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激しい戦闘の後は美味しい食事の時間
しおりを挟む「さて……と。うん、チビラウネは燃えてなくなったみたいだね。ラミアウネも……燃やすとこうなるのか。念入りにやったらまた違うのかもしれないけど」
火が消えた広場を見て回り、燻っているようなところがないかの確認。
そうしながら、地面を埋め尽くすようだった無数のチビラウネの残骸がなくなっているのも、同時に確かめる。
焦げた地面や、切り株の焼け跡ばかりで、足の踏み場がない程蠢いていたチビラウネは完全にいなくなって灰だけが残っていた。
他にも、ラミアウネは残骸の方も火球を落とすまでは無事だったのも含めて、蛇の体の一部を残すだけになっていた。
その蛇の体はもちろん、表面は焦げて黒くなっていたけど……内部まで焼けてはいないようだ。
生焼けみたいな? ともあれ、顔である花の部分は完全に燃えている。
蛇の部分は燃えにくいのか……花の顔が燃えやすいのはわかるけど、まぁなんにせよ火に弱いというのは本当のようだ。
「よし、もう大丈夫そうだね。っと、そろそろお腹が減ってきたなぁ」
広場の外にある木々も見て、完全に消化されている事を確認したところで、空腹に気付く。
太陽も高い位置だし、昼を少し過ぎたくらいかな? お腹が減るのも当然か。
「もしかして、リーバーがヘルサルの方に向かったのって、お腹が空いたからとかも」
疲れているのもあるんだろうけど……いや、エルサとは違ってリーバー達ワイバーンは、一日三食の必要はない。
まぁ一度に食べる量は、体の大きさに比例して人間よりも多いんだけど、一日一食でも少し多いくらいらしく、二日に一食という個体もいるくらいだ。
だから、お腹が空いたからっていうわけではなさそうだね。
「とにかく、腹ごしらえをしないと……マックスさんが用意してくれた物だから、楽しみだったんだよねぇ」
周囲に魔物はいないし、あれだけの騒ぎがあってもどこからか近付いてくる様子はない。
いやむしろ、ここ最近の森の状況的に、騒ぎがあったから近付かないとか、大量のラミアウネがいた場所には、他の魔物が近付こうとしないのかもしれないけど。
とにかく、背負っていたカバンから、森に入る前に獅子亭で受け取ったお弁当を出そうと思って……ふと気付く。
「……さすがに、ここで食べたらあんまり美味しくなさそうだね」
焚き火とか、温める必要のない物を用意してくれているから、そういった準備は必要ないんだけど、それでも焦げ臭くて色んな物が焼けた臭い、消火直後の独特な臭いが充満している場所では、どんな料理も美味しく頂ける気がしない。
「仕方ない、ちょっとだけ移動しよう。まぁついでに、目に見えない火とか残っていないか、見張るのにもいいかな」
こういった、燃えた跡の場所に慣れていないため、消火できたつもりでも……という可能性が絶対ないとは断言できない。
そのため、もし何かあればすぐ気づく程度に離れて、臭いのない場所で食事にする事にした。
「おぉ、さすがマックスさん。美味しそうだ……」
広場から離れて、兵士さん達への目印代わりに木を斬り倒し、その後の切り株に腰を下ろして食事休憩。
生焼けとはいえ、ほとんどのラミアウネが燃えた後だから、回収の必要があるかは疑問だけど。
ともあれ、カバンから取り出したマックスさんお手製の弁当。
布にくるんである大きめのそれは、焼いたパン。
今朝作ったばかりなんだろう、まだ香ばしい匂いのするパンは太めのバゲットのようで、まだ柔らかくそれだけでもおいしそうだ。
「生地に何か練り込んであるのかな? パンだけの匂いじゃないみたいだけど」
手の込んだ料理をしてくれるマックスさんだ、ただ焼いたパンというだけではないと思う。
そしてそのバゲットの真ん中には切れ目があり、中には具が詰まっていてバゲットサンドになっている。
愚は、野菜類と調理された肉……二種類くらいのスライスされた肉が、葉物野菜に挟まれている。
「この中身だけでも、十分に美味しいんだろうね。いただきまーす!」
肉、野菜とふんだんに使われたサンドの中身。
垂れてしまいそうな涎を我慢し、バゲットサンドを食べ始める。
「うん、美味しい! さすがマックスさん!」
一人で舌鼓を打つけど、本当に美味しい。
バゲットと一緒に口の中に入った野菜と肉は、何かの味を染み込ませてあるのか、噛めば噛むほど味が広がる。
外で魔物と戦った後に食べる事を考えられているからか、ちょっと味が濃い目だけど、それもまた美味しい。
携帯する事も考えられているんだろう、あまり水気がないから、食べ続けていると口の中がパサパサになってしまう心配はあるけど大丈夫。
「そんな時はこっちだ」
カバンの中から取り出したのは、丈夫な革で作られた水筒で、その中身を一緒にカバンに入れていた木のコップに注ぐ。
水筒の中身は水……ではなくスープ。
さすがに、温度変化の少ない魔法瓶的の水筒なわけがないから、冷めてしまっているけど、むしろ冷めるのがわかっていてそれ用に作った冷製スープに近い物だった。
色もクリームみたいな白さで、ヴィシソワーズだったかな? あれに似ている気がするね。
「あぁ、こっちも美味しい……」
バゲットサンドの具と同じく、こちらも味が濃い目だったけど、一口飲むと水分不足だった体に栄養と一緒に染み込むように全身へと広がる感覚。
いや、さすがに本当に広がったりしないし、飲み込んだスープは胃に入るんだけど……それだけ染み渡る感覚って事だ。
水筒にしている革袋は、口の部分がペットボトルの飲み口とそう大差ない大きさのため、その関係上スープの具が入れられないのが少し寂しいけど、そこはバゲットサンドでカバー。
スープの優しいじゃがいもの味が、さらに食欲を湧き立たせ、具がこれでもかと詰まったバゲットサンドも、ペロリと食べ尽くす事ができた。
最初に取り出した時は、少し多めで残すかも? と心配もしていたけど、必要なかったね。
美味しかったからというのもあるけど、スープの効果もあったんだろう。
むしろ、少し足りないかと思えるくらいだ。
まぁ、これからまた森の奥に行って、見つけた魔物と戦うわけだから、エルサみたいに食べ過ぎて動けなくなりそうな程、満腹になるわけにはいかないし、ちょうどいいんだけど。
「マックスさんには感謝だね。というか、携帯食の販売をしたら売れると思うんだけど……」
他の食堂とかでも、こういった携帯食の販売はしているし、実際俺も買った事があるけど……ここまで美味しい物はなかった。
まぁ、各食堂もそこまで力を入れていないって事なんだろうけど。
マックスさんの作った物も含めて、美味しさを追求すると日持ちしない物が多いからね。
大体は、朝作ってその日のうちにか……良くても翌日がギリギリってところだ。
それ以上の日数がかかる旅では、もっと味気ない食料か、調理されていない食料を野営とかで料理するか、現地調達かだ。
そういった物はともかく、昼食でも夕食でもその日に食べるお弁当として売り出せば、マックスさんの作った物は味的にも十分売れると思うんだけどね――。
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