上 下
1,542 / 1,903

アンリさん達の取り調べを終える

しおりを挟む


「ともかく、そんな魔物にぶつけようなんて事は考えていませんから、安心してください。まぁクランの目的は色々とありますけど……基本的には、それぞれが冒険者としてギルドからの依頼を受けて、活動してもらうくらいです」

 ……帝国との戦争になれば、アテトリア王国側について戦うというのもあるんだけど、それはまだ知らされていないようなので今は話さないでおく。
 長くなるだろうし、言っても多分というか、むしろアンリさんは参加してくれそうだけど。

「それなら……でも一応、ルギネからは許可を」
「それはもちろんです。パーティリーダーですし、ルギネさんにもちゃんと話します」

 ルギネさんに話す時には、帝国との事もちゃんと話して、すぐにではなくともアンリさんやグリンデさん、ミームさんとも話し合って決めてもらおうと思っている。
 とりあえず今は、アンリさんが暴走しても心配がなくする方法がある、と示せるだけで良いからね。
 ……傍からは割と熱心に勧誘しているようにも見えたかもしれないから、レッタさんが邪推したのも仕方ないかもしれないけど。
 決して、女性を誘う事での邪な気持ちは一切ないという事だけは、断言しておこう、自分の心に。

「ありがとう、リクさん。問題が解決したわけではないけれど、少し落ち着く事ができたわ。止めてもらえる、ルギネ達ともまた一緒にいられる、とわかっただけでも大分救われた気持ちよ」

 さっきまでの落ち込みや、体を震わせていたアンリさんではなく、真っ直ぐ俺を見上げてお礼を言われる。
 ちょっと面映ゆいな……アンリさんを助けるっていう意味がないとは言わないけど、元々クランには誘う予定だったし、俺としては特別な事をしたつもりはないのに。

「まぁ、クランに入ったらいっぱい働いてもらう事になるかもしれませんので、実は断っておいた方が良かった、なんて思ったりもするかもしれませんけどね?」

 照れが勝って、冗談交じりにそう言う俺。
 差し当たって帝国との事で、忙しくなる可能性は高いから嘘ではないんだけどね。
 とはいえまだまだクランそのものが発足してすらいないから、どう働いてもらうかなんてのも考えていないんだけど。
 あと、俺がまともにクランを運営できるかという問題も……モニカさん達に協力してもらえば、なんとかなると思いたい。

「ふふ、人使いの荒いクランマスターさん。まだ決まっていないけど、とりあえずこれからよろしくね? ほら、グリンデも」
「ほ、本当に、甚だ不本意ではあるけど……完膚なきまでに不本意だけれど、お姉様とアンリ共々よろしくお願いするわ。絶対的に不本意だけれどね!」
「ははは、よろしくお願いします」

 表情がこれまでのように柔らかなくなったアンリさんに促され、グリンデさんも渋々ながらよろしくされた。
 何度も不本意と言っているのはまぁ、ルギネさんの事で変に俺を敵視しているからだろうけど……とりあえず苦笑して頷いておく。
 そのうち、誤解を解いておかなきゃね。
 ただ、グリンデさんにとってルギネさんが第一なのはともかく、ミームさんの事も忘れないであげて欲しいけども。

 できれば二人共と、握手しておきたかったけど、グリンデさんは俺と握手するのは嫌がりそう、というか男と手を握り合うのは拒否されそうだから、やめておく。
 アンリさんは、もう大丈夫だと思うけどまだ椅子に拘束されて手足が自由じゃないからね。
 そんなこんなで、レッタさんに茶化されながらも少しだけ、グリンデさんやアンリさんと話して今回の取り調べを終える。
 二人共、帝国に与していた事実も、これから帝国側に付く事もないと確認されたから、アンリさんの拘束も含めて解放だ。

 アンリさんやグリンデさんの話した事が、真実なのかの裏どりみたいな事はほとんどできないのは仕方ないけど、レッタさんの話なども含めておそらく嘘は言っていないと、ベリエスさん達も判断してくれた。
 まぁ一番は、魔力貸与の影響とレッタさんを見て正気を失い、暴走した事が決め手になった部分もあるみたいだけど。
 もし嘘をついている帝国側の人間なら、レッタさん相手に激高したりはしないだろうからね。
 あと、レッタさんが話したアンリさんが死んだものとして廃棄した、という事を真実だと裏付ける要素の一つとして、例の組織のほぼ全員に施されている歯の仕込み毒も、アンリさん達にはなかった。

 口の中を見る事になるわけで、確認は女性職員さんにやってもらったけど。
 特にアンリさんは、目隠しされて拘束されていたとはいえ、魔力貸与のためクズ皇帝の前に出ているわけで、もし帝国や組織の人間なら確実に仕込み毒があるはずだから。
 ちなみにだけど、仕込み毒自体は成功例の人達……レッタさんやツヴァイ、クラウリアさんなどには施されていないんだとか。
 クラウリアさんとか、一部の人には仕込んだふりをしているだけらしいけど、そもそも魔力貸与をしている以上、レッタさんとクズ皇帝が協力した場合、相手の魔力を操作してどうにでもできる、みたいな事だかららしい。

 レッタさんがもうクズ皇帝から離れているので、そんな事は起こらないしやれなくなったけど……仕込み毒といい、とにかく相手を自分の思う通りに、絶対に逆らえないようにするのが好きなんだと改めて納得した。
 復讐を誓っているレッタさんだけでなく、破壊神でむしろそれに繋がる要素なら歓迎しそうなロジーナですら、クズ皇帝の名前をこれまで一度も呼ばずに嫌っているのもわかるってものかな。
 ……そういえば、俺もクズ皇帝って頭の中で呼んでいるけど、名前はなんなんだろう?
 ないわけはないし……まぁ、そこまで知りたいわけじゃないし、知ってどうにかなるわけでもないから、別にいいんだけど――。


「お待たせ、モニカさん。ちょっと長くなっちゃったけど」

 思っていたより長くなってしまった、アンリさん達の取り調べを終えて、モニカさんやルギネさん達のいる待合室に戻ってモニカさんの声をかける。
 待合室……でいいのかな? 地下牢に入る前の部屋で、簡素に机と数個の椅子くらいしかなくて、くつろげそうにはないけど……。
 ちょっと意味合いが変わるけど、牢屋を管理するための前室のような物かもしれない。

「リクさん!」
「リ……」
「お姉様ぁぁぁ!!」
「おぐっ! お、おぉ、グリンデ……」

 こちらを振り返ったモニカさんは、俺の顔を見てホッとした様子……何やら疲れているようにも見えるけど、こちらでも何かあったんだろうか?
 それはともかく、俺と一緒に出てきたグリンデさんが、声を出そうとしたルギネさんに突撃。
 お腹に頭頂部が突き刺さった。
 結構痛そうだけど、それでも受け止めて引き攣ってはいても、笑顔を返せるのはさすがと言えるのかもしれない。

「会いたかったです、お姉様ぁ! むくつけき男達に、お姉様と引き離されて……こうしてお姉様に抱き締められるのを、一日千秋の思いで……!」

 ルギネさんに抱き着いて離さない、とばかりに力を込めているグリンデさん。
 けど、むくつけき男達って……別にグリンデさんは拘束されていたわけじゃないし、事情を聞くためと、外部に漏れないために地下牢まで同行してもらったくらいなのに。
 まぁ地下牢っていうのは、イメージ的にも不安にさせたのかもしれないけど。
 あと一日千秋って、ルギネさんと離れてから長く見ても数時間くらいだ……それだけ長く感じたって事かもしれないけども――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...