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獅子亭に集まる冒険者さん達
しおりを挟む「えーっと……マックスさんは……?」
獅子亭はいつものように、行列ができて大忙しなのかと思いきや、何故かお店の前に数十人の人だかりができていて、店の中には入っていかない様子だった。
戸惑いつつも、正面は人が多くて目立つので裏から獅子亭に入って、マックスさんを探す。
「お、リク!」
獅子亭の中では、いつも通り料理に舌鼓を打つお客さんでごった返しており、マリーさん達が忙しなく給仕をしていた。
大忙しなのは、相変わらずだったね。
そんな中、厨房の方から入ってきた俺を見つけたマックスさんから、声を掛けられる。
「マックスさん。えっと、昨日言っていた事ですけど……」
「あぁ、準備はできているぞ」
「ありがとうございます。それにしても、店の外に冒険者さん達が集まっていたようですけど、あれは?」
作ってくれていた、料理の入った包みを受け取ってお礼を言いつつ、外の様子について尋ねてみる。
外にいたのは、移送してきた冒険者さん達……以前から顔見知りだった人や、エルサで運ぶ時に覚えた人もいたから、間違いない。
「あれか。あれは、ソフィーやフィネがな……いや、最初のきっかけは元ギルドマスターの奴が原因か」
「元ギルドマスターさん? ソフィーやフィネさんも関わっているんですか?」
集まっている人達全員を見たわけじゃないけど、あの中に元ギルドマスターさんと、ソフィーやフィネさん達がいたのか。
気付かなかった……ごつごつした装備やら、筋骨隆々な人もいたし、その中に紛れてというか物理的に見えなかったんだろう。
元ギルドマスターさんは、昨日の冒険者移送の時一緒にヘルサルに戻ったから、いてもおかしくないんだけどね。
「まぁな。森に魔物を討伐するために入る前準備って事らしいんだが……」
マックスさんが言うには、森に入る予定の冒険者さん達を集めて、その中から森に詳しい人や元ギルドマスターから講習会というか、心得みたいなのを伝えるためなんだとか。
センテやヘルサル周辺で活動していた冒険者さんが多いとはいえ、全ての人が森に入るような依頼をこなしているわけじゃないらしいからとの事だ。
冒険者さん達は、ある程度わかっている人が多いらしいけど確認の意味もあるみたいだね。
希望者には、元ギルドマスターとソフィーとフィネさんの三人相手に、模擬戦もする予定とか……それ、ただ単にソフィーや元ギルドマスターが訓練を兼ねて戦いたいだけな気がするけど、まぁいいか。
とりあえず備えという意味ではいいと思う……というか、これから森に入る俺も一緒に話を聞きたいくらいだ。
まぁ、ヤンさんとエレノールさんが森の情報を収集してくれているし、これから合流予定だから残念だけど時間がないか。
あ、そうだ……。
「マックスさん、ヤンさん達冒険者ギルドの人に頼んで、森の現状に関する情報収集をしてもらっているんです」
「おぉ、それはいいな。街近くの森だから、入った事のある奴は多いが……今どうなっているかまではわからないからな」
「はい。まぁ、ほとんど俺のせいなんですけど……森自体も半分くらいなくなってしまいましたし」
そのせいで、魔物達の分布とか生態とかが多少なりとも変わっている可能性が高いから、念のためヤンさんに情報提供をお願いしたんだけど。
「それで、最近森に入っている兵士さん達から聞き取りもしてくれるみたいで。俺はこれから森に行きますけど、明日以降から森に入る冒険者さんには、貴重な情報だと思うんです。後で、こちらに来るようお願いしておきますね」
「助かる。やはり生の情報というのは大事だ。元ギルドマスター達も、森に関しては以前までの情報で止まっているわけだからな」
「まぁ、向こうも忙しそうでしたし、絶対ここに来てくれるとは限りませんけど……」
センテから移送した冒険者や、元々ヘルサルに残っていた冒険者さん達全員が、獅子亭の前に集まっているというわけじゃないからね。
さっき行った時、冒険者ギルド内は賑やかさを取り戻していて、職員さん達も忙しそうだった。
全員が全員、森に入る依頼を受けるわけじゃないから当然なんだけども。
「リクの頼みを断るような職員は、ヘルサルのギルドにはいないだろう。いや、センテもそうか。もしかすると、王都や他の冒険しいゃギルド支部もかもしれないが……ともあれ、もし来ないようであれば、こちらから元ギルドマスターや、ソフィー達に……」
「あんた! 注文が入ってるよ! さっさと調理してくれないとお客さんを待たせちまう!」
マックスさんの言葉の途中で、ホールから響くマリーさんの声。
相変わらず忙しい獅子亭で、マックスさんとこれ以上話を続けるのは迷惑になりそうだね。
「あぁ、わかった! すまないな、あまり長く話してはいられないみたいだ」
マリーさんに返事をした後、すまなそうにこちらを見るマックスさん。
邪魔をしているのか俺の方だから、謝るのはこちらなんだけど……。
「いえ、忙しいのにすみません。持っていく料理もわざわざ作ってくれて……」
「何、それくらい片手間だ。まぁ、あまり心配する必要はないだろうし、森に入った事もあるだろうが、一応は気をつけてな」
「はい、ありがとうございます!」
マックスさんにお礼を言って、これ以上邪魔をしないように獅子亭を出る。
入った時と同じく裏口からだ……表の出入り口は、お客さんでごった返していたからね。
多分、冒険者さん達がお店の前に集まっているのもあるんだろう。
獅子亭から離れる前、ごつい冒険者さん達に紛れているソフィーやフィネさんを見つけ、軽く手を振って合流予定のヘルサル東門へと向かった――。
「はぁ、はぁ……! リク様、お待たせしました!」
東門に到着後、リーバーと衛兵さん達と少しだけ話して待っていると、エレノールさんが息を切らして門の外から入ってきた。
「いえ、あまり待っていませんから気にしないで下さい。外から入ってきたという事は、兵士さん達から?」
「はい。王軍の兵士達から、森の情報の聞き取りをしていました」
ヴェンツェルさん指揮の王軍は、到着時は西側だったけど今はヘルサル東側に展開している。
まぁ街に受け入れられて、多くは街中の複数の宿を使っていたりはするんだけど、森からの魔物や解氷作業のために昼夜問わず街の外で待機してくれている。
その王軍の駐屯地になっている場所に行って、情報を聞いてきたんだろう。
ちなみに、さすがに短時間では森の細部までは聞き取れなかったらしいので、今も職員さん数名が駐屯地に留まって話をしているらしい。
「そちらは、後で冒険者さん達に共有しておいて欲しいんですけど、できますか? 冒険者ギルドだけじゃなくて、今獅子亭の方にも集まっているみたいなので。元ギルドマスターさんも一緒に」
「畏まりました。冒険者に依頼をこなしてもらうのがギルドの役目ですが、そのために必要な事、生存率や達成率を上げるためなら協力は惜しみません」
「お願いします」
新しい情報の共有を、元ギルドマスターさん達にもしてもらえるよう、エレノールさんにお願いした――。
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