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今後のためになりかけラミアウネを処理
しおりを挟む「花粉から出るチビラウネというのは、あくまでラミアウネの分身みたいな物のようです。ですので、あちらで今モニカ殿が燃やしているなりかけとは違うのです。とはいえ、どのように発生するのかは、判明していないのですが……」
「そうだったんですね」
土の上で、じっくりとラミアウネのなりかけを燃やしているモニカさんの方を見ながら、カイツさんの言葉に納得する。
ラミアウネの増え方って、花粉をばらまいてチビラウネを発生させ、その成長で……となんとなく考えていたけどどうやら違うみたいだ。
まぁ、あの無数にばら撒かれる花粉のチビラウネが、全てラミアウネに成長するんだったらもっと大量にいてもおかしくないか。
「オークなどとは違い、先程の叫びがあったようにマンドラーゴのような植物としての特性を持っているのでしょう。花粉もありますし……」
「だとしたら、土から生えているのを抜き取った時、音を出した以外は動かなかったのも……?」
「おそらく、一定まで成長しなければ、先程戦ったようなラミアウネとして動き出せないのでしょう」
成る程なぁ、ラミアウネのなりかけを発見した事での推測も混じっているだろうけど、なんとなく生態がわかった。
植物のような特性があるのだとしたら、花粉ではなく種子とか株分けみたいな方法で数を増やしているんだろう。
もしかすると、この森で多く発生したのも木々と同じく、緑の光が影響しているとかかもしれない。
「ふぅ、こっちは終わったわ」
「お疲れ様。ただ……」
「……他にもいたのね」
モニカさんの焼却作業を待ちつつ、カイツさんと周辺を簡単に捜索した結果、木の陰などに十を超えるラミアウネのなりかけが生えているのを発見した。
それらは、カイツさんが引き抜いたのよりも花弁が大きかったり、逆に小さかったりと、それぞれ成長途中なのが窺える。
地面から生えて花を咲かせている、という部分だけ見てみれば、間違いなく他の植物と同じようにしか見えないけど……それらは間違いなく魔物だ。
「もしかしたら、ここがラミアウネの拠点というか……棲み処なのかもしれませんね」
「GYAAAAAAA!!」
「その可能性は高いですね。だからこそ、他のラミアウネもここに集まってくるのかもしれません」
「GUAAAAAAA!!」
「じゃあ、ここを潰しておけば、これ以上増えないかもしれないわね……」
「GUOAAAAAAA!!」
「他にもあるかもしれないから、絶対じゃないけど……少しでも増える速度が遅くなれば、皆も助かるかな」
「KISYAAAAAAAA!!」
「魔物を掃討するなら、そういった場所も探して潰していかないといけないかしら」
「KYAAAAAAAA!!」
「完全に森から魔物を駆逐するとしたら、そうでしょうね。森が残っていれば、いずれまた元に戻るでしょうが、今のようなバランスが崩れた状態ではなく、保たれた状態に戻るだけでしょうし」
「IYAAAAAAAA!!」
「まぁ森をどうするかは、近くのヘルサルやセンテにいる人達次第でしょうけど……というか、やっぱりうるさいですね」
「YAMETEEEEEEEEE!!」
「まぁ、マンドラーゴよりはマシですし、慣れればこうして話もできますから」
「TASUKETEEEEEEE!!」
「……段々、バリエーション豊かになっていくのは気のせいかしら」
「YURUSITEEEEEEEE!!」
「き、きっと気のせいだよ、うん」
「SINITAKUNAIYOOOOO!!」
スポンスポンと、土から顔を出しているラミアウネのなりかけを引き抜きながら、カイツさんやモニカさんと話しているんだけど……慣れたとはいえ叫び声が耳に痛い。
段々と、断末魔の叫びっぽく、それでいて助けを求める人の声のようにも聞こえて、罪悪感を抱くようにもなりかけているけど、できるだけ気にせず作業を続ける。
もしかすると、叫びを聞き続けているとそうした罪悪感に苛まれるような、精神攻撃みたいなのも叫びに混じっているとか?
いやいや、うるさいだけで特に何かの効果はないって、カイツさんが言っていたからきっとそんな効果はないはずだ。
音を発しているだけで、人の叫び声のように聞こえるのは気のせいのはずだし、そもそも魔物だから人の言葉は喋れたりはしないはずだからね。
うん、これはきっと気のせいなんだ……ラミアウネの花を引き抜いているだけなのに、何故か脳裏に襲われる人々の姿が浮かぶけど、実際にそんな事はないはずなんだから――。
「はぁ……ようやく終わったわね。この森に入って、一番疲れた気がするわ」
「木々の間を歩くのも、結構大変なんだけどね……うん、俺もなんか疲れた」
ラミアウネのなりかけ、生えていた花を全て引き抜き、ひとまとめにして燃やし終えて一息。
モニカさんが言っているように、ここまで歩いてきた事や魔物と戦った事よりも、この作業が一番疲れたかもしれない。
体力的には一切問題ないんだけど、精神的な疲労感が凄い。
「ふむ、もしかしたら声……音そのものに効果はないにしても、聞く者によっては消耗する何かに越えてしまう事もあるのかもしれませんね」
燃えて灰になったラミアウネのなりかけを見つつ、研究者らしく何やら考えている様子のカイツさん。
ラミアウネそのものには研究心を刺激されてはいなかったようだけど、俺達やカイツさん自身の疲労から少しくらいは興味を持ったのかもしれない。
まぁ多分、ちょっとした疑問でも考えずにはいられないような、癖というか習性みたいなものなんだろうけど。
「思った以上に手間がかかってしまったわね。他の冒険者はどうしているかしら?」
「……大きな動きは、特にないようです。変わらず一部の冒険者が、こちらの方向に進んでいますね」
「それじゃ、とりあえずそっちの様子を見に行こうか」
そう言って、ちょうどこちらに来たラミアウネを追加で二体ほど倒しつつ、本来の目的である冒険者さん達の様子を見るため、西へと足を向ける事にした――。
「……結構歩いたと思うんだけど、誰とも会わないね?」
「ふむ、少々お待ちを」
西へ移動を開始して、体感で数十分くらい。
最初にカイツさんが木々から得た情報によると、俺達のいる方へ向かっていた冒険者さん達はあまり離れていないようで、すぐに見つかると思っていたんだけど、今のところその気配は全くない。
お互いが距離を縮めるように進んでいれば、もう会っていてもおかしくないはずなのに……。
すれ違ってしまったかな? と思って呟くと、足を止めたカイツさんが木に手を当てて探り始めてくれた。
「まぁ、これだけ視界が悪いと、すぐ近くを通っても気付かなかったりするかもしれないね」
森の中は剣を大きく横に振るだけで、木の幹にあたってしまう程木々が密集している。
そのため、数メートル先が見えないくらい視界が悪いし、かろうじて日の光が差し込みはしているけど薄暗い。
さらには木の葉などの植物が風に揺れて擦れる音で、結構ざわざわしているため、近くにいてもすれ違う事だってあるだろう。
慣れている冒険者さんなら、魔物を集めたり見つからないよう息を潜め、できるだけ音を立てないように移動したりもするはずだから……近くを通っても気付かずすれ違う、なんて事も考えられるかな――。
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