上 下
1,475 / 1,903

追加の援軍が来ているみたい

しおりを挟む


「すぐ近くのセンテの事。さらに領主様である侯爵様もあちらにいますので、何もしないわけにも参りませんから。個人的にも、ヘルサルとセンテの関係を考えても、援助するのは当然の事。例え、こちらで多少なりとも不足が出ようとも」

 ヘルサル農園は始まってまだ浅い。
 元々食糧などはセンテから買っていたという関係上、人口の多いヘルサル側にはあまり余裕はない。
 とはいえ、他の物資や街との関係も含めて、クラウスさんは物資の輸送を承諾してくれた。
 ……お互い、ちょっと回りくどいやり取りをしているだけで、クラウスさんが断る事はなかっただろうけどね。

「トニ、余剰分の物資をかき集め、センテに送れるよう手配を。多少、こちらが不足しても構わない」
「畏まりました」
「……ヘルサルが不足する程までは、しなくてもいいんじゃ?」

 トニさんへと指示をするクラウスさんに、そこまで力を入れなくてもと思い聞いてみる。
 こちらで物資が不足すれば本末転倒……とまではいわないけど、多くの人が困ってしまうだろうから。

「なに、リク様から直々の要請なので私としても協力を惜しみたくない、というのはもちろんありますが……」

 あるんだ。
 いや、俺からだからとかは聞いていなかったんだけど。
 なんだろう、微妙にクラウスさんから期待しているような雰囲気が漂っている。
 これはあれかな? 俺の役に立てているとかのアピールとか?

「えっと、ありがとうございます?」
「おぉ、リク様からのお言葉がもらえる、生きていて良かった……!」

 なんとなく、お礼を言っておいた方がいいのかな? と思ったのは間違いじゃなかったようだ。
 大袈裟に喜ぶクラウスさんを見て、溜め息が出そうになるのは我慢だ……協力してくれるわけだし、悪い人でもなく信用もできる人だからね。

「……コホン!」
「おっと、あまりの喜びに取り乱しました。……物資に関してですが、センテに多くの物資を融通したとしても、ヘルサルでの不足分はすぐに解消される見込みです。ですので先にセンテへと送る物資を集めておけばと」
「こちらで不足分の解消ですか? 周囲の村や他の街から、取り寄せるのですか?」

 トニさんのわざとらしい咳払いにより、正気に戻ったかもしれないクラウスさんが教えてくれる。
 それに対し、ヤンさんが尋ねた。

「既にセンテへと送っていた物資で、近辺の村々からは取り寄せていましたから……これ以上は難しいですな」
「では、不足が解消される見込みとは?」
「今日、遅くとも明日にでも、再び王都からの王軍が到着する予定になっていまして……」
「王軍が……?」

 ヤンさんは知らなかったみたいだけど、俺はマルクスさんから聞いていた事だ。
 そろそろ、王軍の第二陣が出ていればヘルサルに到着している頃だろう、という話だね。
 その王軍は現在ヘルサルに向かって来ている途中らしく、クラウスさん曰く今日明日中に到着するという報せがあったんだそうだ。
 これはマルクスさんがセンテに到着した時もチラッと言っていたんだけど、従軍している人達の中には荷駄隊という物資輸送のための部隊がいるとか。

 その荷駄隊の物資があれば、しばらくはヘルサルとセンテの両方での物資不足は解消されるだろうとの事。
 本来は長期間の戦闘で軍隊が必要とする物資ではあるけど、援軍として合流する予定のため余剰分もあると伝えられているらしい。
 ただ、当然ながら王軍は魔物と戦う事を想定して来ているので、物資の量はともかく種類は豊富とは言えない。
 そのあたりはまぁ仕方ない事だし、今必要なのは生活するうえでの物資だから問題ないだろう。

「リク様のおかげで、センテとの行き来は難しくとも魔物の脅威は去りました。ですから、王軍の物資は戦後の復興に使われるでしょう」
「成る程、それで解消の見込みがあると。だから、一時的にヘルサルで不足しそうであっても、問題ないわけですね」
「えぇ。王軍が到着してからセンテへの物資を集めるよりは、今のうちにヘルサルから出しておく方が、素早く準備できるでしょうし……侯爵様への印象も良いでしょう」
「クラウス様、本音が漏れておりますよ」
「おっと……ははは、リク様と女王陛下であればともかく、領主様の顔色を窺うのはここではあまり関係ありませんでしたな」

 トニさんに注意されて、苦笑するクラウスさん。
 俺はともかく、姉さんに絶対の信頼と崇敬を持っているらしいけど、シュットラウルさんに対しては違うみたいだ。
 シュットラウルさんの人望がないとかそういう話ではなく、貴族との関係とかしがらみとかそういう話なんだろう。
 俺にはよくわからないというか、面倒そうなのでつくづく貴族にならなくて良かったと内心感じた。

「ま、まぁとにかく、準備が早いのはいい事ですよね」
「えぇ。我々冒険者ギルドとしましても、協力は惜しみません」

 ヤンさんとクラウスさんの間で、協力に関しての話が進む。
 大体は物資を運ぶ、集めた場所での警備などに冒険者もという話くらいだけど。
 衛兵さんもそうだけど、センテに送っている人員が多いため冒険者も含めて人手不足だから、そこは協力してセンテを安定させようという事らしい。

「あとはそうですな……先程リク様との話にもありましたが、凍った地面を融かす作業でしたか。あちらも我々で協力しましょう」
「え、でも……大丈夫なんですか?」

 人手とかをそちらに割く余裕があるのか、という意味で。

「何も問題がないわけではありませんが、こちらからも作業をした方が早く解決できるでしょうから。リク様が困っている時に、私達が何もしないわけにはまいりません!」
「……まぁ、クラウス様だけのお考えではありますが。早くセンテとの行き来が可能になった方が、今後のためにも良いのは間違いありません」
「そ、そうですか……」

 意気込むクラウスさんに、溜め息交じりのトニさん。
 ともあれ、センテとヘルサルがこれまで通りの行き来ができるようになるのは、周辺だけでなく国全体にとってもいい事だと思うし、早く解決できるに越した事はない。

「それなら、こちらからはセンテよりも多少楽ではあるとは思いますが……」

 センテでの、解氷作業の注意点なんかを話す。
 氷の上は滑るので注意する事と、寒さに対する対策などなど……。
 まぁ、閉ざされているセンテと違うため、ヘルサルなら寒さへの対策は十分に取れるだろう。
 服とか、焚き火をするための薪とか……不足するようなら他で買って持ってくればいいわけだし。

「あと、アイススパイク……滑らないための道具ですけど」
「そちらは、センテで完成した余剰分をこちらに……」

 アイススパイクは現在センテの鍛冶師達が取り組んで作っているので、余った物をワイバーンがヘルサルへと運ぶ事になった。
 クラウスさんと話しながら、大体の事を俺が決めてしまっているけど、協力するためだしシュットラウルさん達が断る事はなさそうだ。
 ……もし断られたら、別の方法を考えるか速度は遅くとも焦らずじっくり氷に乗らないよう、解氷作業をしてもらえればいいかな――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...