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リクが引っかかっていた事

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「うぅ、えっと……」

 思い出しながら、ベリエスさんに怪しいらしい依頼の内容を答えるグリンデさん。
 その以来の内容は、魔物を追い払うだけというものだったらしい。
 討伐ではなく追い払うだけ……まぁそういう事もあるかも、とは思うけどグリンデさんが言うには、一定の方向に向かうように、魔物を追い詰めて逃がせというものだったらしい。
 ただ危険がないように追い払うならまだしも、方向とかを指定されているのは妙だ。

「もしかすると、裏ギルドの一部の依頼が混ぜられているのかもしれません」

 とベリエスさんが言っていた。
 表には出せないような危険で、悪い事を依頼でさせるのが裏ギルドだけど、それに繋がるとしても、多少怪しまれそうな内容でも法や決まりに触れないような内容であれば、通常の依頼として出せるからか。
 魔物に関しては、レッタさんの話を聞いた今なら研究だとかのために、誘導させる必要があって依頼を……なんて考えられる。
 レッタさんの村に集まったらしい魔物は、人為的に集められていたらしいし。

 時期的には違うから、グリンデさんの受けた依頼はレッタさんとは無関係だとは思うけど。
 多分、似たような事を他でもしているんだろう。

「とりあえず、あなたたち二人の言い分は信用する事にします。要観察であり、不審な動きをすると疑いが深まるので気を付けてください」
「えぇ、わかったわ」
「なんで私が、こんなに疑われないといけないのよ……」

 ベリエスさんの言葉に対し、素直に頷くアンリさんと、不満たらたらなグリンデさん。
 帝国が何を企んでいて、何をしているのかの詳細を知らないので、こうした取り調べを受ける事を不満に思うのは無理もないけど……ただグリンデさん、そこで俺を睨むのは違うと思います。
 ただただ悪い事はしていない、と主張するアンリさんよりも、疑いが深まる可能性があったのに怪しいかもしれない依頼の事を話してくれた、グリンデさんの方が信用はできそうだけど。

 いやまぁ、二人共嘘は言っているようには見えないから、本当に裏ギルドの依頼を受けて実行してイタリハしていないんだろうけどね。
 うん、嘘は言っていないだろうし、悪い事もしていない……とは思う。

「リク様、お待たせしました」
「あ、おかえりなさい。あの人は?」
「指示通りに。少々、連れ出すのに苦労しましたが……」
「ありがとうございます」

 そうこうしているうちに、俺がお願い事をしていたギルド職員さんが戻ってきた。
 頼んだ通り、呼んでもらった人は見えないところで待機しておいてもらっているようだ。
 ちょっとだけ疲れた表情を見せる男性職員さんに、労いの意味も込めてお礼を言っておく。
 あの人、一人だけここに来るとなったら、抵抗というか文句を言うのはわかっていたからなぁ……お疲れ様です。

「それじゃ、ここからは俺の質問に答えてくれると、ありがたいです」

 ベリエスさんがスッと後ろに下がって、俺に任せてくれる。
 あまり人を問い質すのは得意じゃないけど、引っかかっている事があるからね。
 ちなみにベリエスさんは、俺が聞こうとしている事は話していないから知らない。
 ベリエスさんが質問していて、引っかかった事だから当然なんだけど……でも、牢屋の外を見て何やら納得した様子だった。

「何よ……私があんたに答える事なんて……」
「いえ、グリンデさんは答えなくていいですよ。質問するのは、アンリさんだけですから」

 俺を睨んで抵抗するように言うグリンデさんだけど、質問の対象はアンリさんの方だ。
 グリンデさんはあまり嘘が付けそうにないし、ルギネさんとの事もあってほとんど意識が俺に向いていたからね。
 多分、ここで話した事は全部真実なんだろう……確信も確証もないけど、なんとなくそう思える。

 ただアンリさんは、嘘を言っているとかではなく何かを隠しているように思えた。
 それが、俺の引っかかる事だ。
 とはいえ、遠回しに聞いて相手から引き出すのは苦手なので、この際だからわかりやすく直接聞いて行こう。

「アンリさん、もしかしてなんですけど……アンリさんの魔力って、かなり多いんじゃないですか? それこそ、人間どころかエルフに匹敵するか、それ以上なくらいに」
「っ!?」

 俯きがちだったアンリさんが、目を見開いてガバッと音が聞こえそうな勢いで、俺に顔を向ける。
 その反応という事は……引っかかっていた事は間違いなさそうだ。

「やっぱり、そうなんですね」
「な、なぜ……」

 驚き顔のまま、絞り出すような声のアンリさん。
 どちらかというと、リリーフラワーの中でもお姉さん的なポジションで、どこかつかみどころのない飄々とした感じがある人なのに、珍しいな。
 まぁ、それだけ見抜かれると思っていなくて、驚いたって事なんだろうけど。

「はっきりとそうだとは断言できませんでしたけど、なんとなく違和感というか……引っかかりを感じたんです。特にあの斧が……」

 そう言って、向かいの牢屋にある巨大な斧に視線をやる。
 フィネさんがよく投げている斧を持たせてもらった事があるけど、大体一キロ前後でそれなりにズッシリとしていた。
 でもアンリさんの使っている斧は、フィネさんの物よりも倍どころではない大きさだから、見ただけでも数キロ……もしかしたら十キロ程度あるんじゃないか、と思わせる見た目だ。
 それを軽々と、しかもヴェンツェルさんやマックスさんみたいな、筋骨隆々な人ならともかく、アンリさんの細い腕で振り回すのは不自然だ。

 少なくとも、一応細身らしい俺よりも腕は細いくらいだし。
 細く見えてもよくわからないけど力持ち、という人はいるけど……アンリさんはその範疇を越えている気がした。
 というより、あの斧は大剣をぶん回すヴェンツェルさんでも振り回すのは苦労するんじゃないだろうか?
 いや、持ち上げて振り下ろすとかくらいならできるだろうけど、戦闘で扱うという事はそれだけじゃないからね。

「女性には似つかわしくない、と言うと語弊があるかもしれませんけど。でも、あんな大きな斧を使っている人を、俺は他に見た事ありません」

 ある程度大きな武器を持っている人なら、自由に武器を選ぶ冒険者さんの中でも見た事があるけど。
 でも、アンリさんの斧程大きな武器、さらに簡単そうに振り回している人なんてこれまでいなかった。
 長く冒険者の活動をしてきたわけじゃないけど、何度も大変な出来事に巻き込まれて多くの冒険者さんを見て来たからね……特にヘルサルとセンテで。

「あれを使っていたから、バレちゃったのね。でも、さっき言ったように女だからと侮られないというのは、本当よ……信じてもらえないかもしれないけど」
「いえ、そこは信じます。多分、アンリさんなら他の武器……それこそ素手でも十分な事が多かったんでしょうけど、斧を選んでいるのはそういう事なんだと思いますから」

 まぁ素手なら素手で、斧以上に違和感というか怪しまれる要素になってしまていたかな。
 探知魔法とか使えたら、もっと早くアンリさんの魔力量に気付いていたかもしれないけど、今は使えないし、これまでアンリさんの近くで使った事がなかったからね――。


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