1,566 / 1,903
魔力を飛ばす斬撃
しおりを挟む「そういえば、ベテラン冒険者さんが数人のパーティで討伐する魔物の数は、一日十体程度と言われているんだっけ。もちろん魔物のランクにもよるんだろうけど」
弱くてあまり脅威にならない魔物が群れていたりすると、数は跳ね上がるだろうし、強い魔物が広い範囲で散らばっていると一日で討伐できる数も減るかな。
まぁそれはともかく、このまま逃げてもラミアウネは追って来るだろうし、まだまだ森の奥へ向かうつもりだから邪魔にしかならない。
森の外なら対処もしやすいけど、連れて行くのは論外だ。
というわけで、今しがた有効な攻撃手段を見つけた事だし、とにかく数を減らす事を目標として、戦い続けてみよう。
どうしてもの時はリーバーを呼んで離脱する手もある……って、そうか、リーバーがいるよね。
「いい事を思いついた。じゃあ、準備をしようか……」
頭の中で思い浮かべた事を実行するため、まずはラミアウネに向かって魔力を流した剣を振るう、振るう、振るう。
何度も花粉が散布されたけど、剣を振るう事で俺の周囲にある木々がラミアウネと一緒に斬り裂かれ、倒れていく。
他の木に倒れ掛か買っている木もかなりあるけど、その場合は支えになった木も一緒に斬る。
そうして、俺の周囲の木々は斬り倒され、大きな広場が形成されて花粉の影響も薄まっていった。
あと、剣圧というか、魔力を飛ばしている影響なのか、俺が剣を振るうとそれなりの風が発生して、花粉を吹き飛ばす効果があったのもラッキーだった。
「ふぅ……大分倒せたし、そろそろ良さそうだ。剣魔空斬もある程度わかったし……大変だけどラミアウネと戦うのも無駄じゃなかったね」
数分から十分程度、剣を振るい続けて魔力を飛ばす作業。
俺を中心に、半径十メートル以上の広場ができ上がっている……近くで倒れた木も、剣魔空斬で斬り飛ばしたし、切り株部分も足首までくらいの高さでほぼ均一に残っているくらい。
ラミアウネもそろそろ打ち止めらしく、最低十体以上はいたのが今では五、六体に減ったし、補充される気配はない……大体剣魔空斬を使い始めてから、五十体近く倒したと思うから当然と言えば当然か。
というか、それまでに倒したのと合わせると、百体近くいたって事になるのか……連携だけでなく、兵士さん達が思うように魔物の掃討が進められないわけだね。
ちなみに、剣魔空斬というのは魔力を剣身にまとわせて振るう事で、魔力を刃のように飛ばす事に対して、命名した。
憧れていた技なだけあって、格好つけた名称になったけど。
できれば、四文字の漢字にしたかったんだよね……最初は、剣斬とか空斬とか魔力斬にしようかと思ったけど、適当に空の字を入れてみた、結構お気に入りだ。
その剣魔空斬、最初に予想した通り射程と威力は流す魔力量によって変わる。
多く魔力を流せば流す程、威力というか切れ味も上がって遠くまで届くようになるのがわかった。
ただし、加減しようとしても一定以上の魔力を剣身に纏わせないと飛んで行かなくて、最低限三メートルくらいの距離、複数の木々をスパッと斬る威力にしないといけないみたいだ。
魔力量が多ければという前提付きだけど、使い方は簡単。
ただ持っている剣に次善の一手と同じ要領で魔力を流して纏わせ、その魔力を剣身から引き剥がすように振るうだけ。
通常の剣の振りとは少し違うんだけど、魔力を引き剥がす事で飛んで行って色々と斬れるってわけだね。
本来は剣筋を通すために剣の刃を相手に向けるのが当然なんだけど、剣魔空斬は腹部分を振るう……剣の基礎がしっかり身についている人は、逆に苦手かもしれない。
これがわかってからは、簡単に剣魔空斬を使う事ができるようになった。
それまでは、魔力量を調節しても飛んで行く時と行かない時があったから。
他にも剣を振るう速度なんかも関係しているみたいだけど、その辺りは今はいいか。
「さてと、ラミアウネも新しいのが来ないみたいだし、後片付けも考えなきゃね」
剣魔空斬で作った広場の外側には、木々やラミアウネの残骸が積み上がっている。
そのままにしても、兵士さん達が回収してくれると思うけど……数が多い。
場合によっては数日かかるような物量だ。
ラミアウネというより、斬った木のせいだけど。
「まぁそれよりも、足元の方が問題だからね」
俺の足下……大体二、三歩くらいの距離があるのは、発生した風で飛ばされたからだろうけど、とにかく動かなくなったチビラウネが堆く積まれている。
数を数える気はないし、気持ち悪いのでじっくり観察はしないけど、高さだとそこらの切り株どころか俺の膝くらいだ。
足の踏み場もないとはこの事だね、やったのは俺だけど。
森に入る前、エレノールさんから情報を聞いた時ラミアウネを倒して動かなくなったチビラウネに関しても、少し聞いている。
なんでも、元が毒である花粉と同じような成分? とかなため、そのまま放っておくと土が腐って植物に悪い影響が出るんだとか。
対処法は、植物の根が届かないような地中深くに埋めるか、水で流すか、火で焼くからしい。
穴を掘っている暇はないし、水で流そうにも水がない……持って来ているのは、俺一人分の飲み水くらいだから全く足りない。
なので、一番手っ取り早い手段は火で焼く事。
「このままだと、俺も身動き取れないし……いや、飛んで避けたり踏み潰してとかはできるけどね」
でも、回収を頼んだ兵士さん達でも、このチビラウネの残骸を見たら途方に暮れる可能性が高いからね。
だから、剣魔空斬を使うと決めた時、一緒に思いついた事を実行する段階だ。
まだ残っているラミアウネや、空気中に濃く漂っている花粉も全て一変に片づけられるはず。
というわけで、俺は空に向かって大きく手を振りながら、声を張り上げた。
「おーい、リーバー!!」
広場になって空がよく見えるようになると、近くを優雅に旋回しながら飛んでいるリーバーが確認できるようになっていた。
派手にやっているから、空でも俺の場所が簡単にわかるのは当然か。
とにかく、リーバーに空で待っていてもらうようにしたのは、正解だったね。
「ガァゥ!」
「よーしよし、こっちだー! 下まで降りなくていいから、木の高さより少し上まで降りて来てくれー!」
俺の声を聞き届けたか、手を振っているのに気付いたのか、リーバーはその場で滞空しながら高度を落とし、俺へと大きく鳴いた。
気付いてくれなかったら、木に登って呼びかけようかと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。
「ガァ!」
遠目だからわかりづらいけど、おそらく頷いたっぽいリーバーは、俺のお願い通りゆっくりと硬化して、森の木々より少し高いくらいの位置で止まってくれた。
「それじゃ、そっちに飛び乗るからそのままで!」
「ガゥ!」
「よし……ん、っと!」
リーバーに待ってもらい、その場でジャンプ。
さすがに、一気に飛び乗るとリーバーへの負担が大きいので、無事な木のてっぺんに一度乗ってから、リーバーへと飛び移った――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる