからね……実際は、時間をもらってゆっくり考える事も出来たのかもしれないけど。
でも、自分の今後がどうなるのかとやきもきさせるよりは、良かったんじゃないかと思う。
「それにしても、リクさんは本当にリクさんよね?」
「えっと、それは一体どういう……? 俺は俺で当たり前だと思うけど……」
廊下を歩きながら、なんとなくホッとしているような複雑なような、よくわからない表情のモニカさんの言葉の意味がよくわからず、どういう事かと聞き返す。
センテの時みたいに意識が乗っ取られたわけではないし、そもそもこれまでの話からの脈絡があまりないような……?
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~
中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る
[ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る
[ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない
17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。
剣と魔法のファンタジーが広がる世界
そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに
そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。
すると世界は新たな顔を覗かせる。
この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。
これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。
なろうとカクヨムでも掲載してまぁす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる