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アルケニーとの戦闘突入
しおりを挟む確か同行している王軍兵士さん達のうち、三十人がヴェンツェルさん、残り十人がマルクスさんの連れて来た王軍兵士さんが選ばれているんだったかな。
マルクスさん側の王軍兵士さんは、センテでの戦いを経験しているからか、ソフィー達と同じように油断なく気負いもなく構えているみたいだね。
ちなみにアルケニーを迎え撃つ準備で、皆にリネルトさんから聞いた情報やアマリーラさんからの話を聞きつつ、エルサに載せていた荷物の一部からそれぞれの鎧を着込んでいる。
全員が青いワイバーンの鎧だ。
確か……王軍の新兵さんには優先的に融通された鎧だけど、ある程度の実力者や隊長格の一部には配備されているんだったっけ。
つまり、それだけヴェンツェルさんが選んで一足先に王都へ戻る事になった兵士さん達は、頼りになるって事でもある。
まぁ、糸に絡め取られたら全身鎧で体の可動域が狭そうな兵士さん達は、軽装の俺達より身動きが難しくなりそうだけど。
……糸に絡まった鎧を脱げば、抜け出せるかも?
いや、そもそも全身鎧を戦闘中に一人で簡単に脱げたりはしないか。
なんて考えながら、次に視線を向けたのはアマリーラさん達の方。
「アルケニーを粉砕して、リク様に貢献をせねばな」
「暴れすぎないで下さいねぇ、アマリーラさん? リク様だけでなく、他の人達もいるんですからぁ」
「うぅむ、久しぶりに思う存分こいつを振るいたかったが……仕方ないか」
「それは森の中でやってましたよぉ、アマリーラさぁん」
「む、そうか? だが、耳障りな足音を消さねばな……」
「それには同意しますぅ。耳の奥にまとわりつくようなこの音、いつまでも聞いていたくないないですからねぇ」
そう話している二人、というかアマリーラさんは大剣を片手で、まるでショートソードかのように軽々と振っている。
小柄な体に背丈程の大剣をあんなに、やっぱり凄い膂力だなぁ……俺もできるだろうけど、うまく扱える気がしない。
何はともあれ、アマリーラさんとリネルトさんは大丈夫だろう、Bランクのアルケニーに対して、二人はAランク相当の実力者だからね。
むしろ、暴れるアマリーラさんに他の人達が巻き込まれないかの方が心配なくらいだ……森では木を薙ぎ倒していたし。
……俺も、人の事は言えないけど。
「リクさん、そろそろよ」
「うん……わかった」
皆の様子を確認していた俺に、一歩後ろから声をかけて来るモニカさん。
槍を持ち、睨むように見ている視線の先には、モニカさんが放った炎の壁が収まりつつある。
さすが火に強いだけはあるのか、アルケニーの一部は人の腰くらいの高さになった炎の壁を乗り越えてこちらに来ようとしているのもいた。
「さっさとアルケニーを倒して、気持ち悪いのを終わらせるのだわ」
「み、皆様ご武運を!」
さらに後ろの方から、というか俺達から数メートル離れた場所からエルサとカーリンさんから声を掛けられる。
まぁエルサはともかく、カーリンさんはエルサの背中から見えるアルケニーの集団に、声が震えていた。
非戦闘員だし、話は聞いていてもカーリンさんはヘルサルにいたからね。
アルケニーの集団を見て怯えてしまっても仕方ないか。
エルサの言う通り、さっさと倒して安心してもらうに限るね。
「……それじゃ、戦闘開始っ!」
「えぇ!」
後ろのモニカさん、それに他の皆に伝えるように大きな声で号令を出し、迫るアルケニーの集団……その中央めがけて飛び出す。
後ろから、モニカさんを始めとした皆が応じる声を聞きながら、白い剣を抜き放つ。
さぁ、ここからは一方的な蹂躙をさせてもらうよ……!
「せあぁっ!」
一直線にアルケニーに突撃し、先頭のやつの体に白い剣を振り下ろす。
一刀のもとに斬り裂かれたアルケニーが、体を二つ分けて動かなくなる。
それとほぼ同時に、別の場所から人の声や武器を打ち付ける音などの戦闘音が響き始めた……皆も戦い始めたんだろう。
アルケニーは、リネルトさん達の話し通り三メートル近い巨体と前面には人の顔があった。
「まずは一体。それにしても、顔っぽい何かってところなんだね……」
人の顔と言っても、本当に人間の顔というわけではなく、蜘蛛の顔がいびつに変化して近い形になったという感じだ。
瞬きをしない目、鼻はただ穴が開いているというくらいで、口は左右から曲線を描く牙が生えている。
髪や耳はなく、なんとなく人っぽい、それらしく見えるだけという物のようだ。
アルケニーによっての個性とも言うべきか、それぞれ男女っぽく顔が別れているようではあるけど……雌雄とかあるのかな?
「リクさん、横!」
そんな事を考えている俺に、右横から斬り伏せたアルケニーとは別の個体が、俺に向かって足を釜のように振り下ろしてくるのを、モニカさんの声で気付いた。
いけないいけない、戦闘に入ったのにアルケニーを見て考え込んでちゃいけないね……皆には油断しないようにって言ったのに。
「了解! ふっ!」
モニカさんに応えるように、剣を上げて振り下ろされる足を受け止める。
ガキッ! という金属と金属が合わさる音が響く。
……硬い刃のような足というのは聞いていたけど、金属質の足なのかな。
「せいやぁ! リクさん!」
「うん! はぁ!」
足を受け止めている俺の横に入り込む影……モニカさんが、槍をしたから掬い上げるように振るい、アルケニーの足を弾く。
アルケニーに感情どれだけあるのかは知らないけど、それに驚いたのか標的をすぐさまモニカさんに変えて、別の足を二本モニカさんに向けた。
槍を振り上げて無防備なモニカさんを庇うように前に出て、振り下ろされる二本の足を横から白い剣を振るって斬り裂く。
「KI……SISISI……」
口の牙を震わせつつ、漏れる音は驚きか笑いか。
そのアルケニーの口が、さらに動いた瞬間……。
「させないわ! 同時に……フレイム!」
「さすがモニカさん! せいやぁっ!!」
おそらく糸を吐こうとしたのだろう、それを先んじて読んでいたモニカさんが、槍と自身の魔法を同時に発動。
一瞬だけ黒光する細い何かがアルケニーの口から出るのが見えた、口元には炎が広がり顔を包み糸らしきものと一緒に燃える。
なおも抵抗しようと、無事な足やモニカさんに弾き足られた足を闇雲に俺達へと振り下ろすアルケニー……顔が燃えているからか、正面にいる俺達はよく見えていないようだ。
それに対し、下から剣を振り上げて燃えている顔ごと体を真っ二つに斬り裂いた。
ガシャン! という音と共に、振り上げていた足や俺の近くに振り下ろされた足、そしてアルケニーの体が地面に落ちる。
白い剣のおかげで、ほとんど抵抗らしい抵抗がなく斬り裂けるけど、音を聞く限り足だけでなく外皮も結構硬いみたいだね。
「うげ、緑色の液体が飛び散って服に付いちゃった……」
「後で、ちゃんと洗い流さないとね……っ!」
「そうだね、っと。モニカさん!!」
エルサが言っていたように、斬り裂いたアルケニーから飛び散る緑色の血のような液体。
粘着性とかはないんだけど、嫌な臭いもしていて結構不快だ。
それに顔をしかめながら、俺やモニカさんを狙った他のアルケニーから吐き出される何か……黒くて細い糸。
それから逃れるようにモニカさんの手を引っ張って、少しだけ後ろに飛んで避けた――。
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