上 下
1,751 / 1,903

話と休憩が終わって再び練習開始

しおりを挟む


「偶然ですけどね。ロータ君がいなかったら、もしかしたら森の野盗を見つけ出してなんて事もなかったかもしれませんし。でもまぁ、謙遜してばかりもなんなのでそれは受けます」

 感謝して欲しいからの行動ではなかったとはいえ、助け出した人達からすれば、そうもいかないんだろう。
 謙遜してばかりなのもあまり良くないかな、と考えて謝辞は受ける事にする。

「ありがとうございます。後は、希望者の中から数人程、リク様のお世話係に選んでもらえればと考えますが……」
「うーん、それはさすがに。まぁお世話されるのが俺なので、わがままを言うつもりはありませんけど……そういった人を選ぶ自身がありませんね」

 お世話をされる側で、選ぶなんて烏滸がましいとすら思うくらいだ。
 それだけ多くの人がというのは、素直にありがたいと思うけどね。

「でしたら、私共の方で選ばさせて頂きます」
「すみません、お願いします」

 こういった事は、俺じゃなく色々とわかっている人に選んでもらった方がいいだろう。
 人を見る目があるとはあまり思えないし、そもそもお世話してもらう人は誰が相応しいかなんて俺にはわからないから。
 ヒルダさんの仕事を増やして申し訳ないとは思うけどね。

「休憩のお邪魔をして申し訳ありませんでした。あの者達の事を、リク様に伝えておかないといけなかったもので。急いでいるわけではありませんが、早い方がよろしいかとも考えていました」
「いえ、お邪魔って程ではないですし、大丈夫ですよ。あ、そうだ。ヒルダさん」
「なんでしょうか?」
「その人達の中で、走るのが得意な人がいたらちょっとだけ……本当にちょっとだけでいいので、優先してあげて下さい」
「走るのが……その程度であれば、すぐにわかるはずですが……」

 ヒルダさんの表情と返答から、何故そんな事を優先するのか? という疑問を持っているのが伝わる。
 まぁ、当然だよね。
 走るのが得意かどうかなんて、誰かの侍女やメイドさんにはあまり関わりがなさそうだし。

「いえその、センテでそうだったんですけど……」

 そう前置きをして、理由をヒルダさんに伝える。
 ユノがちょっとうれしそうにしていたけど……要はユノの遊び相手みたいなものだ。
 実際の中身は違うはずなんだけど、見た目通りの小さな女の子、ちょっとやんちゃな女の子っぽく、センテでは宿の使用人さん達とかくれんぼや鬼ごっこみたいな遊びをしていたからね。
 どうせなら、気楽にそういう遊びができる人がいればいいかなって……さすがに、王城内でかくれんぼをしたり、走り回ったりは難しいと思うから、ワイバーン達がいる運動場の一部とか借りられればってところだけども。

「成る程、畏まりました。ユノ様も含めて、皆様の余暇を満足させるのもお世話のうちでしょう。そういった事が得意な者も調べて、選ぶようにいたします」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「よろしくなの!」

 遊び相手ができるとわかってか、ユノが元気な声と共にヒルダさんへと九十度のお辞儀。
 その姿は、さっきまでのスパルタ指導員や、創造神だという威厳は微塵もなく、ただの可愛らしい女の子にしか見えなかった。

「さて、それじゃあさっきの続きを……あ、ヒルダさん。今話した人達と会うのはいつになりそうですか?」
「そうですね、リク様がよろしければ本日の夕食前か夕食後か、といったところでしょうか。もし都合が悪ければ、明日以降でも構わないかと」

 特に夕食前後に予定があるわけでもないし、待ってもらうのも悪いから今日でいいかな。
 なら早い方にしよう。

「だったら、夕食前でお願いします」
「承りました。彼女たちにもそう伝えて心の準備をさせておきます」
「心の準備が必要なほど、大層なものでもありませんけど……はい」

 感謝を伝えてくれる、というだけで俺と会うのは別に心の準備とかそういう事は必要ないと思うんだけど……まぁいいか。
 この国では英雄とか言われてしまっているし、その人達からすれば助けてもらった相手。
 いざ会うとなると緊張するものなのかもしれないから。

「それじゃ、さっきのようにまた魔力を調節しながら放出して、練ってみるの。結界を作るまでは試そうとしなくていいの」
「わかった。結界がまだ作れない事はもうわかったし、無理はしないよう気を付けるよ」

 ヒルダさんのお茶を頂いて喉は潤ったし、そのおかげと話をしている間に、全身にあった疲労感はほぼなくなっている。
 まだ多少気怠い感じはあるけど、これも無理をした代償として我慢しよう……ずっと引きずるような程ではなく、いずれ取れるだろうしね。

「とりあえず次は、この場所全体を包むくらいの魔力量にするの。ちょっと多めなの」
「えーっと……」

 いまだに俺達を包み、ロジーナが手で触れているプニプニ結界は健在だ。
 さっきはその結界の内側に作ろうとするくらいの魔力量だったから、そこからどれだけ魔力を増やせばいいかを少し考える。
 フィリーナの作った結界の大きさは、訓練場のほんの一部。
 屋内とはいえ兵士さん達が百人単位で訓練できるような場所なのだから、広くて当然だね。

 しかも、天井が高いから空間という意味ではプニプニ結界の数倍どころか、数十倍くらいの大きさになりそうだ……なかなか難しいな。
 とりあえずさっきよりも多めに魔力を放出しつつ、練っていく中で調整した方がいいかな。
 ユノが把握してくれているようだし、もし足りなかったり多過ぎれば、厳しい言葉が飛んで来るだろうけど。

「ん……」
「できるだけ、一気に放出するんじゃなくて少しずつ放出していくの。そうすれば、魔力量の調節もしやすくなるはずなの。あと、できれば少しずつ放出しながら魔力を溜めて練っていくの」
「同時にやれってか。なかなか難しい注文だけど……やらないといけないね」

 魔力量を調節する事になれるのと同時に、魔力を練る作業をする事で、結界が作れるようになったら素早くできるようになるかもしれないしね。
 そう思い、ユノの言葉に従うようにしながら、しばらくの間集中して練習した。
 大きめの結界のための魔力放出の練習が終わった後は、逆に俺一人を包むくらいの小さな結界のための練習になったりも。
 大小様々な調節をする事で、俺が魔力放出量をコントロールするのに慣れさせようとかそういう事なんだろうな――。


「はぁ……動いていないのに、結構汗かいたな……」

 ユノ指導員の厳しい指導を終えて、一人で王城内の廊下を歩く。
 あ、違った……頭にエルサがくっ付いているから、完全に一人というわけではないか。
 フィリーナは大量のクォンツァイタに魔力が充填されたと、ホクホク顔で研究室へ。
 運ぶのも大変な量があったけど、そこは王城の人にも手伝ってもらうらしい。

 ユノやロジーナは、レッタさんと一緒に大浴場へ行っている……気に入ったらしい。
 ともあれそういうわけで、練習を終えてエルサと俺だけになったわけだけど……。

「やっぱり、魔力を放出し続けていたからかなぁ? 無理して結界のイメージをした時とは違う疲れもあるし――」


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...