上 下
1,671 / 1,903

お揃いのがま口財布

しおりを挟む


「あのねあのね、それでお婆ちゃんがね……」
「うんうん、そうなんですねぇ」
「……あのユノ殿、いやユノ様が……リネルトはよくこれまでと同じように話せるな」
「ユノが懐いたみたいですからね。少し尻尾の動きは気になりますけど、なんとかこれまでと大きく変わらない様子で話せているみたいですね」

 ヴェンツェルさんとの打ち合わせが終わってから、続々と獅子亭に集まる皆。
 とはいっても、ソフィーやアマリーラさん達はヴェンツェルさんと話す間、黙って聞いていてくれたから最初からいたんだけど。
 今は獅子亭の営業も終わり、マックスさん達も交えて全員で夕食をいただいているところだ。
 そんな中、ユノやロジーナ、それにレッタさん……主にユノだけど、無事に小物売りのお婆さんに会えたらしく、今はリネルトさんがその時の話をユノから聞いている。
 横でブスっとしている様子のロジーナは、ユノとお揃いのがま口財布を首から下げているから、お婆さんから買ったんだろう。

 アマリーラさんはユノの話をにこやかに聞いているリネルトに、少し戦慄しているようだけど……まぁ、レッタさんと話した時に同席していたのもあるんだろう。
 あれ以来、ユノがリネルトさんに懐いたみたいだね。
 色々と大きく、母性みたいなのやらおっとりした雰囲気を持っているから、見た目のままの子供っぽいふり……いや、素なのかもしれないけど、そんなユノは特に懐きやすいのかも。
 フィネさんとフィリーナ、それとレッタさんはユノとロジーナに振り回されたようで、少しお疲れ気味に椅子に座って夕食を取っている。

 ロジーナから離れないレッタさんはともかく、フィネさんとフィリーナにユノ達の事を任せてしまって申し訳ない
 結局二人共、ユノ達につきっきりだったみたいだし……まぁ、ヘルサルをある程度見て回るくらいはできたみたいだけども。
 その他、モニカさんやソフィー、マックスさんやマリーさん、獅子亭で働く人達などが思い思いに話していた。
 ちなみにヴェンツェルさんは、俺と同行する部下を選ぶため駐屯地へと戻った。

 まだ夕食を食べていないのに……と思ったけど、マックスさん曰くどうせ遅くになって腹が減ったと言って来るだろうと苦笑しながら、ヴェンツェルさん用の食事の下ごしらえなどは済ませてあるみたいだ。
 さすが、親友でお互いの事をよく知っている仲ってところかな。
 あと、ヴェンツェルさんがいたらまたアマリーラさんと大食い勝負をするかもしれないし、ある意味良かったのかもしれない。

「……なんで私がユノと同じものなんか」
「とても似合っておいでですよ、ロジーナ様」
「むぅ……でも、姉ぶっているユノが腹立たしいわ……」

 なんて、頬を膨らませてロジーナが不満をブツブツと漏らすのを、レッタさんがなだめていた。
 ロジーナがお婆さんの所で買ったがま口財布はどうやら、ユノがお金を払ったらしく、お揃いという事も含めてロジーナは不満なようだ。
 楽しそうに話すユノの話を聞くと、お婆さんにはロジーナがユノの妹と言われたらしく、それも不満なのかもしれないが。

 でも、本気で嫌な雰囲気を出していたり、不機嫌と言う程には見えないので、結構喜んでいるような気がいいないでもない。
 姉という部分ではなく、がま口財布の方だけど。

「と、そういえばレッタさん。すっごい今更ですけど、レッタさん達はお金を持っているんですか?」

 ふと気になって、頬を膨らませるロジーナを不審者と言えなくもない笑顔で見ているレッタさんに聞いてみる。
 レッタさん、疲れてそうだったしロジーナをなだめているはずなのに、むしろ嬉しそうだなぁ。
 それだけロジーナの色んな表情を見るのが楽しいんだ、と思っておこう。
 レッタさんの表情を男がやっていたら、完全に幼女を狙う不審者で事案になりかねないから、できるだけ自制して欲しいけども。

「私はある程度は。こちらの国に潜り込むのに、何も持たずに入るわけがないもの」
「それは確かにそうですね」

 無一文で潜入なんてあり得ないから、持っているのも当然か。
 生活費というか活動費というか、そいうのも必要だからね。

「ロジーナ様にもある程度渡してあるのだけど……足りなかったのよね。ユノちゃんの手前、私から受け取るのは……」
「見栄を張ろうと嫌がったわけですか。それで、どうしようかと悩んでいたあいだに、ユノがってわけですね」
「そうよ。ユノちゃんとお揃い、なんて言っているけど……街を歩くユノちゃんのあの財布に幾度か視線が行っていたのは、ロジーナ様を見つめる役目の私にはわかっていたのだけどね」

 とりあえず、ロジーナを見つめる役目なんてそんなものはない、という突っ込みは飲み込んでおくとして。
 保護者のようなレッタさんからお金をとなると、小遣いをもらうようにも見えるから、ロジーナはそんな所をユノに見せたくなかったんだろう……ツンデレというかなんというか、特にユノの前では見栄を張りたいようだし。
 でも表に出さないようにしていても財布は欲しい、どうしようと考えている間に、ユノが払ったってわけだな。
 ちなみに、がま口財布その物は、ユノとロジーナが姉妹と思ったお婆さんが気を利かせて、お揃いでどうか? と勧められたらしい。

 ロジーナにとっては、自分から欲しいとは言いだせなかっただろからある意味渡りに船だけど、ユノには借りを作る事にもなるし、お揃いだしで、素直に喜べないってだけみたいだ。
 なんにせよ、後でこっそりロジーナにもお小遣いを渡しておこう。
 ユノとか他の人に見られないように気を付けながら。
 ロジーナだって、経緯はどうあれセンテでの戦いで一緒に戦ってくれたわけだし、多くの魔物をたおしてくれたからね。

 レッタさんは……なんか年上の女性に俺からお小遣いを渡すのは、色々と問題になりそうなので何か考えておかないと。
 いつまでも資金がなくならないわけはないからね。

「それじゃあな、リク。毎度の事だが、リクに必要か疑問だが気をつけてな」
「はい、ありがとうございます。マックスさん」

 夕食を終え、獅子亭を離れる前にマックスさん達と別れの挨拶。
 しばらくは会えなくなるからね。
 というか、昨日はこの挨拶のために来たんだけど、結局今日になった。

「モニカの事を頼む。今回の事で成長を見られたが、まだまだな娘だ」
「もちろんです。とは言っても、俺の方がモニカさんに色々と頼ってしまういそうですけど……ははは」

 力強いマックスさんと握手をし、手の硬さを感じつつ託されたのを感じる。
 まぁ、今日の手続きの事やクランの事など、俺よりもモニカさんの方が頼りになるし、俺が頼ってしまう事の方が多そうで苦笑いが出てしまうけど――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...