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咄嗟に出た違う形の技
しおりを挟む「……きたっ!」
わざと目立った俺にラミアウネが集中してくれれば……そう考えていると、俺の狙い通りラミアウネが左右から飛び掛かってくる。
まだ残っている他のラミアウネは、再び花粉を飛ばしている。
けど、その花粉も飛び掛かって来たラミアウネも、昨日何度も戦っているから対処は容易い。
「ふっ! 花粉を飛ばしても無駄だよ! っとぉ!」
白い剣を魔力吸収モードにして、右からのラミアウネを斬り飛ばす。
そのまま再び体を回転させて、左から来ていたラミアウネも斬り裂いて、さらに大きく剣を振るって花粉を全て消す。
一連の動きの後、特に構えを取らず無防備に見えるように剣を降ろして一瞬の沈黙。
魔力を吸収して発光している白い剣が、フィリーナの明りと相まって夜に生える……つまり目立っている気がした。
しかし、本当に魔力吸収できる白い剣を持ってきていて良かった。
花粉に対して有効だからそう思うけど、もし持ってきていなかったらもう少し花粉の対処に苦慮していただろうからね。
昼間は、カイツさんが風の魔法で吹き飛ばしてくれたから楽に戦えけど、女性冒険者さんを守りながらっていうのは中々苦労しそうだ。
花粉が地面に落ちて、チビラウネが無数に発生してそれが俺以外に向かわないとも限らないわけだし……魔力を吸収して消し去れるから、俺が戦い始めて新しいチビラウネが発生していないのも大きい。
これからは、どんな時でも最低限白い剣を持っておく事は忘れないようにしよう。
使う必要がないのなら、訓練のために通常の何の変哲もない剣で戦えばいいんだから。
「ふっ! はぁ! そこっ!」
そんな事を考えつつ、続いて飛び掛かってくるラミアウネを斬り裂き、ついでに周囲の木々も邪魔にならないよう斬り倒す。
ラミアウネを斬った勢いのまま木を二本程斬り倒したけど、少しの手応えくらいであっさり斬る事ができたのは白い剣のおかしな切れ味のおかげだろう。
まぁ、魔力吸収モードだったせいなのか、斬った木が瞬間的に半分くらいの大きさになって、倒れる頃には完全に枯れ果てているようだったけど。
木に含まれていた魔力を吸収したせいなんだろう……まるで水分を抜いたようにも見えたけど、それに近い事が起こっていたという事なのかもしれない。
そのおかげで、倒れた木が視界の邪魔になる確率が減り、倒れる時に響く音も小さくなっていた。
さらに、身を潜めて機会を窺っているラミアウネも、木を斬り倒すついでにあぶり出し、倒しておく。
飛ばされる花粉は、魔力吸収モードの白い剣を振れば瞬間的に消え去っていく……もはや、ラミアウネが罠を張って他者を狩るのではなく、俺がラミアウネを狩るだけの場になっていった。
「……こっちにっ!?」
女性冒険者を締め付けていた二体を含む、十一体程のラミアウネを倒してそろそろ終わりかと思った頃、隠れていた一体のラミアウネが後方にいるリーダーさんめがけて横にある木の影から飛び出した。
最後の悪あがきのつもりなのか、俺にはかなわないと思ったからせめて別の誰かに、と考えたのか…… ラミアウネが何を考えていたのかはわからない。
とにかく、飛び掛かられたリーダーさんの声に振り返った俺の目に入ったのは、一人の女性が横たわっていてもう一人の女性に巻き付いたラミアウネの体を引きはがそうとするリーダーさんが、驚いている姿だった。
「ちっ! 最後の悪あがきを……!!」
思わず出る舌打ちと共に、とっさに白い剣を魔力放出モードにしつつリーダーさんの方に向かって駆ける。
けどこのままだと、俺よりもラミアウネの方がリーダーさんに到達するのが早い……剣を大きくしても、届くまでには巻き付かれるなりなんなりするだろうから、それも駄目だし巻き込みかねない。
ラミアウネと戦う時、リーダーさん達と距離を取っていたのが裏目に出た。
先程女性二人を助けた時のように、直接握りつぶすくらいしかないのか……と、多少リーダーさんに被害が及んでしまうのを覚悟する。
それと共に、もしかしたらという念を込めて妨害するように魔力放出モードのままの白い剣を突き出し、剣身を伸ばす。
あわよくば、リーダさんと飛び掛かるラミアウネの間に剣が差し込めたら……という考えだったけど、結果的にそれが良かったようだ。
「KISI!?」
「お!?」
「え!?」
短い悲鳴のような声を上げて、リーダーさんに飛び掛かっていたラミアウネが突然、お腹……というか蛇の体の部分に穴を開けて二つに分かたれ、そのまま横からぶん殴られたように飛んで行って、木にぶち当たって動かなくなった。
当然、俺もリーダーさんも驚きの声を上げて動きが止まる。
えーっと……? あ、もしかして。
「んっ! あ、やっぱり」
「な、何が……? 離れている場所の木が、え、抉れた?」
魔力放出モードにしていたおかげだろう、咄嗟の事でリーダーさんに向かっていたラミアウネに対し、剣魔空斬を使っていたみたいだ。
それは、別方向にさっきやったような感覚で剣を突き出して、数メートル離れて確実に剣が届いていない場所の木の幹が抉れた……だけでなく、その向こう側の木も幹を抉って倒れたのを見て、確信した。
いや、斬るというより突きだったから、剣魔空斬ではなく剣魔空突ってところかな?
俺に襲い掛かるラミアウネに対して、剣魔空斬を使おうと思ってもできなかったのに。
「魔力が外に向いていた、とかそういう事なのかな?」
リーダーさんが驚きで戸惑っているところに、ゆっくりと歩み寄りながら呟く。
単なる推測だけど、魔力吸収モードで外に向いていなかったから剣魔空斬……剣魔空突が使えて、魔力が飛んで行ったんだろう。
魔力吸収モードは内向きというか、吸収して使い手に還元するから、剣から魔力を飛ばすのには向いていないとか、そう考えられるね。
まぁ、何はともあれ突きでも魔力を飛ばせるというのがわかったのは、ちょっとした収穫かも。
剣魔空斬の時より、一点集中で貫通力があるみたいだけど、少し魔力も多く込めないといけないみたいだけども。
「……とりあえず、もう大丈夫かな? 一応、警戒はしておこう」
リーダーさんの近くまで来て、周囲を見回して念のための確認。
まだ残っていたチビラウネは全て動かなくなっているし、他に動くような物は風に揺れる枝葉くらいしかなく、ラミアウネは殲滅したと思われる。
ただ、明りに照らされている以外の場所は夜の暗闇に包まれているので、どこかに何かが潜んでいる可能性がないわけではない。
白い剣は鞘に納めたけど、何かが飛び出しても対処できるよう、即時対応の備えは常にして警戒しておくのは忘れない。
「えっと、大丈夫ですか?」
「え、あ、はぁ……」
周囲の警戒をしながらだけど、何が起こったのかわからない、と語るかのように茫然としているリーダーさんに声をかける。
すぐには状況を飲み込めないようで、リーダーさんからは空返事。
仕方ないか、ラミアウネに襲われそうになって驚いていたら、それがいきなり目の前で穴が開いて千切れ飛んだんだから。
その後、俺が試しに剣魔空突で木を数本抉ったのも……関係しているかも? ちょっと確かめたかっただけなんです、ごめんなさい――。
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