1,589 / 1,903
決着の最後はあっさり風味
しおりを挟む「っと! さて、レムレースは……?」
爆風も止み、視界が晴れて行く中でレムレースの方へ視線を向ける。
魔力弾がどうなったのか、ずっと追えていなかったからどうなったのかわからない。
当たったのは確実だと思うけどね……追撃の魔法が来ないから。
「……自分でやっておきながら、物凄い威力だ」
俺が魔力弾を放った場所、そこはレムレースの魔法が炸裂して滅茶苦茶になっているけど、そこから真っ直ぐレムレースへと地面が抉れているのがはっきりわかる。
幅数メートル、深さも数メートルの道ができ、その先にいるレムレースは……。
「倒せた、でいいのかな? まだちょっと黒いもやがあるけど……」
完全に消し飛ばした、というわけではないし期待していなかったけど、形作っていた体は霧散し、黒いもやがいくつか空中に浮かんでいるだけになっていた。
こうなったら、追撃の魔法なんか放てないよね。
ともあれ、予想外だったけど一撃でレムレースを倒せたと思って良さそうだ。
「ふぅ、とりあえずなんとかなったかな。まぁ、見晴らしがかなり良くなっちゃったけど」
見晴らしというのは、レムレースとの戦いで荒野のようになってしまった周辺……の事ではない。
そちらも確かに見晴らしがよくなったけど。
そうじゃなく、凍てついた大地のある方、そちらに残っていた木々が抉れた地面の道が続くように、ぽっかりと穴を開けているようになっていた。
さらに、遠目だからはっきりとは見えないけど、かなり遠くの方まで地面の氷すら抉って、破壊していた。
「もしかしたら、ちょっとだけ解氷作業的なお手伝いになった、かな? それなら、やり過ぎかもって威力が出たけど結果オーライだね」
これまで何かをやればやり過ぎて失敗する事が多かったけど、今回のこれはかなりいい感じで、求める以上に最良の結果が出たんじゃないだろうか?
なんて、数キロ単位で荒野にしておきながら、楽観的に考える。
……荒野にしたのは大半がレムレースの魔法で、俺は木を斬り倒しはしたけど、そこまで悪いわけじゃないし。
「って、ん? あれは……! くっそ、まだだったか!」
抉れてできた道を見ていて、よく見ていなかった俺が悪いんだけど……いつの間にか、レムレースだった黒いもやが別の場所に移動し、集まりつつあった。
完全に、全てを消滅させるまで倒せたとは言えないのか!
実際に言っていないけど、脳内で「やったか!?」なんて叫んでフラグを立ててしまった、に似た状況だ。
いや、それにしてはかなりレムレースには痛手を負わせているはずだけど、それはともかく。
集まってまた復活されたら面倒だと、走って黒いもやが終結を始めている所へと急ぐ。
が、油断していて剣魔空斬や魔力弾の準備をしていなかったので、離れた場所からの攻撃ができない。
そのためか、到着が遅れ、直接剣を叩きこもうとした俺を嘲笑うかのように、再びレムレースからあの甲高い耳障りで不快な音が発せられた!
「KIKIKIKIKIKIKIKII!!」
「くぅ!」
耳をつんざく音に、思わず走っていた足を止めて剣と鞘を落として両耳を塞ぐ。
これまで以上に魔力を求めているからか、これまで以上に激しく大きな音……顔をしかめながら空を仰ぎ見るように無意識に動いてしまう。
この音、無防備に他の誰かが聞いたら、音で鼓膜が破れたり、意識を失ったりするんじゃないだろうか? 光のないスタングレネードみたいに。
意識を失ってしまえば、そこからゆっくりと魔力を吸収できるわけで、それはそれで凶悪だ。
なんて考えながらも、音に耐えて薄っすらと目を開けたら、豆粒ほどにしか見えない程の高度にいるリーバーが、どこかへとフラフラ飛んで行くのが見えた。
多分、向こうにも音が届いて堪らず離れたんだろう、それがリーバー意思か危険を回避するための無意識かはわからないけど。
「くっそ……このままじゃまた復活されて!」
音が染み込み、魔力が抜き取られ、俺の魔力を使って再びレムレースが復活。
魔力弾があるにしても、ホッと安心したのにまた戦わなきゃいけないのか……そう頭の中を駆け巡ったけど。
「あ……れ? 音はうるさいけど、これまでみたいな感覚がない?」
レムレースから発せられる音は続いているのに、体から魔力が抜き取られる間隔がない。
それどころか、これまで耳を塞いでいた手すら貫通して、脳内に直接届いていたような音が、かなり緩和されている事に気付く。
いや、音自体はこれまでで一番大きくて、うるさいんだけど……無理矢理染み込んでくるような感覚が一切ない。
「KIKIKIKIKI……KIKIKI……KI?」
「えーっと……」
声ですらない音なのに、その時のレムレースの感情をはっきりと読めてしまった。
つんざく音が、やがて止み、そうして呟かれるような音からは、「あれ?」と言っているような雰囲気が感じられたんだ。
感覚頼りだけど、多分魔力を吸収しようとしてできなかったってところか。
「とりあえず、なんかわからないけど……お疲れ様って事で」
音が止んだため、耳を塞ぐ必要がなくなり、落とした剣と鞘を拾っててくてくとレムレースらしき、黒いもやの集合体に近付く。
大体、拳二つ分くらいの大きさにまで縮小したそれは、先程まで魔法の連続使用していたのとは別の生き物のようですらあった。
形に依るところが多かったけど、魔物的な迫力や威圧感も一切ない。
ただ、そこにある色の付いた空気みたいな感じ……抜けた雰囲気が流れるこの場のせいだろうけど。
「KI……」
あ……みたいな音を残して、剣と鞘によって斬られ、潰されるレムレースだった黒いもや。
数秒後には、音どころかもやすら完全に消滅して、周辺は静かすぎて逆に耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
「えーっと、とにかく……レムレースを倒したぞ! やったー!」
木々のざわめきすらない荒野となった場所で、一人拳を突き上げて喜ぶ俺。
だって、なんとなく静寂に耐えられなかったし。
誰かに見られているわけでもないから、気にする必要はないんだけど……何も音がないと、逆に不安だったからね。
「はぁぁぁぁ……疲れた。まさかレムレースとこんな戦い続けるなんて。よっこいしょっと……」
大きく息を吐き、一人呟きながら適当な地面に腰を下ろして地面に手を付けて体を支える。
とりあえず息切れとかはないけど、動き続けて、魔力を使い続けたからか、全身が重く感じる。
体力的な事以外にも精神的な疲れもあるんだろう。
各種様々な属性の魔法を、連続で使用されていたのに対処するため、ずっと気を張っていたからね。
魔法の属性を見極めて、対処法も考える必要があったし、避けきれなかったのもあるけど。
風の魔法とか特に、歪みを観察しないと迫っている事すらわからない事もあるし……気を付けないと、体の一部とサヨナラなんて可能性もあったわけで。
直撃に近かった土の魔法を受けた横腹とか、ズキズキはするし、浅いながら怪我をした部分の痛みが押し寄せてはいるけど、なんとか無事と言えるかな――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる