上 下
1,647 / 1,897

ようやく解除できた隔離結界

しおりを挟む


 シュットラウルさんの大変さは領主貴族としての大変さなので、俺にできる事はあまりないからどうしても他人事のような感想になってしまうのは仕方ないのかもしれない。
 ただ、完全に壊滅した村というのはほぼないらしく、建物への被害は大きくても人的被害は予想より少ないらしい、というのが現時点でわかって来たのは朗報だろう。
 予想より少ないだけで、ないわけじゃないから素直に喜びづらくはあるけども。

「さて……いつもの結界を解く感じでいいんだよね? 今は魔法を使えないけど」

 センテ西門を出てすぐの場所で、隔離結界に触れながらエルサに聞く。
 隔離結界の外側は既に凍りが融けていて、ヘルサルへと繋がっているんだけど、このままじゃ通れない。

「それでいいはずなのだわ。リクの魔法である事には変わりないのだから、解除が別の方法になったりはしないはずなのだわ」

 センテとヘルサルが繋がり、周辺の氷も近くは融かす事ができたとなれば、必要なくなるのがセンテ全体を覆っていた隔離結界。
 街の防御面という意味ではそのままの方がいいんだろうけど、西門と南門が使えないため、わざわざ迂回して東門の方まで来る必要がある。
 それは手間だし、そもそも隔離結界自体が過剰だという事で解除する事になった。
 これまでずっと、氷に囲まれてたセンテを冷気から守ってくれていたけど、解氷作業が進んでくれたおかげでもう街の中が寒くなる事はなさそうだし。

 ちなみに魔法が使えなくなってからも、ずっと俺から魔力供給されて維持されていたんだけど、さすがに俺がセンテから大きく離れてしまえば維持できるだけの魔力供給ができないいので、結局は解かないといけないわけだ。
 魔法の規模が大きいからだろう、ヘルサルに行くくらいの距離なら関係なく俺から魔力が流れていたけど。
 ……常時魔力が維持のために流れているせいで、レムレースと戦った時の魔力が少し危なくなったりもしたんだけども。

「それじゃやってみるよ。ん……っと。うん、成功したみたいだね。少し風が気持ちいい」
「ただ魔法を解除するだけ、魔力供給を止めるだけとも言えるのだから、成功も失敗もないのだわー」

 意識して、いつも結界を解く時のように力を抜く感覚。
 すぐに手に触れていた隔離結界の感触が消え、センテを包んでいた膜のような物が全て消えた。
 それと共に、少しだけ冷たい空気が風に乗って流れて来る。

 隔離結界内はちょっとだけハウス効果が出ていたのか、少し汗ばむくらいの暖かさだったけど、熱が覚まされて行くようで気持ちがいい。
 まだ残っている凍った大地からの冷気も、少しだけ風の冷たさに影響しているのかもしれない。

「ふぅ……ともあれこれで、完全にセンテは解放だね。閉じ込めたのは俺だけど……」

 なんとなく、溜まっていた何かを出すように溜め息を吐き、呟きながら振り返る。
 隔離結界自体は、必要だったかはともかくやったのは俺だからね……ちょっと肩の荷が下りた気分なのかもしれない。
 そして振り返った先、西門付近には兵士さんや冒険者さんだけでなく、街の人達も大勢いて、俺が解除する瞬間を見て盛り上がっていた。
 皆も、閉塞からの解放感を感じているのかもしれないね――。


「リク殿、ここまでの協力助かった。リク殿がいなければ、今頃このセンテは……いや、ここだけでなくヘルサルやその周辺。アテトリア王国国も危うかっただろう。本当に感謝している。そして、復興の助力にも」
「リク様のおかげで、ようやく目途が付きました。まぁまだやる事は山積みですが、先に備えて私やヴェンツェル様も直にセンテやヘルサルを離れるでしょう。一部の兵は残しておきますが……シュットラウル様もおっしゃっているように、リク様がいなければ国そのものが危ぶまれました。復興も、もっと遅れていたでしょう。ありがとうございます、リク様はまさしくこの国の英雄です」
「えーっと、はい……」

 隔離結界を解除した翌日、シュットラウルさんとマルクスさんから庁舎に呼ばれて、部屋に入っていくつか話をした後、何故かこうして二人に感謝の言葉を述べられ、揃って頭を下げられた。
 何故かも何も、俺がそろそろセンテを離れて王都に……という話になったから、改めてって事なんだけども。
 一部、特に隔離結界とセンテ周辺が氷に閉ざされたのは俺のせいだったりするんだけどね。
 でも、状況的に否定するのもシュットラウルさん達の面目を潰しかねないと思い、一応頷いて感謝を受け取っておく。

 センテの代官さんを始めとした街の管理をする人達、それから侯爵家の執事さんや侯爵軍と王軍の隊長格の人達が揃っていたから。
 全員、シュットラウルさん達が頭を下げたのに追従するように、俺に向かって頭を下げている。
 というか、センテの代官さんを久しぶりに見た気がするなぁ……確か、農地のハウス化のためにセンテに来て、シュットラウルさんと初めて会った時以来かな?
 ずっとセンテで、シュットラウルさんの近くで街に関するあれこれをやってくれていたんだろうけど、あまり話す機会がなかったなぁと今更ながらに思う。

 まぁ実際、話す事ってあまりないのかもしれないけど。
 なんて考えつつ、全員の感謝を受け取り気恥ずかしくなるような称賛を受けた。

「それでリク殿、センテはもう我々だけでなんとかなるが……いつ頃王都へ戻るのだ?」

 少し経って、シュットラウルさんとマルクスさん、それから俺以外の人達が退室した後、シュットラウルさんからそう聞かれた。

「そうですね……明日、はちょっと急ぎすぎだと思うので、二日後か三日後くらいでしょうか」

 毎日色々と、エルサやリーバーに乗って文字通り飛び回っていたから、少しくらいはのんびりしたい。
 疲れとかはほとんどないけど、急いで王都に戻らなきゃという状況でもないし、一日か二日くらいは休んでも構わないと思う。
 ……遅くなれば遅くなるだけ、往生に戻った時姉さんに色々言われる事が多くなる気がしなくもないけど。

「それでしたら、センテの街を見て回ってやって下さい。皆、リク様に感謝したい者達ばかりだと思いますので」
「いえそんな……感謝されたいわけでもないんですけど」
「だが、民はそれを望んでいる。リク殿に救われた兵や冒険者などもな。まぁ無理にとは言わんが、感謝をしたい、礼を尽くしたいという感情もまた、発散する機会がないとな。なに、皆リク殿の事を手厚く歓迎してくれるはずだ」
「……わかりました。少しだけなら」

 ここまで言われるのなら、一応街を見て回ってセンテの人達と交流するのもいいのかもしれない。
 一切街に顔を見せないわけじゃなくて、これまでも街中を歩いていたりはしたんだけど、ここ最近はほとんど宿と東門の往復ばかりだったからね。
 初めてセンテに来た時知り合った人達とか、どうしているのか様子を見てみたい気もするし……一応、無事にセンテにいる事は確認しているけど。

「あとリク様……先に渡しておきますが、これを陛下に」
「これは?」

 マルクスさんから、小包くらいの大きさの木箱を渡された。
 持ってみると、結構軽いので中に物が詰まっているという程でもないみたいだ――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...