上 下
1,592 / 1,903

魔力弾はかなり目立つ

しおりを挟む


「ワイバーン……アイシクルアイネウムを探索している人達かな? 人が二人乗っているのが見えるし。どうしたんだろう……おーい!」

 空からの影はワイバーンの物で、二体のワイバーンがそれぞれ人を乗せて低空からこちらを見下ろしているようだった。
 徹底していた二人乗りだし、ワイバーンが何も吊るして……というか持っていないので、輸送班ではなくアイシクルアイネウムを探すため、凍っている大地上空を哨戒している人達だろう。
 センテ西側、ヘルサル方面も当然調べているので、近くに来たついでに様子を見に来たのかもしれない。

「やはりリク様でしたか……」

 手を振りながら呼びかける俺に向かって、一体のワイバーンがゆっくりと降下して来て降り立つ。
 もう一体のワイバーンは、周辺を見るためか空に留まっている。

「まぁ、ははは……」

 ワイバーンから降りつつ、周囲を見渡して驚いている様子の兵士さんに苦笑。

「我々がアイシクルアイネウムの哨戒をしている際、とんでもない光のような何かが、センテに向かって放たれたので……その調査です。ですがリク様なら、納得ですね」
「あー、確かに俺がやりました」

 空から広い視点で見渡しているんだから、森……というか荒野だけど、そこから放たれた魔力弾も観測できるよね。
 若干、兵士さんが溜め息混じりなのが気になるけど、ともかくそんな異変が起きたんだから、近くにいて機動力もあるワイバーンで様子を窺いに来たんだろう。

「しかし、派手にやったのですね……」
「いや、これをやったの……一部は俺ですけど、ほとんどはレムレースがやったんですよね」

 剣魔空斬とかで、レムレースや飛んで来る魔法と一緒に木を斬り倒すとか、魔力弾によって深くえぐれ散る地面とかあるけど……。
 でも、無数の穴が開いていたり、木だけでなく植物が完全になくなって広場どころか荒野みたいになっているのは、レムレースのせいだと主張したい。
 まぁ近い事をこれまで魔法でやった事があるから、俺がと考える兵士さんの言葉もわかるんだけど。
 九割……いや八割……多く見積もって六割から七割くらいはレムレースのせいだと言っておきたい。

「レムレースですか!?」

 レムレース、という部分に大きく反応する兵士さん。
 もう一人の兵士さんも、周囲を確認するのを忘れて大きく目を見開き、俺を見た。
 討伐不可とも言われるレムレースは、センテでの戦いに参加した兵士さん達なら遠目でも見た事があるし、そんなのが森にいると言われれば、驚くのも無理はないか。

「はい。まぁレムレースがいるとは思っていなかったんですけど……」

 とりあえず、兵士さん達にレムレースと遭遇して討伐した事を簡単に話す。
 ヘルサル側にいる、ヴェンツェルさん指揮の王軍から森の魔物に関する情報は、多少共有されているみたいだけど、さすがに怪しい影がなどの話は伝わっておらず、そこからだけどね。
 まぁ不確定な情報を、森に入るわけでもない兵士さん達には共有されないのは仕方ない、管轄が違うようなものだ。
 ともあれ、話を聞いた兵士さん達は、レムレースを俺が倒した事に少しの驚きと大いに納得していた。

 それから、俺以外が遭遇しなくて良かったと安堵もしている。
 ヒュドラー戦で俺が倒しているのも知っているからこその反応だろうね。
 これがヘルサル側の王軍の兵士さん達だったら、もっと驚いていたとは思う。

「しかし、なぜこんな所にレムレースが……」
「それはわかりません。ただ、センテでの戦いの終盤に、こちら側にもレムレースが出たみたいですから……」

 残党、というより改めて新しいレムレースが発生したような気がするけど、とにかく理由としてはセンテでの戦いが原因だろう。
 赤い光で消滅させられた魔物達、その魔物の魔力の一部が固まってレムレースになりかけていたところに、俺も含めて周囲の魔力を吸収して完成、とかね。
 はっきりとはわからないけど、そんなところだろうと当たりを付けている。
 実際は、レムレースにも指示をしていたレッタさんや、エルサやユノ、ロジーナの意見を聞いてみないと判明はしないだろうけど。

 討伐不可だし、珍しく本来は洞窟などの奥底に凝り固まった魔物の魔力を集めて発生するらしいから、冒険者ギルドなどでもあまり詳しい事はわからないと思う。
 まぁ予想くらいはできるだろうけど。
 とりあえず、レムレースに関する事はできるだけ共有しておく必要があるかもね。

「では、我々はこれで」
「はい、よろしくお願いします」

 ある程度事情を話して、追加のお願いもして空へと戻る兵士さんとワイバーンを見送る。
 お願いというのは、ヘルサル側の兵士さん達にレムレースがいた事も含め、ここの状況を報せて事。
 あと、俺が倒した魔物の回収班の人達にも、様子を見つつ戻るように伝える事などだ。
 まぁ回収班の人達には、別で伝令を森に向かわせる事になりそうだけど、ともかくこれで一つの懸念事項が解消されるってわけだね。

 ちなみに、俺が放った魔力弾だけでなくレムレースとの戦いの余波、というわけではないけど、戦闘の様子が森の外からでもある程度観測できたらしい。
 俺の魔力弾もそうだけど、それらが収まったので哨戒班の人が様子見に来たみたいだ。
 その魔力弾、ここだけでなく凍てついた大地を抉りながら、センテの近くまで到達していたらしい……やっぱりやり過ぎていたみたいだ。
 ただ、センテには隔離結界があるためそれに防がれて街は無事だとの事。

 これからは、魔力弾を地面に平行になるように放たない方がいい気がする。
 隔離結界の表面も、抉れて薄くなってたみたいだし。
 ワイバーンに乗っていた兵士さんは、マルクスさん指揮の王軍でセンテでの戦いに参加していた人だけど、その時に皆で隔離結界を破ろうとしていた時の事を思い出し、「あれだけ苦労したのが、一瞬で……」なんて愕然としていたけど。
 ま、まぁ隔離結界を破ったわけじゃないからね、薄くなっただけだし……それに元々俺の魔力で作っている物だから、魔力弾の魔力との親和性とかなんとかであれがそうなってこうなって、薄くなっちゃんだと思うよ、多分、きっと。

「それじゃ、俺達も戻ろうかリーバー」
「ガァゥ」

 魔力弾の威力から目を逸らすため、ではなく報告のためヘルサルに戻ると決めてリーバーに乗る。
 レムレースの事や、その際に怒った戦闘の事などを、できるだけ早く冒険者ギルドに報告して欲しい、と兵士さんに言われたからだ。
 魔物を減らす事よりもそちらの方が重要だから、との事だ。

 まぁ、森の魔物はできるだけ減らしたいけど、結局明日以降に入る冒険者さん達が担当するわけで、俺がここで無理をする必要はないと考えて、すぐに戻る事にしたってわけだ。
 そんなこんなで、疲労により少しだけ重く感じるのを自覚しながら、リーバーに乗って上昇、真っ直ぐヘルサルへと向かった。
 ……動き続けたからか、ちょっと遅めの昼食だったのに、お腹が減ったなぁなんて考えつつ――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...