1,563 / 1,903
ラミアウネの包囲を脱出
しおりを挟む「……じっくり観察すると、やっぱり気持ち悪いなぁ」
俺の周囲を囲むラミアウネ。
今の所、最初に飛び掛かってきたラミアウネから伝達されているからか、それぞれが俺に花の顔を向けるだけで何もしてこない。
ただ、周りの木々に巻きついたり、地面で顔をもたげたりしていながらも、臨戦態勢なのはなんとなくわかる。
そしてその顔……花の中心部にある黒い穴から覗く、白い何かが全てのラミアウネでギョロギョロと忙しなく動いていた。
俺を獲物と定めているからか、あれがラミアウネの平常なのかはわからないけど、囲まれてどこを見てもラミアウネが目に入ってしまう。
心臓が悪い人とか、苦手な人はこれだけで失神するんじゃないだろうか? と思ってしまう程、気持ち悪い。
とはいえ、気持ち悪いからと目を逸らしていたら、このままやられるだけ。
ジリ、ジリ……と、一部のラミアウネが這いずって少しずつ俺に近付いてきており、包囲をを狭めていから。
「俺をどうにかしようとしているのは、間違いないか。本当、どうしようかな?」
一か所に集まっているなら、そこに飛び込んで暴れればいいだけだけど、それをさせないように俺を取り囲んでいる。
どれかのラミアウネに向かえば、別のラミアウネが俺を襲おうとするだろう。
木に巻きついたり、木の高い位置に登っているのも厄介だ……いや、これは木ごと斬ってしまえばいいのかな。
「とりあえず、包囲を抜け出さないとね……こういう時は一点突破か」
分厚い包囲というわけではないので、抜けようと思えば抜けられるかもしれない。
囲まれている状況が不利になるわけだから、一度抜けて再び囲まれないように動きつつ、ラミアウネたちをできるだけ正面に捉えるようにして、順次一体ずつ倒して行けばいいだろうか。
そうと決まれば、さっさと動くべきだ……俺の右横辺り、一番俺との距離が離れていて、地面に近い位置で木の幹に巻きついているラミアウネに狙いを定める。
やろうとしている事を悟らせないために、視線は別の方へと向ける。
簡単な視線誘導だ……誘導されているかはわからないが。
というか、ラミアウネに俺の狙いを悟るような考える頭があるのかはわからないけどね、頭は花だし。
ただ少なくとも、獲物に対してがむしゃらに襲い掛かるのではなく、俺の様子を窺っている事から、それなりに考える事はできると思って良さそうだ。
「まぁ、分析していても何も始まらないし、状況は悪くなるだけだろうから……っ! って、うぇ!? 気持ち悪っ!!」
やるなら包囲が狭まって身動きが取れなくなる前に、と狙っていた右横のラミアウネ……数本の木を越えた先、大体五、六メートル先にいるそいつに対して剣を振るうべく飛び込んだ。
……のはいいんだけど、問題はそのラミアウネの下、木の根元付近に無数の小さなラミアウネがいた。
花の顔と蛇の体という、ラミアウネと同じ見た目ながら単純にサイズを小さくした見た目……これがチビラウネか。
「気持ち悪いけど、四の五の言ってられない! っ!」
「KISI!?」
飛び込んだために勢いはついているし、俺が動き出した事で他のラミアウネ達が一斉に動いた気配もあるため、止まる事はできない。
視界から飛び込んでくる気持ち悪さを我慢しながら、狙っていたラミアウネに剣を振るう。
巻きついていた木の幹ごと斬り裂かれたラミアウネは、驚きなのか断末魔なのか、よくわからない甲高い声を上げた。
「うぇぇ、なんか変な感触が……」
ズズン……と大きな音を立てて木が倒れ、巻きついていたラミアウネを潰す。
ただ倒せたからってこの場に留まっていると、他のラミアウネが来ると予想できたので、包囲から抜け出すように倒した木の横をすり抜ける。
その際、チビラウネ達を踏みつぶしてプチプチとしたような、ブニュッとしているような、慣れない感触が靴を伝わってきた。
チビラウネは大体、数センチ程度でかなり小さく、目を凝らすと通常のラミアウネと同じく花の中心部にブツブツのような黒い穴があるのがわかる程度で、その奥に白い何かがあるかどうかまでは小さすぎて確認できない。
無数のチビラウネが、地面で蠢いている様子はラミアウネの黒い穴よりも気持ち悪くて、さっきは目に入った瞬間思わず叫んじゃったけど。
あれは仕方ないよね。
とにかく、その無数に発生しているチビラウネは木の根元にいて、足の踏み場もないくらいだったから通るには踏み潰すしかない。
例え、どれだけ気持ち悪い感触を感じても……こんな事なら、もっと分厚い靴底の物を履いてくれば良かったかなぁ、でもそれだと森の中を歩きにくいし戦闘向きじゃないけど。
ちなみにそのチビラウネだけど、俺が飛び込んで親のラミアウネが斬られて潰されたため、動かなくなっているんだけど、俺が飛び込んだ直後に無数に飛び掛かって来ていた。
体の大きさからは想像できない程の速度と、俺の顔目掛けても飛んで来ていたので、ジャンプ力は結構あるっぽい……あと、ラミアウネと違う点として、蛇の体の先、尻尾の当たりが尖って針のようになっていた。
あれで突き刺して攻撃するんだろう……チビラウネに群がられてやられた場合、無数の刺し傷があるんだろう、とはあまり考えたくないね。
とはいえ俺の速度に反応できたのは少数で、避けるのは容易だったけど。
ただ数十どころか数百はいそうなチビラウネが、一斉に飛び掛かってきたらとてもじゃないけど避けられない。
盾みたいな、面で防ぐ道具が欲しいところだけど、ない物ねだりか。
「俺から距離を離して、ほとんど動かなかったのは花粉を散布してチビラウネを発生させていたんだろうね。結構、ずる賢いというかなんというか……」
ともあれ、気持ち良さを我慢したおかげで、なんとか包囲を抜けられた。
距離を取るため、少し走ってから振り向くと、ラミアウネ達は血相を変えて俺へと向かってきているけども。
いや、花の顔だから本当に血相を変えているのかはわからないけど、なんとなくギョロギョロと動く白い何かが、さっきまでより早くさらに不規則な動きになっている気がしたからね。
「とりあえず、もう一度包囲をするつもりはないみたいだ……そこまで考える程、知能を持っていないのかもしれない」
もしかしたら、仲間がやられたために怒っているとかかもしれないけど。
とにかく、ここからが本番だ。
右手に持った剣と、左手に持った鞘を握りしめ、まずは先頭で俺へと向かって来るラミアウネを迎え撃つべく、構えた。
「……え!?」
だが、その先頭のラミアウネは、俺との間にある途中の木の枝に巻きついて止まる。
梯子を外されたというか、俺に巻きつく、もしくは蛇の体を振るって弾き飛ばそうとでもしてくるか……と思ったし、そんな勢いだったんだけど。
タイミングを合わせて、剣を振るうために俺の方も動作に入っていため、急な静止に思考と動きが追い付かない。
とはいえ、他のラミアウネとの距離は離れているから、なんとかもう一度待ち構える余裕はありそうだ……と俺が考えたその瞬間の事だった――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生最強ゴリラの異世界生活 娘も出来て子育てに忙しいです
ライカ
ファンタジー
高校生の青年は三年の始業式に遅刻し、慌てて通学路を走っているとフラフラと女性が赤信号の交差点に侵入するのが見え、慌てて女性を突き飛ばしたがトラックが青年に追突した
しかし青年が気がつけば周りは森、そして自分はゴリラ!?
この物語は不運にも異世界に転生した青年が何故かゴリラになり、そして娘も出来て子育てに忙しいが異世界を充実に過ごす物語である
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる