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不思議生物を作り出すエレノールさん
しおりを挟む「ははは、尻尾が痛い、痛いよエルサ。そんなに喜ばなくても……」
「喜んでいるわけじゃな、はわぁ~だわぁ~……」
エレノールさんに再び撫でられ始めたエルサが、魅惑の指使い……というか撫で方によって、気持ちよさそうな声を出すと共に、モッフモフな尻尾が近くにいる俺を叩く。
喜んでいるため、勝手に尻尾が動いているんだろう。
エルサ自身は、否定しようとして途中で言葉になっていないようだが……エルサをここまでにしてしまうなんて、エレノールさん凄い人!
「それでエレノールさん、話の続きですけど……エルサのモフモフは、他に類を見ない最高で至高、究極のモフモフなので参考にはしても再現は難しいと思うんです」
「ふふふ、うふふふふ……っと、んん! た、確かに。これを再現するのは、途方もない努力と研究が必要と感じます」
「ですから、今の段階でも十分に一般の人には受け入れてもらえると思うんですよ。もう少し形を整えれば……」
「ふむ、劣化と言うと聞こえは悪いですが、エルサ様の至上のモフモフは最高のものとして、広める物に関しては数段劣る物でも問題ないと」
劣化や劣る、というのは確かに言葉が悪いが、多くの人に親しまれるためには大量に作らなければいけない。
そのための数段下げた物で、それが量産するための楽な方法だ、多分。
「あとモフモフはビジュアル……見た目にも多少左右されるので、造形を整えるのも重要じゃないかなぁと」
人は視覚にも感覚が左右される生き物だからね。
エルサという究極のモフモフを触った事がある、俺とエレノールさんからは物足りなくても、他の人には視覚で補えば十分満足のいくものになるだろう。
「造形ですか……その辺りは少々苦手でして……」
「まぁ、それは一目見ればわかります」
「新しい魔物にしか見えないのだわ……」
苦笑いするエレノールさん。
俺もエルサも見るのは、手の中にあるぬいぐるみのような物。
モフモフの感触は新素材というだけあって、かなりいいものだとは思うんだけど問題はその造形。
エルサが新しい魔物と言うように、おそらく四足歩行の生き物を模した物だとはいうのがかろうじてわかるくらいのそれは、四つの足が長細い胴体の前や後ろから突き出しており、しかも途中で外側や内側に折れ曲がっている。
生き物だったら、確実に骨が折れているというか……元々、骨なんて存在しない軟体動物かな? と思うくらいだ。
そして顔は何故か胴体の真ん中付近に着けられていて、一応目と鼻と口があるけど混ざり合っているという表現しかできない配置。
さらにさらに、尻尾らしき物もあるのだが、それは顔の反対側、おそらくお腹部分から生えていて何故か足の一本と繋がっているという……完全に色々な事があぁしてこうして、混沌とカオスが混ざり合って事故った物になっていた。
……あれ? 混沌もカオスも同じ意味だっけ? まぁいいか。
「造詣が苦手って問題でもないかもしれませんね……」
本当に、どうしてこうなったという言葉が相応しい物になっている。
手作りだから、ある程度は仕方ないはずだけど……これなら、裁縫を学び始めたばかりの子供に任せた方が、少しはマシな物ができそうではある。
エレノールさんがショックを受けてしまいそうだから、口には出さないけど。
ぬいぐるみ、モフモフした物は作れるのに、どうして造形だけこうちぐはぐになってしまうのか……意外なところで不器用な人というのは、そういうものなのかもしれないが。
「造詣が壊滅的にダメなのは自覚しています。そうですね……リク様が許可されるのでしたら、そういった事が得意な者を巻き込……協力してもらうという手がありますが?」
言い淀んでいると、そう提案される。
何を考えているのかエレノールさんにはバレバレだったらしい。
自覚なしなら触れない方が良かったのかもしれないけど、自覚があるならまぁいいか。
「巻き込むって言いかけましたよね? まぁ、いいですけど。そういう人に知り合いがいるのなら、それがいいんじゃないかと。可愛い見た目とかにすれば、最高とまでは言えなくともモフモフは受け入れられるでしょうし」
頭に浮かぶのは、ゲームセンターなどでよく積まれているぬいぐるみ。
可愛い見た目で若い女性を取り込むあれだ……可愛いのが好きなのは、若い女性に限らないし、実際には男性でも好きな人は多いんだろうけど。
「お任せ下さい。冒険者ギルドの副ギルドマスター権限を使って、必ず探し出して協力させ……協力を取り付けて見せます! まぁ、既に思い当たる人物はいるのですが」
「……さすがに、権限を使ってというのは止めて欲しいですけど、心当たりがあるのならその人で」
微妙に過激な言葉が飛び出しかけるエレノールさんは、それだけモフモフな物を作り出すための意欲に溢れているんだろう。
ただ、その心当たりがある人が巻き込まれて迷惑しないかが問題だな……。
「ちゃんと、作業にあたる人には報酬とかも用意するようにして下さいね? 制作費に関しては、それも込みで考えていますから」
さすがに、タダで働かせるわけにはいかない。
その人にだって、もちろんエレノールさんにだって仕事があって生活があるんだから。
ボランティアを募るとかそういうものでもないからね。
「もちろん、協力してもらうのですからそこは考えてあります。私の給金から……」
「うーん、それはちょっと」
エレノールさんがモフモフ製品の開発主導とはいえ、出資者としては身銭を切ってもらうのはなんとなく違う気がする。
というより、俺が冒険者ギルドに預けているお金が膨れ上がっていて、使い道も他にないから少しでも何かにというのが元だから、ここはやはり……。
「開発費というか、モフモフを制作する資金の中からエレノールさんやその協力してくれる人にも、給金を出してください」
「それは……助かりますが、いいのでしょうか?」
「構いません。エレノールさんは知っていますけど、正直使い道に困るくらいのお金がありますので……まぁこう言うと、成金っぽくてあまりいい言い方じゃないかもしれませんけど。とにかく、十分に資金は用意しますし、必要なら冒険者ギルドを通じて言ってもらえば用意します。これは、以前も言いましたね」
「はい。リク様に全てを頼りきりになってしまうので、よろしいのかとは思ってしまいますが……そう仰るのなら、わかりました」
渋々ながらだけど、了承してくれるエレノールさん。
センテでの戦いでの報酬とかもあるから、これくらいじゃほとんど減らないんだけど……少しでも目減りさせられるようにしないとね。
俺が考える事じゃないけど、お金を貯め込みすぎれば経済が滞っちゃうし、というのはニュースか何かのコメンテーターが言っていた事だったっけ。
お金だって無限じゃないんだし、貯め込むだけじゃなくて使わないと経済が回らないとかなんとか……まぁ余裕がある人に対しての話だけどね。
俺一人でそこまで影響が出るとまではさすがに思わないけど、なんとなく気になったから。
だって、城下町を除いて国一番の街であるヘルサルの冒険者ギルド支部が、一度に払えない金額とかが報酬になっているし、それだけ莫大なお金って事だしなぁ――。
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