1,532 / 1,903
リクが引っかかっていた事
しおりを挟む「うぅ、えっと……」
思い出しながら、ベリエスさんに怪しいらしい依頼の内容を答えるグリンデさん。
その以来の内容は、魔物を追い払うだけというものだったらしい。
討伐ではなく追い払うだけ……まぁそういう事もあるかも、とは思うけどグリンデさんが言うには、一定の方向に向かうように、魔物を追い詰めて逃がせというものだったらしい。
ただ危険がないように追い払うならまだしも、方向とかを指定されているのは妙だ。
「もしかすると、裏ギルドの一部の依頼が混ぜられているのかもしれません」
とベリエスさんが言っていた。
表には出せないような危険で、悪い事を依頼でさせるのが裏ギルドだけど、それに繋がるとしても、多少怪しまれそうな内容でも法や決まりに触れないような内容であれば、通常の依頼として出せるからか。
魔物に関しては、レッタさんの話を聞いた今なら研究だとかのために、誘導させる必要があって依頼を……なんて考えられる。
レッタさんの村に集まったらしい魔物は、人為的に集められていたらしいし。
時期的には違うから、グリンデさんの受けた依頼はレッタさんとは無関係だとは思うけど。
多分、似たような事を他でもしているんだろう。
「とりあえず、あなたたち二人の言い分は信用する事にします。要観察であり、不審な動きをすると疑いが深まるので気を付けてください」
「えぇ、わかったわ」
「なんで私が、こんなに疑われないといけないのよ……」
ベリエスさんの言葉に対し、素直に頷くアンリさんと、不満たらたらなグリンデさん。
帝国が何を企んでいて、何をしているのかの詳細を知らないので、こうした取り調べを受ける事を不満に思うのは無理もないけど……ただグリンデさん、そこで俺を睨むのは違うと思います。
ただただ悪い事はしていない、と主張するアンリさんよりも、疑いが深まる可能性があったのに怪しいかもしれない依頼の事を話してくれた、グリンデさんの方が信用はできそうだけど。
いやまぁ、二人共嘘は言っているようには見えないから、本当に裏ギルドの依頼を受けて実行してイタリハしていないんだろうけどね。
うん、嘘は言っていないだろうし、悪い事もしていない……とは思う。
「リク様、お待たせしました」
「あ、おかえりなさい。あの人は?」
「指示通りに。少々、連れ出すのに苦労しましたが……」
「ありがとうございます」
そうこうしているうちに、俺がお願い事をしていたギルド職員さんが戻ってきた。
頼んだ通り、呼んでもらった人は見えないところで待機しておいてもらっているようだ。
ちょっとだけ疲れた表情を見せる男性職員さんに、労いの意味も込めてお礼を言っておく。
あの人、一人だけここに来るとなったら、抵抗というか文句を言うのはわかっていたからなぁ……お疲れ様です。
「それじゃ、ここからは俺の質問に答えてくれると、ありがたいです」
ベリエスさんがスッと後ろに下がって、俺に任せてくれる。
あまり人を問い質すのは得意じゃないけど、引っかかっている事があるからね。
ちなみにベリエスさんは、俺が聞こうとしている事は話していないから知らない。
ベリエスさんが質問していて、引っかかった事だから当然なんだけど……でも、牢屋の外を見て何やら納得した様子だった。
「何よ……私があんたに答える事なんて……」
「いえ、グリンデさんは答えなくていいですよ。質問するのは、アンリさんだけですから」
俺を睨んで抵抗するように言うグリンデさんだけど、質問の対象はアンリさんの方だ。
グリンデさんはあまり嘘が付けそうにないし、ルギネさんとの事もあってほとんど意識が俺に向いていたからね。
多分、ここで話した事は全部真実なんだろう……確信も確証もないけど、なんとなくそう思える。
ただアンリさんは、嘘を言っているとかではなく何かを隠しているように思えた。
それが、俺の引っかかる事だ。
とはいえ、遠回しに聞いて相手から引き出すのは苦手なので、この際だからわかりやすく直接聞いて行こう。
「アンリさん、もしかしてなんですけど……アンリさんの魔力って、かなり多いんじゃないですか? それこそ、人間どころかエルフに匹敵するか、それ以上なくらいに」
「っ!?」
俯きがちだったアンリさんが、目を見開いてガバッと音が聞こえそうな勢いで、俺に顔を向ける。
その反応という事は……引っかかっていた事は間違いなさそうだ。
「やっぱり、そうなんですね」
「な、なぜ……」
驚き顔のまま、絞り出すような声のアンリさん。
どちらかというと、リリーフラワーの中でもお姉さん的なポジションで、どこかつかみどころのない飄々とした感じがある人なのに、珍しいな。
まぁ、それだけ見抜かれると思っていなくて、驚いたって事なんだろうけど。
「はっきりとそうだとは断言できませんでしたけど、なんとなく違和感というか……引っかかりを感じたんです。特にあの斧が……」
そう言って、向かいの牢屋にある巨大な斧に視線をやる。
フィネさんがよく投げている斧を持たせてもらった事があるけど、大体一キロ前後でそれなりにズッシリとしていた。
でもアンリさんの使っている斧は、フィネさんの物よりも倍どころではない大きさだから、見ただけでも数キロ……もしかしたら十キロ程度あるんじゃないか、と思わせる見た目だ。
それを軽々と、しかもヴェンツェルさんやマックスさんみたいな、筋骨隆々な人ならともかく、アンリさんの細い腕で振り回すのは不自然だ。
少なくとも、一応細身らしい俺よりも腕は細いくらいだし。
細く見えてもよくわからないけど力持ち、という人はいるけど……アンリさんはその範疇を越えている気がした。
というより、あの斧は大剣をぶん回すヴェンツェルさんでも振り回すのは苦労するんじゃないだろうか?
いや、持ち上げて振り下ろすとかくらいならできるだろうけど、戦闘で扱うという事はそれだけじゃないからね。
「女性には似つかわしくない、と言うと語弊があるかもしれませんけど。でも、あんな大きな斧を使っている人を、俺は他に見た事ありません」
ある程度大きな武器を持っている人なら、自由に武器を選ぶ冒険者さんの中でも見た事があるけど。
でも、アンリさんの斧程大きな武器、さらに簡単そうに振り回している人なんてこれまでいなかった。
長く冒険者の活動をしてきたわけじゃないけど、何度も大変な出来事に巻き込まれて多くの冒険者さんを見て来たからね……特にヘルサルとセンテで。
「あれを使っていたから、バレちゃったのね。でも、さっき言ったように女だからと侮られないというのは、本当よ……信じてもらえないかもしれないけど」
「いえ、そこは信じます。多分、アンリさんなら他の武器……それこそ素手でも十分な事が多かったんでしょうけど、斧を選んでいるのはそういう事なんだと思いますから」
まぁ素手なら素手で、斧以上に違和感というか怪しまれる要素になってしまていたかな。
探知魔法とか使えたら、もっと早くアンリさんの魔力量に気付いていたかもしれないけど、今は使えないし、これまでアンリさんの近くで使った事がなかったからね――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる