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食後の運動に魔物討伐へ

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「そこで、宿だけでなく食事も提供するのよ。クランに所属している人達だけなら、そう多い人数じゃないわ。リクさんが声をかければ、百人や二百人は簡単に集まりそうだけど……それでも獅子亭程忙しくはならないでしょう?」
「百人や二百人はさすがに……でも、確かにそうだね」

 獅子亭で一日に来るお客さんの数は二百じゃきかないくらいだ。
 それと比べれば、数十人を想定している俺が作るクランの人達に対しての料理ならば、そう忙しくなる気はしないのは確かだ。
 もちろん、料理する専門の人を雇わないといけないだろうけどね。

「特に冒険者は、昼に戻ってくるだろう人は少ないと予想できる。夜はもっとだけど」

 平均的な冒険者さんは、朝宿などで食事を取り、昼は依頼などで外に出るため携帯食などで適当に済ませる。
 夜は待ちなどに戻ったとしても、多くは酒場などでお酒を飲みながら食事、という事が多い。
 もちろん、お酒を飲まない人もいるけど、大抵は贔屓にしている店で食事をするとかだ。

「だから、朝の食事と、昼のお弁当、それを作る食堂があればいいとの思うの」
「成る程……限定的になら、必要な人の手も減るってわけだね」

 まずは小さく、クランの中でだけでも美味しいお弁当販売を始めれば、そこから少しずつ他のお店にも波及して質が求めらるようになる……かもしれない。
 それに、俺が美味しいお弁当が欲しい、という目的は達成されるのは間違いないので、モニカさんの案は素晴らしい。
 人手もそこまで必要じゃなさそうだし、やるとなればいろいろ大変かもしれないけど、それでも実現可能な事のように思えた。

「まぁ、森の中で何を相談しているのか、って内容だしもっと詰めて考える必要はあるでしょうけど……そういった案もある、という話よ」
「そうだね、ありがとうモニカさん、参考になったよ。クランの事だし、またモニカさんには相談する事になるだろうけど……」

 気付くと、俺とモニカさんが話し込んでいる間に、カイツさんが木との対話? を終えたらしく、こちらをジト目で見ていた。
 出発するなら早くしろ、と言いたいらしい。
 モニカさんの言う通り、確かに森の中で真剣に話す事じゃなかったよね。

「えぇ、もちろんよ。いつでもリクさんの相談は受けるわ。私だって、リクさんが作るクランの一番目の所属員になるつもりだもの」

 頼もしく頷いてくれるモニカさんだけど、俺としてはモニカさんやソフィー達は、所属員というよりも運営側で一緒にやってくれる仲間であってほしいなぁ。
 まぁ、それも含めての一番目の所属員って、モニカさんは考えているのかもしれないけど。

「それじゃ、そろそろ出発をするとして……」

 お昼の片付けを済ませて、本来の目的に戻るために出発するため、カイツさんに目を向ける。

「……ここから、北に魔物が集まっているようです。数はあまり多くありません。北北西方面からは、数組の人間らしき集団がいるみたいですね。うち何組かは戦闘していると思われます」
「そうですか……」

 カイツさんが木々から集めた情報を聞き、どちらに向かうかを考える。
 魔物を倒すのでもいいんだけど、人間の集団……つまり冒険者さん達の方も気になる、というかそちらを見て危険がないかを確認するのが目的だ。
 ただ、数は少なくても集まっているというのが気になるかな。
 魔物も移動するわけで、同種族で固まるために集まるのは不思議じゃないけど……。

「距離はどのくらいですか、カイツさん?」

 俺が決めかねているのを見てか、モニカさんがカイツさんに聞いた。

「そうですね……魔物の方が近いでしょうか。人間達の方は、魔物と戦っているのか移動する速度は速くないようです」
「それなら、先に魔物を倒しておいて、冒険者たちの方へ行けばいいんじゃないかしら、リクさん?」
「でも、戦っている冒険者さん達もいるみたいだし、そっちも見ておかないとと思うんだよね……」

 距離が近いらしいので、モニカさんは魔物の方を先にと考えたようだ。
 ただ、魔物は集まっているという話からすぐに移動をするようには思えないし、先に冒険者さん達の様子を見た方がいいんじゃないか? という考えが浮かぶ。

「本来の目的はそうだけど、でも私達は冒険者の危険を減らす事も目的としているわ。近くに魔物がいるのなら、先に倒す事で他の冒険者達が危険に晒される可能性も減らせるんじゃないかと思うの。もちろん、冒険者の取り分は減らさないように、やり過ぎないようにだけどね」
「……近い方の魔物を倒しても、倒しすぎって事はないか。わかった、モニカさんの案に従うよ。――カイツさん、魔物のいる場所から、冒険者さん達がいる場所へは?」

 位置的に、俺達が行って倒さなくても魔物と冒険者さん達はぶつかり、戦闘になるだろう。
 だったら先回りして倒しておくことで、危険を減らせられればってとこかな。
 まぁ他にも魔物はまだまだいるわけだし、モニカさんの案を採用する事にして、念のため冒険者達との位置関係を聞くため、カイツさんに目を向けた。

「散らばっているので、どれと接触するかにもよりますが……一番近い所で、魔物がいる場所から真っ直ぐにしに行けば接触できそうです」

 だったら、ここから北北西だっけ? というちょっとわかりにくい方角へ進むよりは、真っ直ぐ北に行って魔物を倒し、そこから西へ向かって冒険者さん達の様子を見る、でいいかな。
 カイツさんは接触って言っているけど、実際に接触するかは決めていない。
 必要がなければ、話しかけずにすれ違うくらいでいいわけだからね。

「ありがとうございます。それじゃまずは北に行って魔物と、そこから西に行って冒険者を見よう」
「えぇ」
「はい」

 目標を決めて、改めて森の中を歩き始める。
 もちろん、回収班の兵士さん達が追ってこられるよう、途中途中で木を斬り倒して目印にしながらだけど。
 魔物が掃討されたら、今度は間伐も含めて斬った木は回収されると思うし……カイツさんはあ、相変わらず複雑な表情をしていたけどね。


「……止まってください」

 再出発から大体三十分程度程歩いただろうか。
 二人が横並びになって歩けないくらいの間で木々が生えているうえ、歩きにくいので時間の割に大してして移動していないとは思うけど、おもむろに後ろからカイツさんによる静止の声が響いた。
 隊列は昼食前と変わらず、モニカさんを先頭に俺、カイツさんだから最後尾からだね。

「どうしたんですか?」
「あちらに、おそらく魔物が……あぁ、いました」
「えっと……?」
「よく見ないとわからないけど、確かにいるわね」
「あー、ラミアウネかぁ」

 俺もモニカさんも足を止めて、カイツさんを振り返って聞いてみると、手で俺達の進行方向を示した。
 そちらをよーく見てみると、最初はわからなかったけど木の陰や枝の裏側などに、蛇のような何かが絡みついているのがわかった。
 ような、ではなく蛇か……密集した木の葉などに隠れているけど、風で揺れた拍子に例の正面から直視すると気持ち悪い花の顔が見えた。
 絡まっている蛇の先にあるから、蛇っぽく見えたのはラミアウネの体だろう――。


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