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アンリさん達の取り調べを終える
しおりを挟む「ともかく、そんな魔物にぶつけようなんて事は考えていませんから、安心してください。まぁクランの目的は色々とありますけど……基本的には、それぞれが冒険者としてギルドからの依頼を受けて、活動してもらうくらいです」
……帝国との戦争になれば、アテトリア王国側について戦うというのもあるんだけど、それはまだ知らされていないようなので今は話さないでおく。
長くなるだろうし、言っても多分というか、むしろアンリさんは参加してくれそうだけど。
「それなら……でも一応、ルギネからは許可を」
「それはもちろんです。パーティリーダーですし、ルギネさんにもちゃんと話します」
ルギネさんに話す時には、帝国との事もちゃんと話して、すぐにではなくともアンリさんやグリンデさん、ミームさんとも話し合って決めてもらおうと思っている。
とりあえず今は、アンリさんが暴走しても心配がなくする方法がある、と示せるだけで良いからね。
……傍からは割と熱心に勧誘しているようにも見えたかもしれないから、レッタさんが邪推したのも仕方ないかもしれないけど。
決して、女性を誘う事での邪な気持ちは一切ないという事だけは、断言しておこう、自分の心に。
「ありがとう、リクさん。問題が解決したわけではないけれど、少し落ち着く事ができたわ。止めてもらえる、ルギネ達ともまた一緒にいられる、とわかっただけでも大分救われた気持ちよ」
さっきまでの落ち込みや、体を震わせていたアンリさんではなく、真っ直ぐ俺を見上げてお礼を言われる。
ちょっと面映ゆいな……アンリさんを助けるっていう意味がないとは言わないけど、元々クランには誘う予定だったし、俺としては特別な事をしたつもりはないのに。
「まぁ、クランに入ったらいっぱい働いてもらう事になるかもしれませんので、実は断っておいた方が良かった、なんて思ったりもするかもしれませんけどね?」
照れが勝って、冗談交じりにそう言う俺。
差し当たって帝国との事で、忙しくなる可能性は高いから嘘ではないんだけどね。
とはいえまだまだクランそのものが発足してすらいないから、どう働いてもらうかなんてのも考えていないんだけど。
あと、俺がまともにクランを運営できるかという問題も……モニカさん達に協力してもらえば、なんとかなると思いたい。
「ふふ、人使いの荒いクランマスターさん。まだ決まっていないけど、とりあえずこれからよろしくね? ほら、グリンデも」
「ほ、本当に、甚だ不本意ではあるけど……完膚なきまでに不本意だけれど、お姉様とアンリ共々よろしくお願いするわ。絶対的に不本意だけれどね!」
「ははは、よろしくお願いします」
表情がこれまでのように柔らかなくなったアンリさんに促され、グリンデさんも渋々ながらよろしくされた。
何度も不本意と言っているのはまぁ、ルギネさんの事で変に俺を敵視しているからだろうけど……とりあえず苦笑して頷いておく。
そのうち、誤解を解いておかなきゃね。
ただ、グリンデさんにとってルギネさんが第一なのはともかく、ミームさんの事も忘れないであげて欲しいけども。
できれば二人共と、握手しておきたかったけど、グリンデさんは俺と握手するのは嫌がりそう、というか男と手を握り合うのは拒否されそうだから、やめておく。
アンリさんは、もう大丈夫だと思うけどまだ椅子に拘束されて手足が自由じゃないからね。
そんなこんなで、レッタさんに茶化されながらも少しだけ、グリンデさんやアンリさんと話して今回の取り調べを終える。
二人共、帝国に与していた事実も、これから帝国側に付く事もないと確認されたから、アンリさんの拘束も含めて解放だ。
アンリさんやグリンデさんの話した事が、真実なのかの裏どりみたいな事はほとんどできないのは仕方ないけど、レッタさんの話なども含めておそらく嘘は言っていないと、ベリエスさん達も判断してくれた。
まぁ一番は、魔力貸与の影響とレッタさんを見て正気を失い、暴走した事が決め手になった部分もあるみたいだけど。
もし嘘をついている帝国側の人間なら、レッタさん相手に激高したりはしないだろうからね。
あと、レッタさんが話したアンリさんが死んだものとして廃棄した、という事を真実だと裏付ける要素の一つとして、例の組織のほぼ全員に施されている歯の仕込み毒も、アンリさん達にはなかった。
口の中を見る事になるわけで、確認は女性職員さんにやってもらったけど。
特にアンリさんは、目隠しされて拘束されていたとはいえ、魔力貸与のためクズ皇帝の前に出ているわけで、もし帝国や組織の人間なら確実に仕込み毒があるはずだから。
ちなみにだけど、仕込み毒自体は成功例の人達……レッタさんやツヴァイ、クラウリアさんなどには施されていないんだとか。
クラウリアさんとか、一部の人には仕込んだふりをしているだけらしいけど、そもそも魔力貸与をしている以上、レッタさんとクズ皇帝が協力した場合、相手の魔力を操作してどうにでもできる、みたいな事だかららしい。
レッタさんがもうクズ皇帝から離れているので、そんな事は起こらないしやれなくなったけど……仕込み毒といい、とにかく相手を自分の思う通りに、絶対に逆らえないようにするのが好きなんだと改めて納得した。
復讐を誓っているレッタさんだけでなく、破壊神でむしろそれに繋がる要素なら歓迎しそうなロジーナですら、クズ皇帝の名前をこれまで一度も呼ばずに嫌っているのもわかるってものかな。
……そういえば、俺もクズ皇帝って頭の中で呼んでいるけど、名前はなんなんだろう?
ないわけはないし……まぁ、そこまで知りたいわけじゃないし、知ってどうにかなるわけでもないから、別にいいんだけど――。
「お待たせ、モニカさん。ちょっと長くなっちゃったけど」
思っていたより長くなってしまった、アンリさん達の取り調べを終えて、モニカさんやルギネさん達のいる待合室に戻ってモニカさんの声をかける。
待合室……でいいのかな? 地下牢に入る前の部屋で、簡素に机と数個の椅子くらいしかなくて、くつろげそうにはないけど……。
ちょっと意味合いが変わるけど、牢屋を管理するための前室のような物かもしれない。
「リクさん!」
「リ……」
「お姉様ぁぁぁ!!」
「おぐっ! お、おぉ、グリンデ……」
こちらを振り返ったモニカさんは、俺の顔を見てホッとした様子……何やら疲れているようにも見えるけど、こちらでも何かあったんだろうか?
それはともかく、俺と一緒に出てきたグリンデさんが、声を出そうとしたルギネさんに突撃。
お腹に頭頂部が突き刺さった。
結構痛そうだけど、それでも受け止めて引き攣ってはいても、笑顔を返せるのはさすがと言えるのかもしれない。
「会いたかったです、お姉様ぁ! むくつけき男達に、お姉様と引き離されて……こうしてお姉様に抱き締められるのを、一日千秋の思いで……!」
ルギネさんに抱き着いて離さない、とばかりに力を込めているグリンデさん。
けど、むくつけき男達って……別にグリンデさんは拘束されていたわけじゃないし、事情を聞くためと、外部に漏れないために地下牢まで同行してもらったくらいなのに。
まぁ地下牢っていうのは、イメージ的にも不安にさせたのかもしれないけど。
あと一日千秋って、ルギネさんと離れてから長く見ても数時間くらいだ……それだけ長く感じたって事かもしれないけども――。
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