1,528 / 1,903
冒険者ギルドの地下へ
しおりを挟むシュットラウルさんとの話を終え、リネルトさんの話に納得したらしいアマリーラさんを連れて、庁舎を出る。
その際……。
「仲間という名目で、配下ではないとまだ傭兵契約に縛られている我々に、配慮して頂いたのですね。さすがリク様です、ありがとうございます!」
なんて言われて、頭を抱えそうになったけど。
「あぁいや、そういうわけでも……はぁ、もうそれでいいです。とりあえず、アマリーラさんとリネルトさんは仲間って事で。これからよろしくお願いします」
名目とかではないんだけど、諦めた。
「「はっ!」」
「……これで本当にいいんだろうか?」
「まぁ、変な事をするような人達じゃないし、いいんじゃないかしら? 私はもう諦めたわ」
「うん、俺も諦めてはいるんだけどね……ただ一応、名目として納得してもらったにしても、敬礼は止めて欲しいかなって」
「確かにそうね……」
「「はぁ……」」
直立不動で尻尾と耳をピンと伸ばし、片手を胸に当てて敬礼するアマリーラさんとリネルトさんに対して、モニカさんと顔を見合わせて溜め息を吐いた。
庁舎付近には、出入りする人も含めて人が多いから、目立っていたし何事かと多くの人に見られてしまっている。
中には、通りがかった兵士さんがアマリーラさん達を真似たのか、俺に対して敬礼していたりもするし。
いやほんと、何かあるわけでもないし敬礼とかされても困るだけだから……ちょっとだけ顔を伏せ気味に、モニカさんとアマリーラさん達を連れて、足早にその場から離れた――。
「では、リク様。離れるのは本意ではありませんが……」
「はいはい、アマリーラさん。べったりくっ付いていると、リク様にもモニカさんにも迷惑ですからねー。さっさと行きましょうねぇ」
「わ、私は別に迷惑なんて……」
「ちょ、おいリネルト! 引っ張るな! 最近、強引ではないか!?」
「アマリーラさんが、聞き分けないからですよぉ」
「あはははは……行ってらっしゃい」
それぞれ用があったため、庁舎からアマリーラさんとリネルトさんを連れて、モニカさんと一緒に冒険者ギルドに。
中に入ってすぐ、今回の俺の護衛依頼を受けるという名目のための手続きをする、アマリーラさんをリネルトさんが引っ張って受付へと連れて行った。
とりあえず、苦笑して手を振り見送っておく。
手続きと言っても、依頼そのものに関する事ではなく、しばらく冒険者として活動していなかったアマリーラさん達の、ギルドカードの更新等々が必要なのだとか。
最近は、シュットラウルさんに雇われて本来の傭兵として動いていたから、依頼とかを受けているわけでもなかったみたいだ。
あと、実質的にはAランク相当の実力があると見られていても、冒険者としての実績が少ないため、ギルドカードはCランクのままとか。
とりあえずの措置として、支部のギルドマスターが認可すればすぐに上げられるBランクになるらしい。
まぁ名目だけとはいえ、国からの重要な護衛依頼を受けるのにCランクのままじゃ不足している、と見られるかもしれないからみたいだ。
あと、王都に俺が戻った時に付いて来て、中央冒険者ギルドに行けばAランクに上がるよう、ベリエスさんとヤンさんが手を回しているらしい。
実力的には申し分なくても、Aランクは一応三つ以上の冒険者ギルドのマスターが認めなければいけない、という規則があるからね。
俺の時も、ヤンさんとベリエスさん、それからマティルデさんが認めてAランクになったわけだし。
「それじゃ、モニカさん。俺達も用を済ませて来よう」
「そうね。知っている人を相手に、というのはやっぱり気が引けるけど……まぁ、私は直接じゃなくて他のメンバーを見ておく役目みたいだけど」
アマリーラさん達と別れた後は、ギルド職員さんに挨拶をしてから建物の奥へ向かう。
俺達は俺達で、また別の用があるからだ。
そのことを考えてだろう、モニカさんが沈痛な面持ちになった。
「うん……多分、これまでの事を考えると大丈夫だとは思うけど。というか、なんで俺なんだろう?」
「それだけ、リクさんの事を信頼しているからじゃない? 侯爵様とも直接何度も話しているし……冒険者ギルドとしても、内部だけで調べを済ませた、とはしたくなかったんだと思うわ」
「それって俺が、国と冒険者ギルドとの仲を取り持つようになってない?」
「まぁ、そういう部分もあるんでしょうね。リクさんは、単なる冒険者の枠組みに収まらないから」
俺、気楽に冒険者がやりたいんだけどなぁ……関わっている事件の大きさから、気楽にとはいかないのはわかってもいるけど。
俺とモニカさん、というか俺はとある人物を調べるというか、尋問? 詰問? いや、そこまで責めるニュアンスはなかったと思うから、調査程度かな?
ともかく、そのためにベリエスさんに呼び出されていた。
ヒュドラーと戦った際、逃げずに参加した冒険者さん達は全員、氷に閉ざされたためにどこかへ行く事ができず、センテの復興に尽力してもらっている。
だけどその中で、レッタさんの情報から今いる冒険者を調べた時に、帝国との関りがある疑いが持たれた人物が二人いる。
その二人が顔見知りだった事もあり、侯爵であるシュットラウルさんだけでなく、ヴェンツェルさんや姉さんとも通じているから、俺が呼ばれたんだろう。
俺、一応ただの冒険者のつもりなんだけど……なんて言っても、これまでの事を考えると真剣には受け取ってもらえないか。
レッタさんだけでなく、クラウリアさんやツヴァイとかの例もあるし。
「失礼します」
モニカさんと二人、冒険者ギルドの建物の、職員さんですらあまり来ないような奥まった場所で階段を降り、地下の扉を開ける。
そこに直接来てくれとの呼び出しだったからだけど。
「おぉ、リク様。来られましたか」
「はい、ベリエスさん……えーっと」
「こっちは任せて、リクさん。まぁ、気休め程度の事しか言えないけど……今すぐ罰するわけじゃないから」
「うん、そうだね」
地下の部屋は大体六畳くらいの広さで、机が一つと椅子がいくつか並んでいる。
中には、俺を迎えてくれたべリエスさん以外に女性が二人、肩を落として座っていた。
その女性二人に、まずは声をかけるべきか……と悩んだけど、モニカさんが請け負ってくれたので任せる事にする。
当然、その女性二人は知り合いだったし、いつもなら騒がしかったり、俺を見たら向こうから声をかけてくれたりするはずなのに、今は駄々静かに肩を落とし、床を見つめているだけだ。
俺がベリエスさんと調査する二人が、この部屋にはいないからだろう。
「それじゃベリエスさん、さっさと済ませましょう」
「そうですな。今回の措置は念のためで、私もそう疑ってはおりませんし。ではリク様、こちらに」
「はい。――それじゃ、モニカさん」
「えぇ」
ベリエスさんに促されて、モニカさんに座っている二人の事を任せ、部屋の奥にある扉の先へ。
扉を通る直前、赤い髪の女性が顔を上げて俺を見て、縋るような目をしていたようだけど……大丈夫、ベリエスさんも言っている通り、念のための措置なだけだから。
知り合ってからの事を考えると、罰しなきゃいけないような事をしている人には思えないし。
ただ経歴がちょっと引っかかっただけだからね。
そもそも、センテに残っている冒険者は皆、命を懸けてヒュドラーと迫る魔物との戦いに協力した人達だ。
本当に悪い事をしている人達じゃないだろうから――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる