上 下
1,689 / 1,903

アルケニーの足で料理道具が充実

しおりを挟む


「さてと……それじゃ随分と遅くなっちゃったけど、出発しよう!」
「了解したのだわー!」

 全ての作業を終え、少しだけ狭くなったエルサの背中に改めて乗って、皆の準備がそれぞれで終わったのを確認して、再び王都へと出発。
 アルケニーとの戦闘、身綺麗にする、倒したアルケニーの処理などで、考えていたよりかなり時間が経ってしまっているから、少し急がないといけないかな。

「到着は完全に日が沈んでから、とかかなぁ。まぁ王都の空を飛ぶと騒がしてしまうかもだし、暗い方が城下町の人達に見られる事が少なくていいのかもしれない、かな?」

 なんて一人で呟く。
 予定では、日が沈む前には到着するようにと考えていたんだけど……ちょっと難しそうだ。
 一緒に飛んでいるワイバーンを無視して、エルサが速度を出せば可能だろうけど、それはさすがにね。
 そんな事を考えている俺に、布に包まれているアルケニーの足の刃をツンツンしていたカーリンさんが、四つん這いで移動してこちらに来た……何か言いたい事があるようだ。

「リク様……その、あちらにあるアルケニーの足ですか? あれの事なんですけど」
「アルケニーの足が、どうかしたんですか?」
「いえその、私が知っているのはアラクネの足なのですけど、多分同じ物……上位の素材だと考えたら、もしかすると上質な料理道具が作れるのではないかと思いまして」
「料理道具?」

 アルケニーの足が、料理道具になる……?

「はい。その、私の父がやっているお店での事なんですけど……」

 カーリンさんが話すには、故郷で父親が営んでいる飲食店ではアラクネの足を素材にした鍋などの金物を使っていたんだとか。
 偶然、冒険者によってアラクネが倒され、その素材が出回ったから手に入れられたのだとも。
 まぁ刃物には使えないらしいから、包丁などは違うみたいだけど。

「成る程……それで、あのアルケニーの足ならもしかして? って事ですか?」
「はい。父の使っていた料理道具、特にアラクネの素材を使った物は素晴らしくて……」

 なんでも、フライパンみたいなのだと食材への火の通りがいいだとか美味しさを引き出す事、それに火力の調節すら気を使う難易度が下がるらしい。
 他にも寸動や圧力鍋みたいな物でも、他の一般的な物とは違って使いやすく、美味しい物が作りやすいとか。
 料理は獅子亭を手伝っている時に少し覚えたくらいで、詳しいと言う程じゃないからわからなかったけど……料理人にとっては凄く重宝する道具が作れるみたいだ。
 美味しい物が作れる可能性が広がるのなら、それに使うのも悪くないし、そのためにカーリンさんに来てもらっているんだから、断る理由はないよね。

「わかりました。それじゃ、全てはさすがに皆への分配がありますから無理ですが、一部は料理道具に使うようにしますね」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「これで、野営の時に使う調理道具も充実するわね!」

 と、俺が頷いた事に対して、手を取り合って喜ぶカーリンさんとモニカさん。
 話しているうちに、いつの間にかモニカさんも参加していた。
 まぁモニカさんは料理人じゃないけど、野営する時など外で簡単にでも料理をする時は、モニカさんがやってくれることが多いからね……いつも美味しい食事を、ありがとうございますってところだ。
 ちなみに、分配とカーリンさんに言ったが、これは討伐報酬や素材を冒険者ギルドで買い取ってもらった分を、戦闘に参加した人たちに分けるという事だね。

 まぁ兵士さん達は冒険者と同じように、ギルドからそのまま報酬を受け取るわけにはいかないようだけど、そこは色々と方法があるらしい。
 国に証明と共に収めて、それを国が兵士さん達に還元とか……多少目減りしてしまうけど、アテトリア王国では大体八から九割くらいは還元されるみたいで、推奨はされていないけど兵士さん達も魔物を倒すのに意欲的だったり、冒険者との協力体制を築いていたりとかするらしい。
 ともあれそんなわけで俺もアルケニーを倒しているし、カーリンさんが使う料理道具というのはクランで使われる事になる。

 だから、俺達の冒険者ギルドで買い取ってもらう素材の一部を、料理道具への加工に使えばいいだろう……加工する職人さんとかへのお願いはしないといけないけども。
 その辺りは、カーリンさんが探すか冒険者ギルドに仲介してもらうか、それか知り合いに頼むかで、王都に着いてから考えればいいかな。

「そういえばリクさん、ララさんにお願いできないかしら? ほら、エルサちゃんやユノちゃんが使ってる鞄を買ったお店の……」
「あぁ、ゲオル……じゃなかった、ララさんならお願いすると作ってくれるかもしれないね」

 鞄屋の主人であるララさん……本名はゲオルグらしいけど。
 ワイバーンの皮を鞄に加工できる人だし、俺達が客としてお店に行っている時に偶然だけど、鍛冶をしている職人さんからヘルプを頼まれていたっけ。
 鍛冶職人としても優秀なら、金物……鍋とかもお願いすれば作ってくれるかもしれない。
 珍しい魔物由来の素材とか好きそうだし。

「多分断られないと思うけど……ちょっとだけ、会うのは勇気がいるというかなんというか。いや、悪い人ではもちろんないし、そういう意味じゃないんだけどね?」
「あー、リクさんはそうかもしれないわね……」

 俺の言葉に、モニカさんが苦笑する。
 会いたくないというわけではないんだけど、ちょっとだけ俺を見る目が怪しいというか……。

「リク様が躊躇する人、そのララさん? という方は一体……」
「そうねぇ……リクさんを可愛いがりたそうな、筋骨隆々な女性らしき人……かしら?」
「らしきって、どういう事なのでしょうか……?」

 カーリンさんの疑問に、モニカさんがララさんの事を説明するけど、むしろもっとカーリンさんの疑問を深めてしまったみたいだ。
 一言でわかりやすく説明できなくもないけど、ある意味複雑でなんて言ったらいいのか困る人ではあるからね。

「まぁ、人によって色々な考えがあると言えばいいんですかね? えっと……」

 簡単に、見た目……というか体は男性だけど、心は別という事も含めてララさんの事を説明する。
 一応、本名のゲオルグという名も一緒に伝えておいたけど、本人はララさんと呼ぶように注意も含めて。
 もし本当にララさんに鍋などを作ってもらうなら、カーリンさんも会う事になるだろうからね。
 俺はどんな料理道具を作ってもらえばいいのかわからないし、カーリンさんが直接話した方がララさんもわかりやすいだろうし。

 もちろん、会うのに勇気がいるからと言ってカーリンさんに任せっきりにはせず、俺からもお願いするつもりだけどね。
 ただ、鍛冶の仕事はあまり受けたくないようでもあったし、あくまで断られないだろうというのは俺の考えなだけで、嫌がられないといいなぁと思う。
 そうだ、センテでカイツさんがワイバーンの皮を採取したのも持ってきているし、新しく採取するのはワイバーン達も喜ぶから、それを持って行けば引き受けてくれる確率も上がるかな。
 鍛冶的な加工はともかく、鞄として使ってもらえばいいだろうし――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...