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リクが助け出した人達

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 センテから戻ってからは、モニカさん達も王城で過ごすようになったので、さすがにヒルダさん一人ではなく、ヒルダさんをチームリーダーみたいな感じにして、十人前後の使用人さんがいてくれるんだけどね。
 元々、俺のお世話もヒルダさんだけでなく、他の人もやってくれていたし。
 ともあれ、ヒルダさんが淹れてくれたんだろう、ドリンクピッチャーから注がれたお茶の入ったカップを受け取りつつ話を聞いてみると。
 行ったり来たりしているフィリーナと会って、飲み物を欲しがっていると知って用意してくれたんだとか。

 俺が魔力調節をしている時も、魔力蓄積させるクォンツァイタの追加を取りに行って、王城勤めのメイドさん達とかにも手伝ってもらっていたからね、ヒルダさんが気になってフィリーナの所に行ったのかもしれない。
 休憩していても良かったし、わざわざお茶じゃなくても水で良かったんだけど……せっかくだからと味わって飲む事にする。
 相変わらずという言葉が正しいのかわからないけど、やっぱりヒルダさんの淹れてくれるお茶は美味しくて落ち着くなぁ。
 疲労感で満たされていた体に染み渡る。
 
「今は休憩中のようですが……リク様、少々よろしいでしょうか?」
「喉が渇いたので、ちょっとだけですけどね。えーっと、まだやらないといけない事はあるんですけど……」

 お茶を持ってきてくれただけかと思ったら、ヒルダさんからも何か用があるらしい。
 とりあえず、今の指導員になってくれているユノの方を見て窺う。

「急いでやらなきゃいけないわけじゃないから、ちょっとくらいいいの」
「だそうです。何かありましたか?」

 スパルタな傾向のあるユノ指導員だけど、さすがに余裕は持たせてくれるようだ。
 ならばとヒルダさんからの用を聞く事にする。

「ありがとうございます。以前、リク様が助けた者達の事を覚えておいででしょうか?」
「えーっと……?」

 助けた人って、いつの話だろう?
 直接的にではなく、街などに迫る魔物を倒して助けた人達、というのもいるから誰の事かわからない。
 者達、と言っているからアメリさんの事じゃないだろうし……アメリさんだったら、名前を出していると思うからね。

「シュタウヴィンヴァー子爵領へ行く際、森に潜んでいた野盗から助けた者達の事です」
「あぁ、そういえば!」

 結構前の事だから、すっかり忘れていたけど……そう言えば、ロータ君が王都に来る際に襲い掛かった野盗達に捕まっていた人達がいたんだった。
 どこから連れて来られたのかとかはわからないけど、女性ばかりで俺が夜な夜な一人で野盗のアジトを襲撃、って言うと人聞き悪いけど、アジトを潰した際に助け出したんだったね。
 助けた後は、後から合流した王都の兵士さん達に引き渡して保護してもらっていたはず。
 その人達の事か……確か、王城で働かせるとかそういう話を前に聞いただけになっていたと思うけど。

「あの者らは、野盗に攫われ帝国へと売り飛ばされようとしていたようですが……」
「帝国って……そんな事まで」

 それはつまり、野盗が直接かどうかはともかく帝国との繋がりを持っていたって事になる。
 もしかしたらあの野盗自体が、帝国の手の物って可能性もあるか。
 帝国はアテトリア王国の国民を攫って、何をしようと……。

「って、まさか!?」
「おそらく、リク様の予想されている通りかと」

 ハッとなってヒルダさんを見ると、神妙な頷きが帰って来た。
 最近、というか俺達が王都に戻って来る前から勃発していた問題……人を爆発させて破壊工作。
 要は人間爆弾という、人道の欠片もない許されない行為だけど。
 その実験台、もしくは研究などに使うためってところか……。

 だとしたらもしかして、冒険者ギルドの建物が破壊された爆発とか、王国内で他に起こっている破壊工作に使われたのも、同じアテトリア王国の人かもしれない。
 レッタさんやアンリさんなどの例もあるから、帝国内の国民の可能性がないわけではないけど。

「ますます、帝国をこのままにはしちゃいけないって思いますね」
「はい。それで、その者達なのですが今は心身共に健康に過ごしています」
「そうですか、それは良かった」
「存外に、想像しうる女性に対するひどい扱いはされていなかったようで……野盗に対して言うのもおかしな話ですが、紳士的だったのでしょう。まぁ、あくまでそれは攫ってきた人間にしてはというだけですが」
「……それはちょっと、良かったと言いたいけど言えない感じですね」

 心身共に健康というなら、体を強く傷つけられたり、心に深い傷を負わされたりと言った扱いはなかったんだろう。
 そこはホッと一安心できる話だ。
 ただ攫われているのだから、扱いについては良かったとも言いにくい。
 帝国に引き渡された後どうなるかとか、想像でしかないけど酷い事しか思い浮かばないし。

「ただ以前にも話しましたが、攫われる経緯で大半の者が身寄りを失くしておりまして。そういった者は、念のための身辺調査や本人の資質、聞き取りなどにもよりますが、王城にて雇い入れています」
「はい、それは確かに聞いています」

 確か、経緯に違いはあれどヒルダさんも似たように、魔物に襲われて身寄りを失くし、姉さんが引き取って侍女にしたらしい。
 それと同じように、今回も希望する人……さすがに全員かはわからないけど、一部を雇ったって事なんだろう。

「その雇い入れた者達が、ようやく教育を終えて仕事の一部を任せられるようになったのです。その際、できればリク様のお世話おしたいと申し出ておりまして……まだまだ未熟ですので、リク様にはご迷惑になる可能性がと留めているのですが」
「えっと……俺の世話、ですか? んー、細かい事は気にしないですし、極論お茶をこぼしたり、洗濯で服が少し破れるくらいなら気にしませんし、未熟ならなおさらちょっとした事で怒ったりはしないですし、それはいいんですけど……」

 何せ、お世話されている事自体が、ありがたいの一言に尽きるんだ。
 俺は貴族でもないし、偉そうにするつもりは全くないので、ちょっとした粗相程度なら問題ない。
 ある意味、いきなり最高権力者の姉さんとか、王国の貴族相手とかよりもやりやすいし、実践の場として悪くないかも。
 ヒルダさんもいてくれるから、よっぽどの事なんて起こらないだろうし。

「リク様ならそう仰ると思っておりましたが……いかんせん、人数が多く。このところ、王城内も人手が足りなくなってきている部分もありますし、そちらに回したいのです」
「成る程……それで、俺はどうすれば? さすがに希望している人全員にお世話してもらうってわけにはいかないでしょうし……」

 王城内はこの先の準備のために、全体が少し慌ただしい状況で、兵士さん達も含めて皆忙しそうにしている。
 だからそちらに人手を回したいというヒルダさんの言う事もわかるんだけど……俺はどうしたら?

「希望する全員が、野盗の手から救い出して下さった事をリク様に感謝したいと。ですのでリク様には、その物達の謝辞を受け取って欲しいのです」

 つまりヒルダさんは、その人達が感謝をしたいから会って欲しいと言いたいんだろう――。


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