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アイシクルアイネウムという氷の魔物
しおりを挟む「……何か、失礼な事を考えている気がするのだわ」
「そんな事ないよ。エルサと契約して良かったって考えていただけだから」
「だ、だわ!? そ、そんな事を言われても、ちょっと魔力出力を上げて、氷を融かすくらいしかできないのだわ! フレイムスロワー! だわぁ!」
「ちょちょちょ、エルサ熱い、熱いから……!」
照れてしまったんだろう、エルサが急に魔法を発動して周辺に火炎を撒き散らし始めたので、慌てて止める。
俺というか、俺の頭にくっ付いたまま全方位に放射される炎は、真ん中にいる俺のいる場所の気温を急激に上げた。
あと、ちょっと空気が足りなくなっている気がする。
「だわぁ、だわぁ……リクが変な事を言うからなのだわ」
「ごめんごめん」
感謝しているだけなんだけどなぁ……まぁ、エルサは照れ屋だから仕方ないか。
あと、全方位の火炎放射が止んで再び周囲の氷に冷やされたけど、しばらくは暖かいままになりそうだ。
ちょうど体が冷えて来たから、良かったのかな?
「あと、言い忘れていたのだけどだわ」
「うん?」
落ち着いたエルサが、何かを思い出したらしい。
「アイシクルアイネウムは、形が一定じゃないのだわ。それと、私が知っている知識にあるあれは、もっと小さいのだわ」
「小さい? さっきのはキュクロップスより大きくて……ヒュドラーの方が近いくらいの大きさだったけど」
「魔力の質や量で、大きさや形を変えるらしいのだわ。大体は、人間の倍とかそのくらいの大きさなのだわ」
人間の倍くらいって事は、三、四メートルくらいの大きさが平均って事か。
じゃあ、さらにその倍以上だった、十メートルはあっただろうさっきのアイシクルアイネウムは、一体……?
「形の方は、さっきみたいに腕が生えているだけで、体は四角というのは多分珍しいのだわ。確か、大きな体と氷を自由自在に滑って、そのまま体当たりをする、はずだわ。その体当たりの際に、尖った氷の先端を……という話なのだわ」
「体当たりとか、氷を滑るまでは同じだけど、尖ったっていうのは……なかったよね?」
「見る限り、なかったのだわ。ただ近くで見ていないから絶対とは言えないのだわ」
「細かな刺みたいなのが、あったかもしれないって事か……」
もしかしたら、さっきのアイシクルアイネウムも、近付いてよく見れば小さく尖っている部分があったのかもしれない。
腕の先に人と似たような手もあったけど、そちらはほぼ丸い氷だったし尖ってはいなかったし。
あぁでも、四角い体の角なら尖っているか……あの巨大さだから、滑る氷の接地面を考えると体制を変えて角を獲物にぶつける、というのは難しそうだけど。
ともあれ、大きさはともかく特徴としてはさっきのとほぼ同じだ。
巨大な体ってだけでも、自由に氷上を滑って体当たりはかなりの衝撃が与えられるだろうに、その上さらに尖っているって、結構凶悪だね。
だから、アイシクルって名前が付いているんだろう。
「おそらくだけどだわ、さっきのあれはリクの魔力を集めたからなのだわ。質も良くて量も多い。だから、通常より大きなアイシクルアイネウムが発生したのだわ。でも逆に、大きくなるだけで攻撃的な形に葉できなかった……と予想するのだわ」
「俺の魔力だから、かぁ」
大きくなるための魔力を集め過ぎて、形を整えられなかったのかもしれない。
エルサは知識として知っているだけで、詳しいわけでもないし、あくまで予想みたいだけど。
「んで、そのアイシクルアイネウムだけど……」
とりあえず、モニカさん達の方に移動しながら、エルサが知っている限りの事を聞いておく。
アイシクルアイネウムは、見た目通りというか本当にただの氷が魔物化したような存在なので、考えるとかそういう事ができない。
魔力で目などの器官っぽい物ができていても、あくまでそれは魔力。
その魔力で疑似的な器官を作って、それを通して生き物の魔力を探索、発見し次第一番近くに向かって突撃、というだけの魔物とか。
まぁ、その突撃も質量と勢いがあればかなりの脅威になるんだけどね。
ただ気になるのは、エルサが一番近くに向かってと言っていた事で、あの時アイシクルアイネウムの一番近くにいたのは、向かっていた俺なのは間違いない。
けどそれが、何故モニカさん達がいる方へ向かったのかという事。
魔力としても、モニカさん達全員を合わせても俺の魔力には全然届かないから、本来は近くて目立つ俺の魔力に向かうはず、だとエルサは言った。
「これも予想になるのだけどだわ、きっとあのアイシクルアイネウムは純粋にリクの魔力でできているからかもしれないのだわ」
「俺の魔力で?」
「ここら一帯の氷は全て、リクの魔法で凍らされてできたのだわ。つまり、内部にある魔力もリクの魔力なのだわ。そうすると、本来色んな魔力が集まってため込んで発生するはずのアイシクルアイネウムが、単一の魔力ででき上がるのだわ」
だから、俺の魔力は自分の魔力と同じと感知して、俺を狙っては来なかった……のではないかという事らしい。
という事は俺、あの時アイシクルアイネウムに自分と同一の存在と見られたって事か。
ちょっと複雑な気分だけど、原因も俺なので何も言えない。
「じゃあ、この広い凍った大地で、他にもアイシクルアイネウムが出て来る事もあったりする、のか?」
「条件としては揃っているはずなのだわ。だから、別の場所で発生する可能性もあるし、もしかしたら既に出てきている可能性もあるのだわ」
「そうか……さっき出てきたのが特別ってわけでもないよな。条件は基本的に一緒だし」
何か特別な理由があって、とかであれば別だろうけど……センテの周辺はほとんど同じ条件になっているはずだからね。
今回は偶然、俺の近く、センテの近くで発生しただけだろうし、もしかしたら見えない場所でエルサの言う通り既にアイシクルアイネウムが出現している事も否定できない。
「もし、今回みたいに俺やエルサが近くにいない時、アイシクルアイネウムが発生するか、遭遇したりしたら……?」
「まぁ、被害が出てもおかしくないのだわ。しかも、私が知っているのよりも巨大なうえ、リクが凍らせた氷が元になっているし、魔力も使っているのだわ。なすすべなくやられる、とまではならないだろうけど、脅威ではあるのだわ」
エルサが知っているアイシクルアイネウムより、倍以上の大きさ。
しかも、地面の硬い氷を使っているから簡単に割ったり融かしたりできない。
俺の魔力をというのは、どう影響するかはわからないけど……ともあれ俺を狙う事がないというだけでも、他の人達に向かう可能性が高いわけで。
さっき発生したアイシクルアイネウムは、突然の事で皆もどう動けばいいかわからず、対処が遅れたというのを差し引いても、危険な魔物と言えると思う。
「もう少し、解氷作業を手伝って早くセンテを解放したかったけど……仕方ないか」
「大体考えている事はわかるけどだわ。リクがやるのなら、私も手伝うのだわ~」
「面倒くさがるかと思ったけど、手伝ってくれるんだ」
珍しいエルサの素直と言えるのかはわからないけど、その申し出にくっ付いている頭へと視線を上げた――。
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