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クランへの誘い

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「……アンリさんは、どうしたいですか?」
「私は……わからないわ。これまで通り、ルギネ達と冒険者として気楽にとは思う。けど、もし何かあって、さっきのような事になったら私は……」

 俺の問いかけに、震えを強くするアンリさん。
 もしかすると、さっきのように正気を失ったら真っ先にルギネさん達が巻き込まれる、と考えているのかもしれない。
 まぁ、一番近くで一緒にいるんだから、それも当然か。

「思い当たる節はあるの。ちょっとした事だから、さっきみたいにはなっていないのだけど……ほら、リクさんも知っているように、ヘルサルで私は……」
「あーそういえば」

 ごろつき冒険者に絡まれた、というかナンパされて吹っ飛ばしたっていうのがあった。
 あれには、同じくナンパされたルギネさん達もやりすぎという感覚だったらしいけど……男達をぶっ飛ばして屋台が壊れたくらいだからね。
 さっきの暴走程じゃなくても、制御は効きにくいのかもしれない。

「もし、ルギネやグリンデ、ミームに何かあったら……私はどうしたらいいのか。いえ、私がやってしまうのだから、どうしたらいいかなんて考えて許されるわけじゃないわ」
「アンリ……」

 声を震わせるアンリさんに、グリンデさんがそっと背中に手を当てる。
 さっきの様子を見ていたから、グリンデさんにどうにかできるわけじゃないのはわかってはいるんだろうけど、仲間だから手を差し伸べずにはいられなかったんだろう。

「せっかく、せっかくこの国に来て、帝国での事を忘れられるかもって……それでなくても、気の言い仲間たちと出会えたのに。それを、私は私の手で壊してしまうかもしれないなんて……」

 想像してしまったのか、涙を流すアンリさん。
 レッタさんは様子を見ているだけなのはともかく、ベリエスさんもギルド職員さんも、アンリさんの背中に手を当てているグリンデさんも、何を言っていいのかわからず押し黙る。
 ベリエスさん達は、あくまで冒険者ギルドとしての対応を言っただけで、何もなければ見放す事はないと言っているようなものだったんだけど……アンリさんにとっては起こり得る未来として考えてしまっているのかもね。
 だったら……。

「アンリさん、話は変わりますけど……俺が冒険者ギルドから、クランを作れって言われているのは知っていますか?」
「クラン……? そういえばそんな話を聞いた気はするわ。でも、なんで今そんな事を……?」

 急に話を変えた俺にを見上げるアンリさん。
 完全じゃないけど、涙が流れる勢いは薄れたようだ。
 うん、やっぱり涙が流れないようにするには、上を向くのがいいね……なんて、昔日本で聞いた歌の歌詞の一部を思い出しながらどうでもいい事を考えつつ、アンリさんに話す。

「そのクランなんですけど、ギルドの人達も探してくれているんですけど絶賛メンバー募集中なんです。とりあえず、俺やモニカさん達のパーティと……リネルトさんとアマリーラさんも、って事でいいのかな? あ、リネルトさんとアマリーラさん、獣人なんですけど」
「知っているわ。というか、センテに今いる冒険者で知らない人はいないはずよ」
「そうだったんですね」

 まぁ、Aランク相当と言われている人達だし、魔物達との戦いでもかなり活躍したみたいだから、知っていて当然か。

「あとは……何人か有力な人もいるにはいますけど、決まっていません」

 マックスさんに弟子入りしようとしていた、トレジウスさんとかそのパーティの人達とかね。
 他には……あれ、思いつかないや。
 もしかして俺って、人脈というか知り合いが少ない寂しい人!? いや、顔見知りならいっぱいいるから、そんなはずは……。

「……一体、何が言いたいの?」

 変な方向に思考が逸れていたのを、アンリさんが訝し気な様子で聞かれて引き戻される、いけないいけない。
 というかうーん、ここまで言っても察してくれないか……アンリさんは自分の事で察するどころじゃないんだろうけど。

「アンリさんさえ良ければ、クランに入りませんか?」
「は?」

 アンリさんがもし何かのきっかけで暴走した時、止められる人が近くにいれば安心すると思うんだ。
 俺はさっきのように、もしかしたらアマリーラさんとかも体験を振り回すあの膂力なら、止めてくれるかもしれないし。
 ……リネルトさんとか、あの素早さならギルド職員さんがさっきやってくれた程かはともかく、捕縛術とか扱えそうだからね。
 止める事ができれば、アンリさんが周囲に被害を出すような可能性は減るし、そうすれば冒険者ギルドが見放す事だってなくなるはずだ。

 まぁもし何かあっても、冒険者としてではなくユノみたいな協力者的な感じで、クランのメンバーとしている事はできると思う。
 あとは、ロジーナが俺の担当というか面倒を見る役割になっている以上、レッタさんもそばにいるだろうから、魔力誘導でアンリさんを落ち着かせる事だってできるわけで。

「リクさん、何を言っているの? こんな、もしかしたら迷惑しかかけないような私を、クランに入れたりなんかしたら……」

 キョトンとした表情で俺を見上げるアンリさん。
 グリンデさんも、それからベリエスさんやギルド職員さんも、俺をポカンとした表情で見ている。
 そんなに、変な事を言ったつもりはないんだけどな……唯一、レッタさんだけは特に変わった様子はない。
 多分、俺がこう言い出すだろうとか、もしくは別の案を持ち掛けるとわかっていたのかもしれない。

「その時は、俺や他の人達でなんとかさっきみたいに止めますよ。まぁ、俺がずっとというわけにはいかないかもしれないので、他の人にも協力してもらう必要はあるでしょうけど」

 今考えた事だけど、アマリーラさんとかね。

「それに、レッタさんはロジーナと一緒に、俺といる事になったので……まぁアンリさんとしては、あまり近くにいて欲しい相手ではないかもしれませんが。それでも、さっきみたいに落ち着かせる事だってできますから」
「そうなのよねぇ。まぁリクを見ればあっちに戻るなんて、自ら負けに行くようなものだから仕方ないのだけど、強制されて私はリクと一緒にいる事になったの」
「……それだけだと、俺が強制的にレッタさんを連れているように聞こえるので、やめてください」
「違うの?」
「違いますよ」

 からかうようなレッタさんに、ジト目で返す。
 打ち解けた、という程親しくなったわけじゃないけれど、それでもここ数日である程度は冗談も交えて話してくれるようになったレッタさん。
 ロジーナの事もあって、ロリコンとか濡れ衣を着せられていた時が嘘みたいだけど、悪い事じゃない。
 人聞きの悪い事を言わなければだけど。

「それにしてもリク、この子まで勧誘するなんて……リクは女性ばっかり集めているのね。もしかして、あのゴミクズと同じように女性を弄ぶきじゃ……」
「そんな事しませんよ! 偶然、偶然ですから!」

 モニカさん達、それからアマリーラさん達に、アンリさん……モニカさん達はパーティメンバーだから当然ではあるけど、確かに女性ばっかりと言われてもおかしくない。
 本当に偶然なんだけどな……アマリーラさん達なんて、押しかけみたいな感じだし――。


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