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穏やかな笑顔で不穏な気配を放つリネルトさん
しおりを挟む「そうね、帝国の内部はもう廃れ切っているわ。いえ、表面上はそうでもないし、ただ他国の旅人や冒険者が来てなんとなく見るだけなら、そうは見えないでしょうけど」
「表面を取り繕っている、と言う事ですかぁ?」
「えぇ。表では何もないように国民に取り繕わせておいて、水面下で……」
レッタさんが言うには、帝国の国民は現状で既に疲れ切っている様子なのだとか。
帝国に管理され、表面上は体裁を整えているらしいけど、他国から来たような人は歓迎されないし、取り込むかなんらかの事故を装って、姿を消す……大体は冒険者らしいけどね。
多分それには、ヤンさんが危惧していた裏ギルドというのが関わっているんだろうけど、それはともかく。
表面は整っていても、裏では……つまり本質的なところでは、国民のほとんどが疲れ切っていて明日の希望もない状態に近いらしい。
管理というのは、生活全てが監視されているという事でもあり、自由もほとんど制限されてだけでなく一方的な国による搾取も行われているとか。
そんな状況で、国が国として発展する未来はないので、技術なども含めてここ数年は発達する産業とかは一部を除いてほぼないに等しいみたいだ。
勝手な想像で、退廃した都市が頭に浮かんだけど実際には、表面を取り繕っているらしいから、深い部分まで見なければそんな事はないんだろうね。
「その、発達している一部というのは?」
「魔物に関する技術よ」
唯一とまではいわないけど、急成長しているのが魔物に関する技術らしい。
それは、レッタさんの見せかけの協力だったり、多くの犠牲を出す事を強制しての研究だったり、エルフの協力だったりとかだとの事。
……ここに、フィリーナやカイツさんがいなくて良かった。
レッタさんが言うには、研究に必要であれば人間、エルフ、獣人問わず実験に使われて犠牲になっているらしいから。
同族すら犠牲にする事を厭わない、帝国のエルフなんて聞かせられないよ。
……いや、もしかするとそれすらも帝国の現皇帝になっていると思われる、あのクズによる指示で強制されているのかもしれないけど。
「じゃあ、言い方はちょっとおかしな感じになるけど、今の皇帝は帝国全土を完全に掌握して支配している、って事で間違いないんですか?」
「あのゴミクズは、そんなに有能じゃないわ。その野望にぶら下がる、ろくでもない奴らがお互いを利用し合っているだけ。私もその一員として入り込んでいたけど、傍から見たら滑稽でしかないわ。それでも、今のところ全てではないにしろ上手くいって、クズゲスはそれが自分の力だと勘違いしているの。とはいえ、本当に全てではないわ。帝都から距離が離れれば離れる程、管理が甘くなるわ。小さな村とかだと、影響力はほとんどないんじゃないかしら? 本人はそうは見ていないだろうけどね。ただそういう場所程、実験の場として使われるわ。私の時のようにね……!」
最後に、憎しみを滲ませて言い切るレッタさん。
ゴミクズ、クズゲスとまで言われている相手に、憐れだと同情する余地はないけど、レッタさんはそれ程までに嫌悪しているんだろうと納得。
やっている内容が内容だから、嫌悪されても仕方ないし、レッタさんに関する話を聞いた人達などは全員同じ認識だ。
リネルトさんはロジーナが話してくれた時にはいなかったけど、おそらくシュットラウルさんから聞いたのだろう、ユノを撫でて穏やかな表情ではあるけど、背中からゴゴゴゴゴ……! という幻聴が聞こえて来そうな程の、不穏な気配を放っている。
多分だけど、獣人すらも犠牲にしている……という部分があったからかもしれない。
それだけじゃなく、本人が認める力でとかならともかく、自由を強制的に奪って管理されるというのも、獣人にとっては腹に据えかねるものがある、と後で聞いた。
「今のところだけでも、その上手くいっている理由は、やっぱりロジーナやレッタさんのおかげで?」
魔物に関する研究を促進させたロジーナと、魔力を誘導させる特殊な力を持ったレッタさん。
この協力があったからこそ、アテトリア王国で何度も大量の魔物が襲撃してくるという事件が起きたわけだけど、それも帝国内での事に関係しているのだろうか?
「そうね、そうなるわね。私の復讐に突き合わせちゃったこの国には悪いけど……」
「そのせいで、どれだけの人が犠牲になったと思っているんですかぁ?」
「……」
悪びれずに言うレッタさんに、笑顔のリネルトさんが問いかける。
ただ、その笑顔は不穏な気配を放っているのもあり、口調がいつも通りなのも相まって妙な迫力になっていた。
レッタさんは、リネルトさんを見返して押し黙る。
あれ、おかしいな……この周囲の温度が急に下がったような気がするんだけど? 空調なんてあるわけがないし、それこそカイツさん開発のクールフトもなく、冷やすようなのはないんだけど。
とはいえ、リネルトさんが不穏な気配を出すのも、センテを始めいろんな場所で魔物の襲撃による被害は出ている。
まぁ、大体は俺や皆が協力して最低限に留める事はできたけど、それでも被害は出た……特にセンテでは。
人的被害だけじゃなく、備えるためとか避難するためとかで、物などへの被害は当然出てもいるからね。
「そこのユノが子供みたいに甘えている獣人が言う事も、わからなくもないけどね。……なんで私が、こんなフォローをしなくちゃいけないのか、はなはだだ不本意だけど。レッタと私がいなければ、帝国内ではもっと多くの犠牲者が出ていたでしょうね。もしかすると、暴走した帝国がこちらの国だけでなく、他の国にまで犠牲者を出していた可能性もあるわ」
不満そうに、それはもう嫌そうに顔をしかめながら、ロジーナがそう言う。
「それは詭弁と言うものではないですかぁ? 正当化しようとしても、大量の魔物がこの国を害そうとした事実は変わりませんよぉ? もしリク様がいて下さらなければ、この国は今頃どうなっていたかぁ……」
自分自身でこう考えるのもなんだけど、場合によっては複数の街、最悪の場合は王都すらも壊滅していた可能性だってある。
ヒュドラーが出てきたのは、ロジーナが俺からの無自覚な干渉とか何かで、人間としてセンテに来てしまったり、レッタさんが勘違いからの暴走によるところが大きいけど……。
でも、準備はしていたわけだ。
センテに押し寄せなくても、いずれ帝国はアテトリア王国に対して、ヒュドラーやレムレースを投入していただろう。
「そうかもねしれないわね。けど、私がどういう存在か忘れたの? 全てを破壊する事が存在理由とも言えるのよ?」
「それはぁ……」
ロジーナは破壊神……神様の定義というか、価値観はわからないけど世界の破壊を望む存在であるなら、リネルトさんの言うように犠牲者というのは気にも留めないだろう。
「人間がどれだけ犠牲になったとしても、私にはどうでもいい事なの。まぁ、今は私も人間の体を持ってしまったし、そこから出られないし、さらには考え方なんかもある程度人間として引っ張られていたりもするんだけどね」
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