上 下
1,728 / 1,903

落下中の人を蹴るのは危険なのでやめましょう

しおりを挟む


 ――高さ約十メートルから飛び降りる。
 日本にいた時なら考えられない事だけど、今は少し身が縮む思いをするくらいでなんともない。
 アマリーラさん達も、もう少し低かったとは思うけどミタウルスに向かって飛び降りていたしね。
 まぁあちらは、落ちる勢いのままミタウルスに斬りかかる事で、着地の衝撃を和らげたようでもあるけど。

 ゴブリン相手にそれは……人間よりも小柄な魔物だから、ちょっと難しそうだ。
 数は大体五十前後でワラワラといるんだけどね……。

「何度か経験はあるけど、やっぱり空から落ちる時の姿勢の制御って結構難しいよね……」
「でも楽しいの!」

 喜んでいる様子のユノはともかく、一応足から飛び降りたけどほとんど自由落下の状態で、頭が下にならないようにするのは難しい。
 そんな事を言っている間にも、グングンと地上が狭まって来て……。

「このまま、ゴブリンの集団の端に着地後、すぐに戦闘開始……って、えぇぇぇぇ!?」
「ちょっとあっちから囲まれつつ戦って来てちょうだい。そっちの方が色々とわかりやすいから、ねっ!!」

 目指す落下地点、ゴブリンの集団の北端……モニカさん達が戦うオークのいる方とは逆の場所。
 そこを目指して着地に備えようとした瞬間、空中でロジーナに蹴られた。
 空を飛べるわけでもなく、ただ落下している俺はその蹴られた勢いで目標地点を見失い、そのままゴブリンの集団中心部付近へ……。

「ロジーナ! なんて事を……って、文句を言っている場合じゃないっ!!」

 なんとか蹴られた方、ロジーナへ顔を向けたけど、あちらは素知らぬ顔で足から真っ直ぐ……なぜか腕を組んだ格好で落ちていくのが見えただけだった。
 何か言いたいけど、文句や抗議をしている余裕はなく、そのまま背中からゴブリンの集団へ突っ込む俺。
 何体か、ゴブリンを巻き込んだんだろう……背中に柔らかい何かに当たる衝撃と、直後に来る地面の硬い感触。

「っ! くはっ!」

 さすがに、防御姿勢すら取れず背中からだったので、一瞬息が詰まってしまう。
 しかしそんな俺に息を整えるような余裕はないようで、日を遮るように地面に転がった俺へと差す影……。

「GIGI! GIGI!」
「GIIIGIGI!!」
「っとぉ! 危ないなぁ!」

 周囲を囲むゴブリン達が、地面に背中から激突した俺に対して、それぞれ手に持った武器を振り下ろすところだった。
 ほんの少しだけ痛む背中に力を入れて、慌てて起き上がるついでにゴブリンの頭上へ飛び上がって回避後、一体のゴブリンを踏みつけつつ着地。
 はぁ……多分叩かれるくらいで多少痛いかも暗いだろうけど、心臓に悪いなもう……。

「んっ! とぁ、ほあ! ちょっとロジーナ、降りてる途中で蹴り飛ばすなんて危ないじゃないか!」

 俺に向かって群がってくるゴブリン達、それぞれの武器などを振りかざしたりしているけど、そのゴブリン達の頭上をジャンプで飛び越えて……時々踏んで足場にさせてもらいつつ、ロジーナの降りた場所へ向かう。
 さっき言えなかった文句を言うためだけど、ロジーナもユノも無事に着地できたらしく、特に地面が抉れていたり、体のどこかをぶつけたり、服が汚れたりしているなんて事はなかった。
 俺なんて、背中を強打して地面にめり込みかけたし、多分服が結構汚れてるだろうなぁ……。

 ヒルダさんや王城の人達が洗濯をしてくれる……俺にはさせてくれないんだけど、汚れが大きいと大変なんだぞ、と日本にいる時一人で生活していた時期を思い出して内心ちょっとだけ憤慨。
 いや、俺相手だからやった事だし、本気で危ない目に遭わせようってわけじゃないだろうから、怒っているって程でもないんだけどね。

「何戻って来てるのよリク! ゴブリンに囲まれるようにわざと着地点をずらしてあげたのに、意味ないじゃない!」
「意味ないって、説明してくれないと何がしたいのかわからないじゃないか! 驚いたんだからな! って、ちょっと待ってて!」
「GIGYA!?」
「あれで驚いたって言うくらいで済むのって、リクだけだと思うの……結局倒す予定だけど、ちょっとだけゴブリンにも同情するの」

 言い返すロジーナに詰め寄りながらも、後ろからゴブリンが数体襲い掛かって来るのを、左手の鞘で殴り飛ばす。
 ユノが何か呟いているようだけど、そこは気にしない。
 適当に殴り飛ばしたゴブリン達はまぁ……ちょっと邪魔だったからだし、剣で斬るのも鞘で殴り飛ばすのもあまり変わらないよね。
 そう考える俺は、こういう状況に慣れたなぁと感じるけど。

 油断していると見られて、エアラハールさんに怒られるかもしれないけど、既にエルサで移動していてこちらはほとんど見えていないだろうから、多分大丈夫だ。
 鞘を使ったにわかの二刀流の件があるけど、これ以上説教をされる材料は増やしたくないからね。

「はぁ……! とにかく、ゴブリンの集団に飛び込んで! それから、私やユノが近くにいる事は気にせず……いえ、リクは少しくらい気にした方がいいし、訓練のうちに入るかもしれないけど……」
「そりゃ、元々ゴブリンには突っ込もうと考えていたけど、だからってわざわざ蹴り飛ばさなくて診いいじゃないか……まったく……」
「技術だとかなんだとか、私に協力を頼んだのはリクでしょ? いいから、細かい事は気にしない!」

 空から降りている途中に、蹴られて着地地点をずらされただけでなく、ゴブリンの集団の中央近くに落とされたのは細かい事かなぁ?

「リクが頼んだのはロジーナだけじゃないの。私にもなの!」
「話がややこしくなるから今は黙っていなさい、ユノ。――助言くらいはできるって言ったでしょ? あれの一環だと思いなさい」
「助言って……何も言っていないじゃないか、はぁ……まぁいいや。とりあえずゴブリンを倒さなきゃいけないし……」

 助言っていうのは、特に説明もなく人を蹴り飛ばす事じゃないと思うんだけど。
 でも今はロジーナを問い質している場合じゃない……俺達が落ちて来た事や、足場にした事などで驚いて集団全体としては動きが止まっていたのが、改めて動き始めたようだから。
 これまで全体の動きが鈍く、俺達に殺到しなかったのはもしかするとレッタさんの魔力誘導の影響で、少し鈍かったのもあったりするのかな。

 ともかくゴブリン達は俺やロジーナ、ユノに向かって来ているし、包囲しようとする動きもあるような気がする。
 これがエアラハールさんの言っていた、ゴブリンの集団行動ってところかな? 多分、上位個体みたいなのが動かしているのかもね。

「とにかくリクは、ただゴブリンに囲まれながら戦うだけでいいわ。あと一応、魔力を意識しておきなさい!」
「魔力を……それはどういう……って、あぁもう! 帰ったら詳しく聞くからなー!」
「まぁ、リク次第では私から言わなくてもある程度はわかるかもしれないけど、とにかく頑張りなさい」
「頑張るのー!」

 気楽に応援するユノの声を背中に受けつつ、飛んできた火の矢……というか魔法を剣で打ち払いつつ、ゴブリンの集団へと向かう――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

処理中です...