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冒険者ギルドの地下へ

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 シュットラウルさんとの話を終え、リネルトさんの話に納得したらしいアマリーラさんを連れて、庁舎を出る。
 その際……。

「仲間という名目で、配下ではないとまだ傭兵契約に縛られている我々に、配慮して頂いたのですね。さすがリク様です、ありがとうございます!」

 なんて言われて、頭を抱えそうになったけど。

「あぁいや、そういうわけでも……はぁ、もうそれでいいです。とりあえず、アマリーラさんとリネルトさんは仲間って事で。これからよろしくお願いします」

 名目とかではないんだけど、諦めた。

「「はっ!」」
「……これで本当にいいんだろうか?」
「まぁ、変な事をするような人達じゃないし、いいんじゃないかしら? 私はもう諦めたわ」
「うん、俺も諦めてはいるんだけどね……ただ一応、名目として納得してもらったにしても、敬礼は止めて欲しいかなって」
「確かにそうね……」
「「はぁ……」」

 直立不動で尻尾と耳をピンと伸ばし、片手を胸に当てて敬礼するアマリーラさんとリネルトさんに対して、モニカさんと顔を見合わせて溜め息を吐いた。
 庁舎付近には、出入りする人も含めて人が多いから、目立っていたし何事かと多くの人に見られてしまっている。
 中には、通りがかった兵士さんがアマリーラさん達を真似たのか、俺に対して敬礼していたりもするし。
 いやほんと、何かあるわけでもないし敬礼とかされても困るだけだから……ちょっとだけ顔を伏せ気味に、モニカさんとアマリーラさん達を連れて、足早にその場から離れた――。


「では、リク様。離れるのは本意ではありませんが……」
「はいはい、アマリーラさん。べったりくっ付いていると、リク様にもモニカさんにも迷惑ですからねー。さっさと行きましょうねぇ」
「わ、私は別に迷惑なんて……」
「ちょ、おいリネルト! 引っ張るな! 最近、強引ではないか!?」
「アマリーラさんが、聞き分けないからですよぉ」
「あはははは……行ってらっしゃい」

 それぞれ用があったため、庁舎からアマリーラさんとリネルトさんを連れて、モニカさんと一緒に冒険者ギルドに。
 中に入ってすぐ、今回の俺の護衛依頼を受けるという名目のための手続きをする、アマリーラさんをリネルトさんが引っ張って受付へと連れて行った。
 とりあえず、苦笑して手を振り見送っておく。
 手続きと言っても、依頼そのものに関する事ではなく、しばらく冒険者として活動していなかったアマリーラさん達の、ギルドカードの更新等々が必要なのだとか。

 最近は、シュットラウルさんに雇われて本来の傭兵として動いていたから、依頼とかを受けているわけでもなかったみたいだ。
 あと、実質的にはAランク相当の実力があると見られていても、冒険者としての実績が少ないため、ギルドカードはCランクのままとか。
 とりあえずの措置として、支部のギルドマスターが認可すればすぐに上げられるBランクになるらしい。
 まぁ名目だけとはいえ、国からの重要な護衛依頼を受けるのにCランクのままじゃ不足している、と見られるかもしれないからみたいだ。

 あと、王都に俺が戻った時に付いて来て、中央冒険者ギルドに行けばAランクに上がるよう、ベリエスさんとヤンさんが手を回しているらしい。
 実力的には申し分なくても、Aランクは一応三つ以上の冒険者ギルドのマスターが認めなければいけない、という規則があるからね。
 俺の時も、ヤンさんとベリエスさん、それからマティルデさんが認めてAランクになったわけだし。

「それじゃ、モニカさん。俺達も用を済ませて来よう」
「そうね。知っている人を相手に、というのはやっぱり気が引けるけど……まぁ、私は直接じゃなくて他のメンバーを見ておく役目みたいだけど」

 アマリーラさん達と別れた後は、ギルド職員さんに挨拶をしてから建物の奥へ向かう。
 俺達は俺達で、また別の用があるからだ。
 そのことを考えてだろう、モニカさんが沈痛な面持ちになった。

「うん……多分、これまでの事を考えると大丈夫だとは思うけど。というか、なんで俺なんだろう?」
「それだけ、リクさんの事を信頼しているからじゃない? 侯爵様とも直接何度も話しているし……冒険者ギルドとしても、内部だけで調べを済ませた、とはしたくなかったんだと思うわ」
「それって俺が、国と冒険者ギルドとの仲を取り持つようになってない?」
「まぁ、そういう部分もあるんでしょうね。リクさんは、単なる冒険者の枠組みに収まらないから」

 俺、気楽に冒険者がやりたいんだけどなぁ……関わっている事件の大きさから、気楽にとはいかないのはわかってもいるけど。
 俺とモニカさん、というか俺はとある人物を調べるというか、尋問? 詰問? いや、そこまで責めるニュアンスはなかったと思うから、調査程度かな?
 ともかく、そのためにベリエスさんに呼び出されていた。
 ヒュドラーと戦った際、逃げずに参加した冒険者さん達は全員、氷に閉ざされたためにどこかへ行く事ができず、センテの復興に尽力してもらっている。

 だけどその中で、レッタさんの情報から今いる冒険者を調べた時に、帝国との関りがある疑いが持たれた人物が二人いる。
 その二人が顔見知りだった事もあり、侯爵であるシュットラウルさんだけでなく、ヴェンツェルさんや姉さんとも通じているから、俺が呼ばれたんだろう。
 俺、一応ただの冒険者のつもりなんだけど……なんて言っても、これまでの事を考えると真剣には受け取ってもらえないか。
 レッタさんだけでなく、クラウリアさんやツヴァイとかの例もあるし。

「失礼します」

 モニカさんと二人、冒険者ギルドの建物の、職員さんですらあまり来ないような奥まった場所で階段を降り、地下の扉を開ける。
 そこに直接来てくれとの呼び出しだったからだけど。

「おぉ、リク様。来られましたか」
「はい、ベリエスさん……えーっと」
「こっちは任せて、リクさん。まぁ、気休め程度の事しか言えないけど……今すぐ罰するわけじゃないから」
「うん、そうだね」

 地下の部屋は大体六畳くらいの広さで、机が一つと椅子がいくつか並んでいる。
 中には、俺を迎えてくれたべリエスさん以外に女性が二人、肩を落として座っていた。
 その女性二人に、まずは声をかけるべきか……と悩んだけど、モニカさんが請け負ってくれたので任せる事にする。

 当然、その女性二人は知り合いだったし、いつもなら騒がしかったり、俺を見たら向こうから声をかけてくれたりするはずなのに、今は駄々静かに肩を落とし、床を見つめているだけだ。
 俺がベリエスさんと調査する二人が、この部屋にはいないからだろう。

「それじゃベリエスさん、さっさと済ませましょう」
「そうですな。今回の措置は念のためで、私もそう疑ってはおりませんし。ではリク様、こちらに」
「はい。――それじゃ、モニカさん」
「えぇ」

 ベリエスさんに促されて、モニカさんに座っている二人の事を任せ、部屋の奥にある扉の先へ。
 扉を通る直前、赤い髪の女性が顔を上げて俺を見て、縋るような目をしていたようだけど……大丈夫、ベリエスさんも言っている通り、念のための措置なだけだから。
 知り合ってからの事を考えると、罰しなきゃいけないような事をしている人には思えないし。
 ただ経歴がちょっと引っかかっただけだからね。

 そもそも、センテに残っている冒険者は皆、命を懸けてヒュドラーと迫る魔物との戦いに協力した人達だ。
 本当に悪い事をしている人達じゃないだろうから――。


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