1,686 / 1,903
エルサは臭いのがお嫌い
しおりを挟む「お疲れ様、リクさん」
「モニカさんこそ、お疲れ様。的確に魔法を使って燃やしてくれるから、糸をほとんど警戒しないで良くて助かったよ」
ちょっとだけアルケニーの背中の感触を足で確かめつつ、地面に落ちたからだから飛び降りて、迎えてくれるモニカさんと笑顔を交わす。
俺一人だけだったら、間違いなく糸に絡み取られて力任せに引き千切るとかだっただろうからね。
確実に倒すのにもっと時間がかかっていただろうし、モニカさんに援護してもらえるようお願いしていて良かったと本当に思う。
魔法はともかく、槍を存分に震えなかったモニカさんは少し消化不良かもしれないけど……あと、俺のせいで緑色の液体が顔や髪、服など所々に付着しているのも申し訳ない。
……魔法はよく失敗をしていたから、周囲の事を考えるのをできる限り癖にしていたけど、剣で戦う時も誰かが近くにいる時はもっと気を付けないといけないね。
「それにしても、皆結構汚れちゃったね……」
戦闘が終わった事を確認しつつ、エルサが待機している場所まで戻って皆と合流。
俺はアルケニーを斬り裂いていたから、近くで緑色の液体が飛び散って、いたる所に付着しているけど、他の人達も似たり寄ったりだった。
「仕方ないさ、アルケニーと戦う事自体が初めての者ばかりだからな。気持ち悪いが、それを気にしている余裕もそうない」
「私は、不覚にも頭からかぶってしまいました……うぅ……」
ソフィーは剣に付着した液体を拭き取りながら、ため息混じりにそういう……ソフィー自身も、緑色の液体でずぶ濡れに近い状態なのに、剣の手入れを優先しているみたいだ。
フィネさんは、言葉通り頭からバケツで水を被ったような状態で涙目になっている。
冒険者としては多少汚れる事にも慣れているだろうけど、それでもさすがに女性には辛いようだ。
俺も、今すぐお風呂に入りたくなっているし。
「えーと、怪我人とかは出ていない……ですかね?」
「はっ。ほんの少しかすり傷を負った者もいるようですが、大きな怪我をした者はいないようです」
「リク様の采配と、先制攻撃で意表を突く、さらに平原のアルケニ―だったからでしょうねぇ」
皆を、特に兵士さん達をまとめていたアマリーラさんによると、ちょっとした傷を負った人はいても、問題になる程の怪我をした人はいないみたいだ。
リネルトさんが言っている通り、洞窟などの狭い場所で罠を張って万全の態勢でこちらを待っているアルケニーだったら、もっと被害が出ていた可能性は高いかな。
黒い糸も、前もって設置するどころかアルケニーがこちらに向かって来ていたし、洞窟内とかの限定された空間じゃないのも合って、存分に魔法で燃やせたからね。
兵士さん達の方は、ワイバーンの鎧を貫く可能性のある足の刃、というのがあったからか鎧に所々小さな傷があったり、人によってはざっくりと鎧が切れている人もいたけど、怪我自体はほとんどなく皆問題なく立っている。
鎧の方は王都に戻ったら修理するとして……さすがにあっちも緑色の液体で汚れちゃってるね。
アマリーラさんとリネルトさんは、ほとんど汚れていないなぁ。
いや、アマリーラさんの方は服の端の方に少しだけ緑色の液体が付着しているようだけど……でも、リネルトさんは戦闘前と特に変わらない様子で、一切汚れていない。
聞けば、戦果としてアルケニーを仕留めた数は、アマリーラさんもリネルトさんもそれぞれ単独で遊撃のように動いてもらったのに、ソフィー達やリリーフラワーの班より多いくらいなのに。
これも、戦ったことのある経験や技術の差とかなのだろうか。
「くちゃいのだわ!! そのままで私に乗ろうとするのは許さないのだわ!!」
「確かに、ちょっと臭うかなぁ……」
戦闘が終わったため、エルサにも声をかけようと近付いたら、凄く嫌がられた。
異臭と言う程ではないんだけど、アルケニーと戦っていた時から液体のせいなのかなんなのか、そういった臭いは鼻をついていたから、俺達は慣れてしまったけど。
でも、鼻を抑えるエルサは嗅覚も人より優れているのもあるんだろう、カーリンさんを背中に乗せたままジリジリと後ろに下がった。
「うーん、このままってのが嫌なのは皆同じだけど……最低限拭き取るくらいしかできないかなぁ?」
川の近くだから洗い流す事もできそうだけど、女性もいるわけで……。
明るいうちから水浴びというのもちょっとな。
臭いの元でもある緑色の液体を、できる限り拭き取るくらいにしておくしかないんじゃないかな? そう思っていると……。
「それじゃ駄目なのだわ! このままじゃ乗せて飛んでやらないのだわ!」
「そう言われても……うーん」
困った……確かに臭い人を乗せるのはエルサ的に嫌なのはわかるけど、このままここで立ち往生しているわけにもいかないし……。
かといって、臭いを気にしていない様子のワイバーン達に乗ろうにも、エルサに人を乗せる事前提で定員いっぱいに近いから無理だ。
ちなみにワイバーン達も、喜んでアルケニーに体当たりなどをしていたためか、緑色の液体があちこちに付着している。
ワイバーンはその事自体、特に気にしえていない様子だから臭いを気にする質でもないんだろう。
「だったら、こうするのだわ! ホットウォーターウォッシュ! だわぁ!」
「ぶわ!?」
叫んだエルサが魔法を使ったらしい。
突然頭上から滝のような勢いで水……じゃない、お湯が全身にぶちまけられた。
「これで洗い流せばいいのだわ! さっさときれいにするのだわ!」
「ちょ、ちょぶぶぶぶ……! 勢いがぶぶ、つぼづぎるがらららら!!」
冷たい水じゃなくてお湯なのはありがたいけど、勢いが強すぎてまともに喋れないくらいだ。
やった事ないけど、滝行を彷彿とさせる……いやそれ以上の勢いで、頭を支えている首が少し痛い。
「ふぅ、はぁ……ようやく息ができる……」
しばらくしてお湯が収まり、ようやくまともに呼吸をして喋る事できるようになったね。
全身ずぶぬれなのは当然ながら、地面にも大きなお湯だまりができていた。
「これで、くちゃくなくなったのだわ。綺麗になったのだわ?」
「その代わり、ずぶ濡れだけどね……でもまぁ、確かに綺麗になったね」
ただのお湯ではなくエルサが何か仕込んでいたのか、ずぶ濡れでありながら石鹸で洗ったように、緑色の液体や戦闘での土汚れなども完全に取り去られており、さらに石鹸のようなほのかにいい香りが全身を包んでいた。
お湯自体に、石鹸みたいな何かが混じっていたのかもしれない。
洗うのに擦ったりなどもせず、全て洗い流せるのは不思議だ……もしかしたら喋れないどころか、呼吸すら怪しくなるあの勢いがあったからだろうか?
「エルサ、ものは相談なんだけど……俺だけじゃなく、皆にも今の魔法を使ってやってくれないか?」
これがあれば、汚れてしまった人達……フィネさんなども綺麗に洗い流せるはずだ。
女性が多いからか、不快そうに顔をしかめている人も多いからなぁ――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
転生最強ゴリラの異世界生活 娘も出来て子育てに忙しいです
ライカ
ファンタジー
高校生の青年は三年の始業式に遅刻し、慌てて通学路を走っているとフラフラと女性が赤信号の交差点に侵入するのが見え、慌てて女性を突き飛ばしたがトラックが青年に追突した
しかし青年が気がつけば周りは森、そして自分はゴリラ!?
この物語は不運にも異世界に転生した青年が何故かゴリラになり、そして娘も出来て子育てに忙しいが異世界を充実に過ごす物語である
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる