上 下
1,683 / 1,903

アルケニーとの戦闘突入

しおりを挟む


 確か同行している王軍兵士さん達のうち、三十人がヴェンツェルさん、残り十人がマルクスさんの連れて来た王軍兵士さんが選ばれているんだったかな。
 マルクスさん側の王軍兵士さんは、センテでの戦いを経験しているからか、ソフィー達と同じように油断なく気負いもなく構えているみたいだね。
 ちなみにアルケニーを迎え撃つ準備で、皆にリネルトさんから聞いた情報やアマリーラさんからの話を聞きつつ、エルサに載せていた荷物の一部からそれぞれの鎧を着込んでいる。

 全員が青いワイバーンの鎧だ。
 確か……王軍の新兵さんには優先的に融通された鎧だけど、ある程度の実力者や隊長格の一部には配備されているんだったっけ。
 つまり、それだけヴェンツェルさんが選んで一足先に王都へ戻る事になった兵士さん達は、頼りになるって事でもある。
 まぁ、糸に絡め取られたら全身鎧で体の可動域が狭そうな兵士さん達は、軽装の俺達より身動きが難しくなりそうだけど。

 ……糸に絡まった鎧を脱げば、抜け出せるかも?
 いや、そもそも全身鎧を戦闘中に一人で簡単に脱げたりはしないか。
 なんて考えながら、次に視線を向けたのはアマリーラさん達の方。

「アルケニーを粉砕して、リク様に貢献をせねばな」
「暴れすぎないで下さいねぇ、アマリーラさん? リク様だけでなく、他の人達もいるんですからぁ」
「うぅむ、久しぶりに思う存分こいつを振るいたかったが……仕方ないか」
「それは森の中でやってましたよぉ、アマリーラさぁん」
「む、そうか? だが、耳障りな足音を消さねばな……」
「それには同意しますぅ。耳の奥にまとわりつくようなこの音、いつまでも聞いていたくないないですからねぇ」

 そう話している二人、というかアマリーラさんは大剣を片手で、まるでショートソードかのように軽々と振っている。
 小柄な体に背丈程の大剣をあんなに、やっぱり凄い膂力だなぁ……俺もできるだろうけど、うまく扱える気がしない。
 何はともあれ、アマリーラさんとリネルトさんは大丈夫だろう、Bランクのアルケニーに対して、二人はAランク相当の実力者だからね。

 むしろ、暴れるアマリーラさんに他の人達が巻き込まれないかの方が心配なくらいだ……森では木を薙ぎ倒していたし。
 ……俺も、人の事は言えないけど。

「リクさん、そろそろよ」
「うん……わかった」

 皆の様子を確認していた俺に、一歩後ろから声をかけて来るモニカさん。
 槍を持ち、睨むように見ている視線の先には、モニカさんが放った炎の壁が収まりつつある。
 さすが火に強いだけはあるのか、アルケニーの一部は人の腰くらいの高さになった炎の壁を乗り越えてこちらに来ようとしているのもいた。

「さっさとアルケニーを倒して、気持ち悪いのを終わらせるのだわ」
「み、皆様ご武運を!」

 さらに後ろの方から、というか俺達から数メートル離れた場所からエルサとカーリンさんから声を掛けられる。
 まぁエルサはともかく、カーリンさんはエルサの背中から見えるアルケニーの集団に、声が震えていた。
 非戦闘員だし、話は聞いていてもカーリンさんはヘルサルにいたからね。

 アルケニーの集団を見て怯えてしまっても仕方ないか。
 エルサの言う通り、さっさと倒して安心してもらうに限るね。

「……それじゃ、戦闘開始っ!」 
「えぇ!」

 後ろのモニカさん、それに他の皆に伝えるように大きな声で号令を出し、迫るアルケニーの集団……その中央めがけて飛び出す。
 後ろから、モニカさんを始めとした皆が応じる声を聞きながら、白い剣を抜き放つ。
 さぁ、ここからは一方的な蹂躙をさせてもらうよ……!

「せあぁっ!」

 一直線にアルケニーに突撃し、先頭のやつの体に白い剣を振り下ろす。
 一刀のもとに斬り裂かれたアルケニーが、体を二つ分けて動かなくなる。
 それとほぼ同時に、別の場所から人の声や武器を打ち付ける音などの戦闘音が響き始めた……皆も戦い始めたんだろう。
 アルケニーは、リネルトさん達の話し通り三メートル近い巨体と前面には人の顔があった。

「まずは一体。それにしても、顔っぽい何かってところなんだね……」

 人の顔と言っても、本当に人間の顔というわけではなく、蜘蛛の顔がいびつに変化して近い形になったという感じだ。
 瞬きをしない目、鼻はただ穴が開いているというくらいで、口は左右から曲線を描く牙が生えている。
 髪や耳はなく、なんとなく人っぽい、それらしく見えるだけという物のようだ。
 アルケニーによっての個性とも言うべきか、それぞれ男女っぽく顔が別れているようではあるけど……雌雄とかあるのかな?

「リクさん、横!」

 そんな事を考えている俺に、右横から斬り伏せたアルケニーとは別の個体が、俺に向かって足を釜のように振り下ろしてくるのを、モニカさんの声で気付いた。
 いけないいけない、戦闘に入ったのにアルケニーを見て考え込んでちゃいけないね……皆には油断しないようにって言ったのに。

「了解! ふっ!」

 モニカさんに応えるように、剣を上げて振り下ろされる足を受け止める。
 ガキッ! という金属と金属が合わさる音が響く。
 ……硬い刃のような足というのは聞いていたけど、金属質の足なのかな。

「せいやぁ! リクさん!」
「うん! はぁ!」

 足を受け止めている俺の横に入り込む影……モニカさんが、槍をしたから掬い上げるように振るい、アルケニーの足を弾く。
 アルケニーに感情どれだけあるのかは知らないけど、それに驚いたのか標的をすぐさまモニカさんに変えて、別の足を二本モニカさんに向けた。
 槍を振り上げて無防備なモニカさんを庇うように前に出て、振り下ろされる二本の足を横から白い剣を振るって斬り裂く。

「KI……SISISI……」

 口の牙を震わせつつ、漏れる音は驚きか笑いか。
 そのアルケニーの口が、さらに動いた瞬間……。

「させないわ! 同時に……フレイム!」
「さすがモニカさん! せいやぁっ!!」

 おそらく糸を吐こうとしたのだろう、それを先んじて読んでいたモニカさんが、槍と自身の魔法を同時に発動。
 一瞬だけ黒光する細い何かがアルケニーの口から出るのが見えた、口元には炎が広がり顔を包み糸らしきものと一緒に燃える。
 なおも抵抗しようと、無事な足やモニカさんに弾き足られた足を闇雲に俺達へと振り下ろすアルケニー……顔が燃えているからか、正面にいる俺達はよく見えていないようだ。
 それに対し、下から剣を振り上げて燃えている顔ごと体を真っ二つに斬り裂いた。

 ガシャン! という音と共に、振り上げていた足や俺の近くに振り下ろされた足、そしてアルケニーの体が地面に落ちる。
 白い剣のおかげで、ほとんど抵抗らしい抵抗がなく斬り裂けるけど、音を聞く限り足だけでなく外皮も結構硬いみたいだね。

「うげ、緑色の液体が飛び散って服に付いちゃった……」
「後で、ちゃんと洗い流さないとね……っ!」
「そうだね、っと。モニカさん!!」


 エルサが言っていたように、斬り裂いたアルケニーから飛び散る緑色の血のような液体。
 粘着性とかはないんだけど、嫌な臭いもしていて結構不快だ。
 それに顔をしかめながら、俺やモニカさんを狙った他のアルケニーから吐き出される何か……黒くて細い糸。
 それから逃れるようにモニカさんの手を引っ張って、少しだけ後ろに飛んで避けた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...