上 下
1,698 / 1,903

破壊工作と魔物の集団

しおりを挟む


「そういえば、マティルデさんがらしいって言ったのは?」
「巻き込まれなかったし、実際に見ていないからよ。破壊されたのは夜で、冒険者ギルドの建物内には私はいなかったから」
「不幸中の幸いと言うのかしら、どの建物破壊も夜に行われていて、人が少なかったわ。だから、巻き込まれた人は少ないの……いないとは言えないのだけどね」

 沈痛な表情になる姉さん達。
 周囲の建物もっていうんだから、そりゃ巻き込まれる人もいるのか……。
 爆発した人間というのがどうなったのかは、簡単に想像できる……想像したくはないけど。
 けど、爆破や建物の崩落などに巻き込まれた人は……くっそ!

「そして最悪な事に、同じ事はこの王都だけじゃないわ。王国の東側はほとんどないけど、西と南……とくに南西方面の街や村での被害多いわね」
「ヴェンツェルさんが、破壊工作を受けていると連絡を受けた……て言っていたけど、もしかして?」
「えぇ。さすがに、遠くにいるヴェンツェルに人間が爆発した、なんてはっきり書くのは憚られたし、一連の流れを考えると妨害される可能性もあったから、そう伝えるしかなかったんだけど」

 破壊工作とはつまり、人間を使った爆破によるものだったって事か。

「今、国内の冒険者ギルドと連絡を取って、冒険者や民間人の安否確認に奔走しているわ。私がここにいる理由の一つでもあるけど、この王城が今連絡の拠点になっているわ」
「緊急措置だけれど、兵士と冒険者を配置して守りつつ、出張所というか臨時の冒険者ギルドを王城の敷地内に設置もしてもいるのよ」
「だから、マティルデさんが王城内にいたんだね……成る程」
「王都全体でもあるけど、冒険者達も混乱しているから必要なのよ。破壊されたのが夜だったのもあって、いつでも動けるように王城に詰めているわ。いつでも動けるようにね」

 建物そのものがなくなったんだから、そりゃ混乱を鎮めるためにも緊急の駆け込み寺というか、簡易的であってもそういうのは必要だろうね。
 マティルデさんが王城にいる理由はよくわかった。
 というかそうか、王都に戻って来た時エルサから見下ろして違和感を感じたのは、大きな建物が破壊されたからだったんだろうね。
 建て替えとかではなく、単純に爆破されて吹き飛んだと……思わず、手に力が入るのを感じながら、俺の後悔に近い内容を吐露する。

「マティルデさんの事や、建物が破壊されたのはわかったけど……人間がっていうの、俺知っていたかもしれない……」
「え!?」

 俺の言葉に、姉さんが驚きの声を上げる。
 マティルデさんも、それからモニカさん達も声こそ出さなかったけど、姉さんと似たり寄ったりってところかな。
 まぁそりゃそうだよね、大変な事になっているのに知っているなんていまさら言われたら。

「チラッと、そういう話を聞いたんだ。でも、他にやる事もあって……あと、まだ完成していない研究みたいだったから、大丈夫かなって思ってたのもある、かも……」

 どうしてもっと早く、誰かに話して相談しなかったんだろう……という後悔が湧いてくる。
 聞き流していたわけじゃないんだけど、エクスブロジオンオーガはその特性を利用して爆発するくらいだったし、他の魔物も爆発させるようにはしていたけど、ツヴァイの研究所を潰したのもあって完成しないものだと思っていたのもあるかもしれない。
 それか、無意識のうちに考えないようにしていたのかも。
 あと、センテでもそうだけど……ここしばらくそんな魔物がいなかったというのもあるかな。

 ただ確実にこれは帝国が仕掛けているのだというのがわかった。
 全て繋がっているという事なんだろう……どうやって、人間が爆発させるような非道な事を実行できたのかはわからないけど。
 とりあえず、その辺りも含めて姉さん達に謝るように伝えた。

「まぁ、知っていても防げたかどうかはわからないから、あまり考えすぎないでいいわよりっくん。もちろん、知っていれば何かやりようはあったかもしれないけど……それが間に合ったかどうかはわからないわ」
「逆に警戒しすぎて、結局何もできなくなった可能性もあるから」
「……ありがとうございます」

 落ち込んでいるように見えたのかもしれない、姉さんだけでなくマティルデさんも慰めるように俺へと声をかけて来る。
 後悔しないわけじゃないし、全く気にしないわけじゃないけど……とりあえず今はたらればを考えている場合じゃないか。

「えーと……ごめん。今度からは些細な事でもできるだけ話して、皆と共有する」
「そうね。まぁどんな些細な事でもいいから教えてくれると嬉しいわ。りっくんの事だから、その些細な事でも大事に発展しそうだし……それはいいとして……マティルデ」
「ん? あ、えぇ。そうですね。えっと……リク、それから他の皆も。見知らぬ者もいるようだけど、実はこの話には続きがあるのよ」
「続き……まだ他にも何か?」

 これ以上、何があるんだろうか?
 他に破壊工作されているとかなら、さっき言っていたから続きとは言い難いし……。

「建物が吹き飛ばされる混乱の最中、王都周辺で魔物の集団がいくつか確認されたとの報告を受けたのよ、りっくん」
「魔物の集団? それって……」

 思わず、隣に座るモニカさんと顔を見合わせる。
 魔物集団なら、王都に戻る前にいくつか潰して……というか殲滅しながら戻って来たから、知っている事ではある。
 でもそれが王都の周辺って。

「正確には、アテトリア王国の各地ね。多いのは王都周辺だけど。リク達が戻って来る前に受けた報告をまとめると、単一の魔物による集団が点在するようになっているようね。強い魔物だけでなく弱い魔物も、そして本来群れない魔物も」
「えーっと、その事なんだけど……」

 マティルデさんが細くする言葉を受けて、姉さん達に俺達が戻って来る間の事を話す。
 アルケニーの集団と戦った事や、他の魔物の集団を発見した先から殲滅して、運べる素材などは採取して積んで戻って来た事なども含めてだ。
 妙に魔物の集団を見つけたし、何かあるのは感じていたけど……破壊工作とほぼ同時期に発生しているなら、やっぱり人為的に引き起こされているので間違いないだろうね。

「そう。さすがと言うべきかしら。ある程度でも、りっくん達が魔物の掃除をしてくれていたなら助かるわ」
「アルケニーの集団……野放しにしていたら、周囲の被害は甚大なものになっていたかもしれないな。素材も持って帰ってきているのなら、冒険者ギルドが責任を持って処理しよう」
「あ、それなんですけど……」

 破壊工作の件があるとはいえ、魔物の方もある程度王都で対処はしようとしているんだろう。
 でも、アルケニーがいたのは王都から結構離れた場所だったから、なんとかするまでに近くにある村などはもしかしたら壊滅するなんて事もあったかもしれないからね。
 発見して殲滅できてよかったと思う……あれ以外にも別の場所に別の魔物がまだいたりするんだろうけど。
 それはともかく、素材の話になったのでアルケニーの足の刃については、カーリンさんが料理道具のために使わせて欲しいというのを伝えた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...