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エルサは臭いのがお嫌い

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「お疲れ様、リクさん」
「モニカさんこそ、お疲れ様。的確に魔法を使って燃やしてくれるから、糸をほとんど警戒しないで良くて助かったよ」

 ちょっとだけアルケニーの背中の感触を足で確かめつつ、地面に落ちたからだから飛び降りて、迎えてくれるモニカさんと笑顔を交わす。
 俺一人だけだったら、間違いなく糸に絡み取られて力任せに引き千切るとかだっただろうからね。
 確実に倒すのにもっと時間がかかっていただろうし、モニカさんに援護してもらえるようお願いしていて良かったと本当に思う。

 魔法はともかく、槍を存分に震えなかったモニカさんは少し消化不良かもしれないけど……あと、俺のせいで緑色の液体が顔や髪、服など所々に付着しているのも申し訳ない。
 ……魔法はよく失敗をしていたから、周囲の事を考えるのをできる限り癖にしていたけど、剣で戦う時も誰かが近くにいる時はもっと気を付けないといけないね。

「それにしても、皆結構汚れちゃったね……」

 戦闘が終わった事を確認しつつ、エルサが待機している場所まで戻って皆と合流。
 俺はアルケニーを斬り裂いていたから、近くで緑色の液体が飛び散って、いたる所に付着しているけど、他の人達も似たり寄ったりだった。

「仕方ないさ、アルケニーと戦う事自体が初めての者ばかりだからな。気持ち悪いが、それを気にしている余裕もそうない」
「私は、不覚にも頭からかぶってしまいました……うぅ……」

 ソフィーは剣に付着した液体を拭き取りながら、ため息混じりにそういう……ソフィー自身も、緑色の液体でずぶ濡れに近い状態なのに、剣の手入れを優先しているみたいだ。
 フィネさんは、言葉通り頭からバケツで水を被ったような状態で涙目になっている。
 冒険者としては多少汚れる事にも慣れているだろうけど、それでもさすがに女性には辛いようだ。
 俺も、今すぐお風呂に入りたくなっているし。

「えーと、怪我人とかは出ていない……ですかね?」
「はっ。ほんの少しかすり傷を負った者もいるようですが、大きな怪我をした者はいないようです」
「リク様の采配と、先制攻撃で意表を突く、さらに平原のアルケニ―だったからでしょうねぇ」

 皆を、特に兵士さん達をまとめていたアマリーラさんによると、ちょっとした傷を負った人はいても、問題になる程の怪我をした人はいないみたいだ。
 リネルトさんが言っている通り、洞窟などの狭い場所で罠を張って万全の態勢でこちらを待っているアルケニーだったら、もっと被害が出ていた可能性は高いかな。
 黒い糸も、前もって設置するどころかアルケニーがこちらに向かって来ていたし、洞窟内とかの限定された空間じゃないのも合って、存分に魔法で燃やせたからね。
 兵士さん達の方は、ワイバーンの鎧を貫く可能性のある足の刃、というのがあったからか鎧に所々小さな傷があったり、人によってはざっくりと鎧が切れている人もいたけど、怪我自体はほとんどなく皆問題なく立っている。

 鎧の方は王都に戻ったら修理するとして……さすがにあっちも緑色の液体で汚れちゃってるね。
 アマリーラさんとリネルトさんは、ほとんど汚れていないなぁ。
 いや、アマリーラさんの方は服の端の方に少しだけ緑色の液体が付着しているようだけど……でも、リネルトさんは戦闘前と特に変わらない様子で、一切汚れていない。
 聞けば、戦果としてアルケニーを仕留めた数は、アマリーラさんもリネルトさんもそれぞれ単独で遊撃のように動いてもらったのに、ソフィー達やリリーフラワーの班より多いくらいなのに。
 これも、戦ったことのある経験や技術の差とかなのだろうか。

「くちゃいのだわ!! そのままで私に乗ろうとするのは許さないのだわ!!」
「確かに、ちょっと臭うかなぁ……」

 戦闘が終わったため、エルサにも声をかけようと近付いたら、凄く嫌がられた。
 異臭と言う程ではないんだけど、アルケニーと戦っていた時から液体のせいなのかなんなのか、そういった臭いは鼻をついていたから、俺達は慣れてしまったけど。
 でも、鼻を抑えるエルサは嗅覚も人より優れているのもあるんだろう、カーリンさんを背中に乗せたままジリジリと後ろに下がった。

「うーん、このままってのが嫌なのは皆同じだけど……最低限拭き取るくらいしかできないかなぁ?」

 川の近くだから洗い流す事もできそうだけど、女性もいるわけで……。
 明るいうちから水浴びというのもちょっとな。
 臭いの元でもある緑色の液体を、できる限り拭き取るくらいにしておくしかないんじゃないかな? そう思っていると……。

「それじゃ駄目なのだわ! このままじゃ乗せて飛んでやらないのだわ!」
「そう言われても……うーん」

 困った……確かに臭い人を乗せるのはエルサ的に嫌なのはわかるけど、このままここで立ち往生しているわけにもいかないし……。
 かといって、臭いを気にしていない様子のワイバーン達に乗ろうにも、エルサに人を乗せる事前提で定員いっぱいに近いから無理だ。
 ちなみにワイバーン達も、喜んでアルケニーに体当たりなどをしていたためか、緑色の液体があちこちに付着している。
 ワイバーンはその事自体、特に気にしえていない様子だから臭いを気にする質でもないんだろう。

「だったら、こうするのだわ! ホットウォーターウォッシュ! だわぁ!」
「ぶわ!?」

 叫んだエルサが魔法を使ったらしい。
 突然頭上から滝のような勢いで水……じゃない、お湯が全身にぶちまけられた。

「これで洗い流せばいいのだわ! さっさときれいにするのだわ!」
「ちょ、ちょぶぶぶぶ……! 勢いがぶぶ、つぼづぎるがらららら!!」

 冷たい水じゃなくてお湯なのはありがたいけど、勢いが強すぎてまともに喋れないくらいだ。
 やった事ないけど、滝行を彷彿とさせる……いやそれ以上の勢いで、頭を支えている首が少し痛い。

「ふぅ、はぁ……ようやく息ができる……」

 しばらくしてお湯が収まり、ようやくまともに呼吸をして喋る事できるようになったね。
 全身ずぶぬれなのは当然ながら、地面にも大きなお湯だまりができていた。

「これで、くちゃくなくなったのだわ。綺麗になったのだわ?」
「その代わり、ずぶ濡れだけどね……でもまぁ、確かに綺麗になったね」

 ただのお湯ではなくエルサが何か仕込んでいたのか、ずぶ濡れでありながら石鹸で洗ったように、緑色の液体や戦闘での土汚れなども完全に取り去られており、さらに石鹸のようなほのかにいい香りが全身を包んでいた。
 お湯自体に、石鹸みたいな何かが混じっていたのかもしれない。
 洗うのに擦ったりなどもせず、全て洗い流せるのは不思議だ……もしかしたら喋れないどころか、呼吸すら怪しくなるあの勢いがあったからだろうか?

「エルサ、ものは相談なんだけど……俺だけじゃなく、皆にも今の魔法を使ってやってくれないか?」

 これがあれば、汚れてしまった人達……フィネさんなども綺麗に洗い流せるはずだ。
 女性が多いからか、不快そうに顔をしかめている人も多いからなぁ――。


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