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モニカさんの提案が採用

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「成る程……それならば、少々調整は必要ではありますが、こちらとしても助かります。迅速に、他の冒険者を呼び込む必要はありますが……まぁ、本音としては周辺の事情を知っている冒険者が減るのは、痛手にはなりますが仕方ありませんね。冒険者ギルドの理念として、あくまで所属する冒険者の意思を縛る事はできませんから」

 モニカさんの案を認めつつも、難しい表情になっているヤンさんは、心の中ではクラン所属を希望する冒険者を募らなければ良かった、と考えているのかもしれない。
 言外に、そんな事を考えている雰囲気を感じた。
 まぁ、ギルド側が選別したうえで一部の冒険者のみに話をしていれば、多くのCランク以上の冒険者が所属を希望するなんて事にならなかったかもしれないからなぁ。
 ただトレジウスさんを含めて、マックスさんと話した時に聞いている人達も多いし、それはそれで話をされなかった冒険者から言われそうだったり問題が全くないわけではないけど。

 ちなみに、理念というのは冒険者はそれぞれが自己判断での自由意思に基づいて行動すべし、という大昔に冒険者ギルドを設立した時以来続いている理念らしい。
 だからこそ基本的に冒険者ギルドは、率先して国同士の戦争などに関与しないけど、冒険者自身が参加しようと考えるなら、それを止めないし参加も自由らしい。
 良く言えば、一定以上の実力などがあれば縛られる事なく自由に行動できる。
 悪く言えば、どんな事があっても自己責任であり、生き死にに関してすらそうだという事だね。

 だからと言って、冒険者ギルドが無責任というわけではなく、ギルドに関係なく自由意思に基づいての行動ならともかく、ギルドからの依頼などが関係する場合であればある程度の責任を取ったり、補償をしたりもするみたいだけど。
 ……森から戻って来なかった、華麗なる一輪の花パーティの捜索をしたりとかね。

「でしたら、王都に移動する冒険者、しばらく残って後発で向かう冒険者は、こちらで選んでもよろしいでしょうか?」

 おそらく、俺と同じようにヤンさんの言外に発している気がしないでもない雰囲気を感じ取ったんだろう、エレノールさんがそう提案して俺に頭を下げた。
 ……多分だけど、そこで冒険者ギルドが主導権を握る事で、少しだけでもヘルサルやセンテに残って欲しい冒険者を選ぶとか、そんな考えがあるような気がする。
 まぁ、最終的に全員王都に来るのであれば問題ないし、どんな順番になっても俺達としては気にしない。

 というか、誰に来てもらって誰に残ってもらうとか、俺達には選べないという方が正しいかな……ある程度の情報はリストで見せてもらったけど、それだけだし。
 どういう基準で選べばいいかもわからないから、こういうことは専門家ともいえるヤンさんやエレノールさん達に任せた方がいいだろうからね。

「あ、はい。そうですね……どういう冒険者を選べばいいのか、は俺達もまだよくわかっていないのでそこはお任せします。――で、いいですよね、モニカさん?」
「そうね。明日王都へ出発する予定だし、私やリクさんが選んでいる余裕はないし、そういうのは任せた方がいいと思うわ」
「うん。マティルデさんに急かされてもいるから、王都へ戻る日を遅らせる事も難しそうだからね」

 と、いうわけで、王都へもできるだけ早く戻らないといけないようだから、任せられる部分は任せる事にした。

「では、準備が整い次第第一陣の冒険者を……そうですね、半数程を。そして、しばらく猶予を持たせてもらい、残っていた第二陣の冒険者を王都へと送り出します。もしかすると、第三陣にまで別れる事もあるかもしれませんが……」
「その辺りは任せます。できれば、クランの準備が終わるころには全員集まって欲しいですけど……」
「はい。王都の冒険者ギルドとも密に連絡を取り合い、進捗に合わせて対処させて頂きますよ」
「お願いします」

 なんとか、クランに所属希望の冒険者さん達に関しては、問題解決とは言わないけど妥協できるくらいに決まった。
 それはともかく……。

「無事決まって、ヤンさん達が困るような事に……いえ、困ってはいるんでしょうけど、なんとかなりそうな方策は決まりました。けど、そもそもなんでこんな事になったんでしょう? それに、熱烈にとも言っていましたし」

 熱烈って、一体どれだけ熱烈なのか見ていない俺にはわからないけど……わざわざヤンさんがそう言ったって事は、相当な様子だったのが窺える。

「それに関しては簡単です。リクさんがクランを作る事と、相手が帝国だからですね」
「俺はともかく、帝国だからですか?」
「はい。皆、センテでの戦いを経験した者ばかりです。ですので……」

 ヤンさんの話によると、センテを襲った魔物は帝国が放ったのだ、という説明がされたらしい。
 それはなくとも、どことなく噂みたいなので戦闘に参加したというか、センテにいた冒険者には帝国が関与しているという話はほんのり伝わっていたらしい。
 そこから、あくまでも冒険者さん達の間での推測だけど、ヘルサルにゴブリンが来た事や、王都、ルジナウムの事も含めて全部帝国が仕組んでいたんじゃないか、と敵愾心溢れるようになったとかなんとか。
 エルフの村が入っていないのは、まだその時この国では直接的な関わりがなかったり、ヤンさん達が駆け付けた時には俺達がほとんどの魔物を倒した後だったから、印章がほとんどないためだろう。

 ともかく、そういう事で帝国許すまじという考えが、ここらの冒険者には浸透しているのだとか。
 だから、俺がというのも含めて戦争への参加の意欲が高い事と、冒険者の依頼で野盗を捕まえる事などもあるため、人と戦う可能性は大きな問題ではない事。
 それらの理由で、むしろクランに入って積極的に参加したいという人が多かったと。
 まぁ野盗と戦争で帝国の兵士などを相手にするのは別物だと思わなくもないけど、俺よりも心構えができているのなら問題なさそうだ。

 あと、帝国に存在されていると予想……というか、レッタさんやアンリさん達の証言で、ほぼ確定した裏ギルドの存在も大きいとか。
 まっとうな活動をしない冒険者はいるけど、それどころか犯罪行為をしたり、帝国の下部組織みたいになっているのは、同じ冒険者として思う所がある人が多いらしい。
 ……冒険者の面汚しとか、そんな感覚なのだろうか?

「ふむふむ。成る程、理解できました。とりあえず、皆モチベーションと言いますか……意欲があるのは助かります。事が事ですから、仲間や戦力が多いにこした事はありませんけど、消極的に参加されるより全然いいですから」

 消極的に参加されるより、熱量高くいてくれる方が助かるからね。
 ……アマリーラさんみたいに、熱量が高すぎるのも困りものだけど。

「私達は、センテも含めて何度か標的にされていますが……王都から離れており、帝国との戦場となりそうな箇所からは遠く、直接あれこれできるわけではありませんが、冒険者ギルドとしても全面的に支援できるでしょう。裏ギルドは、存在を許してはいけません」


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