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魔力放出量の調整に苦戦

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「俺の魔力量だからできるって事みたいだけど……具体的には?」
「さっきフィリーナがやった事と同じようにするの。魔力を放出して、それを広げていくの」
「成る程……」

 魔力の放出という事なら、昨日のゴブリン戦でもやっていたからね。
 ユノ達には噴射とか言われたけど……とりあえずやる事がそれなら、俺にもできそうだ。
 その後の固定化とかはできる自信がないけど。

 とにかく昨日と同じように、自分自身の魔力に意識を向けて……よし、今日も当然ながら体を分厚く覆う魔力があるね。
 それを霧散させて……。

「あ、リクの体を覆っている魔力は使っちゃだめなの。それ以外で……体の中から純粋な魔力を出すの」
「え、あ、そうなんだ……」

 手っ取り早く体を覆っている魔力を霧散させて利用しようとしたら、ユノに止められてしまった。
 体内から魔力を出すより、既に外に出ている魔力だから楽だと思ったんだけど、いけないみたいだ。

「一度外に出た魔力は、それが滲み出た、漏れ出たものでも純粋な魔力とは言えなくなっているの。ほんの少しでも、なにかに変換されていたり、外にある魔力に干渉しているからなの。それじゃ、結界用の魔力には使えないの」
「まっさらな魔力が必要って事か……」

 まぁ、漏れ出るくらいだから魔力は有り余っているし、魔法を使う時に似た集中だったり体内から放出させるという手間があるくらいで、できない事じゃないからいいけど。
 とりあえずユノに言われた通り、自分の体内にある魔力を外へと促す。
 魔法を使うイメージをすると、ノイズが走って邪魔になるからできるだけ頭の中は空っぽにしながらだけど……手順としては魔法を使う時に何度もやっているから、特に問題ない。

「きゃっ!」
「リク、リク! ちょっと魔力を出し過ぎなの!」
「あ、ごめん……」

 特に問題ない、と思っていたら問題だらけだったらしい。
 俺が放出した魔力は無軌道に周囲へと広がり、変換もさせていないから無色透明で、誰かが触れる事なんてできないものなのに、俺の周りにいるユノやフィリーナに大きな圧のようなものをかけてしまったみたいだ。
 フィリーナなんて尻餅をついちゃっているし……謝りつつ、立ち上がるのに手を貸しておく。

「さっきのフィリーナと同じようにって言ったの! 何も考えずに魔力を放出……噴射するだけじゃ駄目なの!」
「む、難しいな……」

 また噴射って言われてしまったけど、やり過ぎて大量の魔力を放出させてしまったのだから、言い返せない。
 頭を空っぽにしすぎたのが駄目だったのかもしれない。
 最低限、放出する魔力量の調整とか、魔力をまとめるくらいは考えないといけないか……さっきの魔力は、無色透明のまま自然の魔力へと融けて行ったし。
 これじゃ、結界にするなんてできないだろう。

「魔力を練るのは今までもやっていたのだわ。それと同じように、ひとまず自分の周りでそれをやってみるのだわ。あと、私は避難しておくのだわ~」

 そう言って、危険を感じたのかなんなのか……俺の頭を離れたエルサが、レッタさんが開けたフィリーナの結界、プニプニ結界の穴を通って外側に行った。
 床に転がって毛づくろいとか始めているし。
 犬、ならぬ猫かと。

「ぐぬぬ……はぁ。でもやるしかないか。えっと……」

 頭からエルサのモフモフが離れた寂寥感を振り払いつつ、アドバイスに従い少しずつ体内から魔力を放出。
 それ共に、練って広がり過ぎないように、そして濃密な魔力にしていく……。

「……可視化された魔力で、リクの姿が見えないのだけど。クォンツァイタがないのに、個人でこれだけできるなんて……まぁリクだからわかってはいたけど、それでも目の前で見ると驚きしかないわね」

 俺からも、自分の魔力の外側がほとんど見えなくなっているけど……フィリーナは魔力を視る目を持っているから、特に俺の姿が見えなくなってしまっているんだろう。

「リク、それじゃまだまだ魔力が多すぎるの! 結界に使っていた魔力がどれくらいだったか、思い出すの」
「うーん……これでもやり過ぎなのか。えーっと、とりあえずフィリーナの張ったプニプニ結界の内側を覆うようなくらいだとすると……」
「何よプニプニ結界って。いえ、確かに触れた感触はその通りだから、否定はできないけど。不本意だわ……」

 フィリーナが悔しそうにしているけど、それはともかく。
 まだまだ多過ぎるらしい魔力を調整しつつ、以前使っていた結界に消費する魔力を思い出す。
 とはいえ、あの頃は魔力自体をそこまで意識していなかった、体内の魔力に深く意識を向けていなかったから、どれだけ魔力を消費していたかはっきりとはわからないけど。
 でも、大体これくらいかな? と、結界の規模と魔力消費を計算して、調整していく。

「まだ多過ぎるの! リクはこの場所を魔力溜まりにでもしたいの? もっと魔力放出を絞るようにするの!」
「えーっと……こんな感じ、かな?」

 計算して以前の結界に使った魔力消費くらい、を放出しようとしてもまだ多いらしい。
 俺が考えているよりも、結界は魔力を消費していなかったのかもしれない……そう思いながら、魔力の放出量を調節。
 かなり難しく感じたけど、水を出すホースの口を絞るような、魔力の放出する出力を絞るような感覚で放出魔力を減らしていく。

「少なすぎるの! これじゃ薄っぺらい結界ができるかもわからないの!」
「今度はそっち!? くそう……絶対にちょうどいい魔力に調整してやる!」

 鬼コーチのようになったユノの指導の下、少なすぎた魔力の放出を増やす。
 増やそうとすれば多過ぎて、減らそうとすれば少な過ぎと怒られ、中々ちょうどいいくらいの魔力が定まらない……。
 自分が放出して練った魔力は可視化され、ユノ達の姿をほとんど見えなくしてしまっているけど、ちらりと見えた隙間からは、いつの間にか戻って来たレッタさんから受け取った飲み物を、ロジーナが優雅に飲みつつこちらには呆れた顔を向けているようだった。
 ぐぬぬ……慣れていないんだから仕方ないじゃないか、なんて言い訳が出て来そうだったけど、ユノの叱咤がそれを許さない。

 ユノって普段はのほほんとしているのに、こういう時は結構厳しいんだよなぁ。
 俺に対してとかではなく、次善の一手を兵士さん達に教えている時とかもそうだったし。

「こんな魔力を延々と放出されたら、この後どうなるかわからないし……なんとなくもったいない気がするから、クォンツァイタに蓄積させましょ」

 ほとんど見えない可視化された魔力の外側から、フィリーナの声が聞こえてくる。
 チラッとこちらも隙間から見てみると、フィリーナが先程プニプニ結界を作った際に使用したクォンツァイタを、俺の周囲から少し離れた場所に置いていた。
 ……魔力を無駄にするよりはいいと思うんだけど、そうやって蓄積させる事もできるんだ。
 元々は、クォンツァイタを手に持って魔力を注ぐ感じだったはずだけど……俺の知らないうちに改良したのかもしれないね。

 そもそも鉱石として鉱山にあるクォンツァイタは、掘り出してそのままの状態なら、自然の魔力などを少しずつ取り込んで、蓄積させていくようだったから、元来の性質を利用しているとも言えるかな――。


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