上 下
1,584 / 1,903

すごろくで言うふりだしに戻る

しおりを挟む


 レムレースによる音での魔力吸収が、このままずっと吸収され続ければ、一方的に魔力がなくなって危険かもしれないし、なんとか動いて止めさせるべきかと考える。
 音によってか、抜き取られているからか、自分の体内にある魔力そのものを動かすのは少し難しくなっている感覚だけど、それでも何もできないわけじゃない。

 レムレースが吸収しているだけならば、このままゆっくりでも近付いて攻撃すれば……。
 足や靴に魔力を流して、耳をふさいだままでも蹴って攻撃すれば、この不快な音を止められるはず。
 そう思っていたら。

「KIKIKIKIKIKIKI……」
「……と、止まった?」

 レムレースから発せられる音が、ゆっくりと潮が引くように小さくなっていき、やがて止まる。
 それと一緒に、染み込んで魔力を抜き取られていた感覚もなくなった。
 ずっと吸収だけを続ける事は、レムレースにできないのかもしれない。

「あのまま一方的にじゃないのは助かったかもしれないけど……でも、振り出しかぁ」

 そう、吸収を終えたレムレースはあろう事か、最初に同じく魔力を吸収した直後と同じく、数本の腕と足、そして大きな体という、これまでの俺の攻撃がなんだったのかと疑問に思うのも当然な姿に戻っていた。
 さすがに元に戻っても、魔力自体は消費してレムレースが瀕死なんて事はないだろう。
 つまり、再び連続攻撃なりなんなりでレムレースその物を削っていかないといけなくなったわけだ。

「冗談じゃない、これじゃふりだしに戻る、じゃないか。……はぁ、これは中々大変だぁ」

 大変で済まされる事じゃないかもしれないけど。
 とにかくどうしよう……魔力量も上がって、まだまだ俺自身には余裕はある。
 ルジナウムの時やロジーナと戦った後みたいに、消費し過ぎで倒れるなんて事はまだまだなさそうだ。
 とはいえ、このままじゃレムレースではなくこちらがジリ貧。

 どれだけ攻撃を加えても、吸収されればまた復活するし、その度に戦闘も含めて俺の魔力は消費される。
 俺の体力自体も無限なんて事はないし、ずっと戦い続けていたから疲れも感じている。
 いつまでこうしてレムレースと戦っていられるのかも、正直怪しい。
 まぁ、魔力を吸収されずに無理を通せば、明日の朝くらいまでは戦えるとは思うけどね。

「とはいえさすがにそれは遠慮したい。ならどうするか……」

 魔力を流した剣などで、なまじダメージが入る事がわかったため逃げ時を逃した感もある。
 とはいえ、このままレムレースを野放しちゃいけないと思うし、結局逃げる選択肢ないわけで。
 戦闘中に音による魔力吸収が使われなかったので、一定以下の魔力になるまでとか何らかの条件があるのかもしれないが……俺以外の誰かが対処しようとすると、かなりの危険が伴うだろうし。
 連続で放たれる強力な魔法は言わずもがな、ある程度次善の一手や魔法などでレムレースを弱らせても、魔力を吸収され始めたらひとたまりもない。

 感覚的に、俺が一度に吸収された魔力はエルフ数人分とかそれくらいだ。
 そんなの魔力の少ない人間で構成されている兵士さん達や、冒険者さん達がされたら、一瞬で魔力枯渇による死が待っている。
 もしかすると、これもあってレムレースは討伐不可とされているのかもしれない……話では、大きい相手であり一度に全てを燃やすなりで消滅させなければいけないから、とは聞いたけど。
 攻撃その物は、魔法主体で威力は凄まじいけどまさしく蹂躙という言葉が似合いそうな、ヒュドラーの方が威力は高いんだけどね。

 ヒュドラーもレムレースも、広い範囲に攻撃はできるようだけど、狭い範囲に対する攻撃力はもとより、広範囲の攻撃となると威力や魔法が小さめの物になるレムレースと比べると、圧倒的にヒュドラーに軍配が上がる。
 連続使用で補っているようだけど、やっぱり広範囲となると魔力を薄く引き伸ばしているイメージになるからだろうね。
 まぁ、結局のところ、どちらも厄介なのは間違いないけど。

「ほんと、あの剣を持ってこなかったのが悔やまれるね……」

 いっそのこと、リーバーに乗って一度離脱。
 急いでセンテに戻って白い剣を取ってきた後、レムレースを探して決着をつける方がいいのかもしれない。
 白い剣にも魔力を吸収する限界があるけど、ヒュドラーやレムレースの魔力を吸収しつくした、あの戦いと比べれば、一体相手の魔力を吸収し尽くすのは苦労しないだろうから。

「エルサも連れてくれば、探知魔法なりでレムレースの位置がわからなくなる、というのはなさそうだし……いや待てよ……って、考えている途中なんだから、もう少しおとなしくしてほしかったなぁ!」
「KI、KIKIKIKI!」

 対処法なんかを考えていると、三本の巨大な氷の槍がレムレースの前に出現、俺に向かって射出された。
 これまでは、魔力が復活した事での準備とかで猶予があって、俺が考える時間になっていたのかもしれないけど、それも終わったようだ。
 叫びながら、氷の槍を飛んで避けた先には地面から土の槍が飛び出してくる。
 魔力を流していた剣と鞘でそれを砕きつつ、着地する俺に対し、頭上から炎の矢が無数に降り注ぐ。

「あつ、あつ! 熱いって……!」

 咄嗟に空へ向かって剣を振り、鞘でガードするけど、全ては防げない。
 服の焼ける匂いと共に、肌に小さな火傷の痛みを感じつつ、なんとかその場を離脱。
 ……した先に、足元を狙って風の刃が残っていた木々の株を薙ぎ払いつつ迫った。

「先読みとかズルくない!?」

 命を懸けた戦闘なのだからズルも何もないけど、とにかく叫びながら鞘を地面に突き刺し、剣魔空斬である程度相殺する。
 剣魔空斬はほぼ抵抗がないように、風の刃を斬り裂いたけど、残った物が俺の足下……鞘にぶつかって甲高い音を発する。

「魔力を流しているのに、鞘に傷が……」

 それだけ、レムレースが魔力を込めていたんだろう。
 もしかしたら渾身の一撃として放ったのかもしれないが、とにかく魔力を纏ってかなりの丈夫さになっていた鞘の表面に薄く切れ込みが入った。
 俺の足は無事だし、特にそちらには痛みはなかったけど……魔力すら通して鞘を傷付けるとは。
 連続した魔法や威力はともかく、俺が避ける先を予測して魔法を使うなんて……。

「戦いの中で成長している……!?」

 なんて、どこぞの台詞のように冗談めかして叫んだけど、内面では本当に驚いている。
 さっきまでは、ただそこにいる俺に向かってか、自分に近付かれないよう罠の穴を作る、という程度だったのに避ける先すら予測して見せた。
 偶然……とたかをくくって油断してしまうわけにはいかないだろう。

「これ、離脱も難しいんじゃ……っとぉ!?」

 空をちらりと見上げると、かなりの高さで飛んでいるリーバーが見えるから、呼べば来てくれるだろう。
 ただ、俺が乗る時に隙ができるので、単純に離脱するのも危険が伴う。
 動きを予測して魔法を放っているなら尚更だ……と考えている俺に対し、今度は水の魔法。
 鉄砲水が生易しく見える程の勢いで、水が数本の線になって矢のように、そして四方八方から飛来――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...