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二体目にはちょっとだけ工夫を
しおりを挟む「まぁ、さすがに一切痛くないわけじゃないし、そうだったら自分の生き物としての存在を疑うところだったけど……と、あった! てい」
ひとり呟きながら冷たい氷から立ち上がり、周囲に顔を巡らせる。
少しだけ離れた場所で、黒いソフトボール程度の核が転がっているのを見つけ、滑って転ばないように気を付けながら駆けよって、適当に踏んで砕く。
これで、ここに発生していたアイシクルアイネウムは完全に倒せたってわけだね。
「核は氷は違って、グニュってなんか変な感触だったけど……本体というか、もしかしたら核自体がアイシクルアイネウムなのかもしれないなぁ」
グラシスニードルを付けていない靴の裏からは、生物を踏んだような感触で少し気持ち悪い。
ともあれ、不定形の魔物らしくその核が周辺の氷や散らばった元アイシクルアイネウムの氷の破片を吸収し、ゆっくりと新しい体を形成しつつあった。
決まった形や大きさがないというのはもしかすると、氷の体だと思っていた物は適当に集めて固められた物なだけで、核自体がアイシクルアイネウムそのものとも言えるような気がする。
条件を満たした場所で魔力が集まって、核のように見えるアイシクルアイネウムが発生。
周囲の氷を使って動かせる体を形成……とかだろうか。
だから、他の魔物の核と違って魔力を流さなくても復元に近い事ができるし、破壊すれば形を保っていられなくなって体はただの氷になるんだろう。
という予想。
「まぁとりあえずは、ここでのアイシクルアイネウムは討伐完了って事で。おーい、リーバー!!」
「ガァ~」
バッサバッサと、翼をはためかせながら降下してくるリーバーに向かって手を振り、大きく呼びかける。
「その辺りで止まっていてくれー! っと!」
少しして、五、六メートルくらいの高さまで降りてきた段階で、ジャンプしてリーバーの背中に飛び乗る。
わざわざリーバーが氷の上に降り立つと、足とか冷たいだろうし、これも時間短縮の一つでもある。
まぁ、急いでいるわけでもないんだけどね。
「お待たせ、リーバー。大丈夫か?」
「ガァ、ガァ!」
俺が飛び乗った衝撃とか、特に問題なかったらしく楽しそうに鳴きながら頷くリーバー。
なんとなく、俺が落下していくのを見るのが楽しかったというような雰囲気を出している気がする。
これを、リーバーが癖になってというか、望むようになったら困るので別のアイシクルアイネウムを探しに行きつつ、念のため今回だけだからと言っておいた。
さすがに、空からヒーローのように飛び降りて登場後の、変な空気感はこりごりだ……アイシクルアイネウム相手以外には止めておこう。
「お? 合図だ、リーバー。行こう!」
「ガァ!」
北側で発見したアイシクルアイネウムを倒してからしばらく、休憩を挟みつつ捜索をしていたら、他の兵士さんが発見したらしい合図。
炎の魔法が、空に向かって数回放たれた。
すぐにリーバーに言って、合図のあった方へ向かう……次は、センテの西南辺りだ。
「疲れていないか、リーバー?」
「ガァ、ガァガァ!」
「大丈夫そうだね。でも、無理は禁物だよ?」
「ガァ!」
合図の場所へ急行する途中、リーバーに尋ねる。
すぐに元気のいい鳴き声が返って来たから、疲れていたりはしないようだ……まぁ、一度休憩もしたからね。
さすがのワイバーンとはいえ、人を乗せて飛び続けるにも限界がある。
気温の低い環境というのもあって、兵士さん含めて休憩は適度にとるようにしているわけだ。
とはいえ休憩と言っても、地上に降りないといけないんだけどそんな場所は近くにない。
なので、休憩をするなら隔離結界の一つだけある出入り口まで戻ってからだ。
リーバーに休憩してもらっている時、他の兵士さんやワイバーンが休憩にきたりもしたから、ちゃんと休んでくれているようで少し安心した。
まぁ、空を飛んでいるワイバーン以上に、寒さに耐えかねた兵士さんが、暖を取るために近かったようだけど。
とりあえず、唇が紫になるまでは頑張らなくていいから、ちゃんと温まってと伝えておいたりもした。
「リク様! あそこにアイシクルアイネウム、でしたか。魔物と思しき動く氷が……」
「あれが、アイシクルアイネウム……」
「あれですね。わかりました、すぐに対処します!」
空中で合図を送ってくれた兵士さん達と合流。すぐに地上へと視線を移すと、五本の氷の柱を生やして立っている大きな三角形の氷の塊があった。
あんな物、誰かが作るわけもないし、アイシクルアイネウムで間違いないだろう。
体を支えている柱がほんの少しだけど、それぞれ個別に動いているように見えるし……もしかしてあれ、柱じゃなくて足なのかな?
「とにかく、さっきやったように……待てよ?」
魔法が使えないから、空からアイシクルアイネウムに対してどうこうする事はできない。
形がどうあれ、飛び込んで氷を割るしかない……と考えたところで、ふと思いついた事があった。
アイシクルアイネウムは魔力を集めて発生し、氷を形作っているわけだから……。
「ん、よし。やってみよう! リーバー、もう少しだけ地上に近付いてくれるかな?」
「ガァ!」
滞空した状態のままではあるけど、リーバーに少し高度を落としてもらう。
さっきは高い場所から落ちる勢いのまま、アイシクルアイネウムにぶつかったけど……考え付いた方法ができるなら、高さはあまり必要ないだろうからね。
「そろそろかな? リーバー、またさっきと同じようにしたから呼んだら、降りて来てね」
ゆっくりと高度を下げ、アイシクルアイネウムがはっきりと見えるくらい高さ、大体五十メートルくらいでリーバーに声をかける。
空にいる俺達の事は、まだアイシクルアイネウムには発見されていない……というか、空を見上げるという事ができないんだろう。
ある意味、ワイバーンを使って空から探すのは、アイシクルアイネウムに対しては有効な手段だったのかもね。
「ガァゥ」
リーバーの返事を聞いて、剣を抜く。
白い剣は、使う機会がなく魔力を吸収していないので輝きは放っていないうえ、ショートソードより少し短いくらいの剣身になっている。
これを使えば、直接体当たりするよりはいいかもしれない……魔法を使えない俺が、現状でできる魔法のように魔力に干渉する唯一の方法だ。
「んっ!」
「リ、リク様ぁ!?」
まさか、俺がリーバーから飛び降りると思っていなかったのか、どうするのかを見守ってくれていた兵士さんの驚く声が聞こえる。
けど、それに答える間もなく真っ逆さまに落ちた俺が、頭の先に両手で持ってかざした剣を、深々とアイシクルアイネウムへと突き刺す。
高度が低かったからだろう、勢いはそこまで強くなかったおかげで氷の体を突き抜ける事も、割ってバラバラにする事もなく、剣の刃の根本まで突き刺さったところで止まってくれた。
「よ……っと!」
そのまま、逆立ち状態になっていたからだろ折り曲げ、ゆっくりとアイシクルアイネウムの体になっている氷に足を付けた。
剣は突き刺さったまま、抜いた時から魔力吸収モードにしてあるから――。
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