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ラミアウネの包囲を脱出

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「……じっくり観察すると、やっぱり気持ち悪いなぁ」

 俺の周囲を囲むラミアウネ。
 今の所、最初に飛び掛かってきたラミアウネから伝達されているからか、それぞれが俺に花の顔を向けるだけで何もしてこない。
 ただ、周りの木々に巻きついたり、地面で顔をもたげたりしていながらも、臨戦態勢なのはなんとなくわかる。
 そしてその顔……花の中心部にある黒い穴から覗く、白い何かが全てのラミアウネでギョロギョロと忙しなく動いていた。

 俺を獲物と定めているからか、あれがラミアウネの平常なのかはわからないけど、囲まれてどこを見てもラミアウネが目に入ってしまう。
 心臓が悪い人とか、苦手な人はこれだけで失神するんじゃないだろうか? と思ってしまう程、気持ち悪い。
 とはいえ、気持ち悪いからと目を逸らしていたら、このままやられるだけ。
 ジリ、ジリ……と、一部のラミアウネが這いずって少しずつ俺に近付いてきており、包囲をを狭めていから。

「俺をどうにかしようとしているのは、間違いないか。本当、どうしようかな?」

 一か所に集まっているなら、そこに飛び込んで暴れればいいだけだけど、それをさせないように俺を取り囲んでいる。
 どれかのラミアウネに向かえば、別のラミアウネが俺を襲おうとするだろう。
 木に巻きついたり、木の高い位置に登っているのも厄介だ……いや、これは木ごと斬ってしまえばいいのかな。

「とりあえず、包囲を抜け出さないとね……こういう時は一点突破か」

 分厚い包囲というわけではないので、抜けようと思えば抜けられるかもしれない。
 囲まれている状況が不利になるわけだから、一度抜けて再び囲まれないように動きつつ、ラミアウネたちをできるだけ正面に捉えるようにして、順次一体ずつ倒して行けばいいだろうか。
 そうと決まれば、さっさと動くべきだ……俺の右横辺り、一番俺との距離が離れていて、地面に近い位置で木の幹に巻きついているラミアウネに狙いを定める。
 やろうとしている事を悟らせないために、視線は別の方へと向ける。

 簡単な視線誘導だ……誘導されているかはわからないが。
 というか、ラミアウネに俺の狙いを悟るような考える頭があるのかはわからないけどね、頭は花だし。
 ただ少なくとも、獲物に対してがむしゃらに襲い掛かるのではなく、俺の様子を窺っている事から、それなりに考える事はできると思って良さそうだ。

「まぁ、分析していても何も始まらないし、状況は悪くなるだけだろうから……っ! って、うぇ!? 気持ち悪っ!!」

 やるなら包囲が狭まって身動きが取れなくなる前に、と狙っていた右横のラミアウネ……数本の木を越えた先、大体五、六メートル先にいるそいつに対して剣を振るうべく飛び込んだ。
 ……のはいいんだけど、問題はそのラミアウネの下、木の根元付近に無数の小さなラミアウネがいた。
 花の顔と蛇の体という、ラミアウネと同じ見た目ながら単純にサイズを小さくした見た目……これがチビラウネか。

「気持ち悪いけど、四の五の言ってられない! っ!」
「KISI!?」

 飛び込んだために勢いはついているし、俺が動き出した事で他のラミアウネ達が一斉に動いた気配もあるため、止まる事はできない。
 視界から飛び込んでくる気持ち悪さを我慢しながら、狙っていたラミアウネに剣を振るう。
 巻きついていた木の幹ごと斬り裂かれたラミアウネは、驚きなのか断末魔なのか、よくわからない甲高い声を上げた。

「うぇぇ、なんか変な感触が……」

 ズズン……と大きな音を立てて木が倒れ、巻きついていたラミアウネを潰す。
 ただ倒せたからってこの場に留まっていると、他のラミアウネが来ると予想できたので、包囲から抜け出すように倒した木の横をすり抜ける。
 その際、チビラウネ達を踏みつぶしてプチプチとしたような、ブニュッとしているような、慣れない感触が靴を伝わってきた。
 チビラウネは大体、数センチ程度でかなり小さく、目を凝らすと通常のラミアウネと同じく花の中心部にブツブツのような黒い穴があるのがわかる程度で、その奥に白い何かがあるかどうかまでは小さすぎて確認できない。

 無数のチビラウネが、地面で蠢いている様子はラミアウネの黒い穴よりも気持ち悪くて、さっきは目に入った瞬間思わず叫んじゃったけど。
 あれは仕方ないよね。
 とにかく、その無数に発生しているチビラウネは木の根元にいて、足の踏み場もないくらいだったから通るには踏み潰すしかない。
 例え、どれだけ気持ち悪い感触を感じても……こんな事なら、もっと分厚い靴底の物を履いてくれば良かったかなぁ、でもそれだと森の中を歩きにくいし戦闘向きじゃないけど。

 ちなみにそのチビラウネだけど、俺が飛び込んで親のラミアウネが斬られて潰されたため、動かなくなっているんだけど、俺が飛び込んだ直後に無数に飛び掛かって来ていた。
 体の大きさからは想像できない程の速度と、俺の顔目掛けても飛んで来ていたので、ジャンプ力は結構あるっぽい……あと、ラミアウネと違う点として、蛇の体の先、尻尾の当たりが尖って針のようになっていた。
 あれで突き刺して攻撃するんだろう……チビラウネに群がられてやられた場合、無数の刺し傷があるんだろう、とはあまり考えたくないね。
 とはいえ俺の速度に反応できたのは少数で、避けるのは容易だったけど。

 ただ数十どころか数百はいそうなチビラウネが、一斉に飛び掛かってきたらとてもじゃないけど避けられない。
 盾みたいな、面で防ぐ道具が欲しいところだけど、ない物ねだりか。

「俺から距離を離して、ほとんど動かなかったのは花粉を散布してチビラウネを発生させていたんだろうね。結構、ずる賢いというかなんというか……」

 ともあれ、気持ち良さを我慢したおかげで、なんとか包囲を抜けられた。
 距離を取るため、少し走ってから振り向くと、ラミアウネ達は血相を変えて俺へと向かってきているけども。
 いや、花の顔だから本当に血相を変えているのかはわからないけど、なんとなくギョロギョロと動く白い何かが、さっきまでより早くさらに不規則な動きになっている気がしたからね。

「とりあえず、もう一度包囲をするつもりはないみたいだ……そこまで考える程、知能を持っていないのかもしれない」

 もしかしたら、仲間がやられたために怒っているとかかもしれないけど。
 とにかく、ここからが本番だ。
 右手に持った剣と、左手に持った鞘を握りしめ、まずは先頭で俺へと向かって来るラミアウネを迎え撃つべく、構えた。

「……え!?」

 だが、その先頭のラミアウネは、俺との間にある途中の木の枝に巻きついて止まる。
 梯子を外されたというか、俺に巻きつく、もしくは蛇の体を振るって弾き飛ばそうとでもしてくるか……と思ったし、そんな勢いだったんだけど。
 タイミングを合わせて、剣を振るうために俺の方も動作に入っていため、急な静止に思考と動きが追い付かない。
 とはいえ、他のラミアウネとの距離は離れているから、なんとかもう一度待ち構える余裕はありそうだ……と俺が考えたその瞬間の事だった――。


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