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ヘルサルの副ギルドマスター
しおりを挟む通されたギルドの奥、ヤンさんの執務室らしき部屋でお茶を持って来てくれた女性。
キリッとした外見で髪をまとめ上げていて、スーツとバインダーとメガネが似合いそうな人だ……全部、こちらの世界にはない物だけど。
ベテラン秘書、という言葉が似合っているかな。
年齢はそれなりで、マリーさんと同じくらいかな? とは思ったけど、そういった詮索はしないでおこう……あとでモニカさんやエルサに怒られそうだし。
「わざわざ君が持ってきたのですね。私がいない間、こちらで問題でも?」
「ギルドマスターの帰還と、リク様が来られているのですから私が来るのも当然です。些細な問題はありますが、冒険者の数が少ないため、依頼の達成数が少ないといったくらいです」
お茶を飲む俺とフィネさんを余所に、何やら話し込み始めるヤンさんと女性。
なんとなく、ヤンさんがいない間にヘルサルのギルドを任されていた人っぽいけど……見た目で判断するのはどうかと思うけど、女性から漂う気配というか、まさに仕事のできるキャリアウーマンのようなイメージ通りの人みたいだね。
「そうですか、さすがですね。では……おっと、そうでした」
何かを女性に話そうとしたヤンさんだけど、俺やフィネさんの視線に気付いた様子。
「申し訳ありません、リクさん。紹介が遅れましたたね。こちらは副ギルドマスターのエレノール。私の補佐をしてくれています。私がいない間は、代わりにこのヘルサル支部をまとめてくれていた者です」
「あ、はい。リクです。よろしくお願いします」
「フィネです」
「エレノールと申します。未熟者ながら副ギルドマスターを拝命しております」
ヤンさんがにこやかに手で示して紹介してくれた、エレノールさん。
俺に合わせて、フィネさんも一緒に頭を下げつつ自己紹介をする。
エレノールさんも礼をしつつ自己紹介してくれたけど……なんだろう、ちょっと素っ気ないというか、あまり俺と視線が合わないというか……。
全員が全員、俺を見たら驚いたり畏まったりする必要はないんだけど、この反応は初めてだ。
「それで、ギルドマスター。こちらの報告もありますが、まずはセンテの状況を……」
「まぁ待って下さい、エレノールさん。そんなに焦らないでも、今は急いでいませんから」
「ですが……」
「ふふ、気持ちはわかるけど……」
俺の勘違いではなかったようで、すぐにヤンさんへと向き直ったエレノールさんが話を進めようとするけど、ヤンさんは手で制しつつ苦笑。
さらにヤンさんは何やら、俺に視線を向けつつ笑っているけど……俺に何かあるのかな?
いや、あの視線の先は俺というよりも……?
「できるだけ意識を逸らそうとしているから、素っ気なくなっていますよ?」
「っ!」
「えーっと?」
ヤンさんに言われて、ガバっと誰もいない方へと顔を背けるエレノールさん。
わけがわからなくて首を傾げる俺。
「ふふ。リクさん、エレノールさんは……」
「ちょっと、ギルドマスターそれは!?」
「エルサ様に凄く関心があるのですよ」
「エルサに、ですか?」
「私なのだわ?」
ヤンさの言葉を遮ろうとするエレノールさんだけど、スルーして最後まで言い切った。
おとなしくくっ付くままになっていたエルサから、顔を上げて首を傾げた気配が伝わってくる。
先程のヤンさんからの視線は、考えてみれば俺ではなく頭にくっ付いたままのエルサに向けられていたような……?
まぁ、ほぼ一体化しているようなものなので、俺に視線を向けたのでも間違いじゃないんだろうけど。
しかし、エルサに関心って……ドラゴンに興味があるとかだろうか?
「エルサ様は、一目見てわかる通りふわっふわで触り心地良さそうな毛ですからね。エレノールが関心を向けるのもよくわかります。いえ、心地よさそうというよりも間違いなく心地のいい毛、でした」
「ま、まぁ確かにヤンさんの言う通りですけど……」
「まさか、なのだわ……」
ヤンさんは、大きくなったエルサに乗った事もあるため、モフモフなエルサの毛を触った事もあるし、その心地よさもよく知っている。
それを思い出しつつ、エレノールさんに自慢するように言って視線をやった。
何故か、エルサからは戦慄するような声が聞こえて来たけど、どうしたんだろう?
「う、うぅ……」
よろめき、うろたえるエレノールさん。
そんなダメージを受けた時のような動きは一体……さっきまでの、クールでできる女性! といった雰囲気はいつの間にか霧散していた。
「エレノールは、こういうと非難されそうではありますが……周囲から冷たく厳しい女性と見られる事が多いのです。ですが、本当は……」
そうして、ヤンさんから無慈悲に語られるエレノールさんの人となり、というより趣味。
厳しそうとか、冷たく見えるというのは確かに同意できるエレノールさんだけど、その実モフモフした物や可愛い物などに目がないのだとか。
周囲から見られる自分のイメージに合わないからと、できるだけ隠しているみたいだけど……それを簡単にヤンさんに暴露された。
ヤンさん、いつもは落ち着いていて冗談とかを言うような人じゃないんだけど、部下とかには茶目っ気を見せる人なのか……暴露されたエレノールさんにとっては、茶目っ気で済む事かはわからないけど。
「うぅ……もう、もう……ギルドマスターはこれだから……」
恥ずかしい部分を暴露されたエレノールさんは、部屋の隅で壁に向かって俯き、何やらブツブツと言っている。
結構なダメージのようだ。
えっと、なんでこんな話になったんだろう?
「まぁまぁ、私が言わなくても実はギルドの職員のほとんどが知っている事ですから。ぬいぐるみというのだったかな? あれを自作しているのも知ってますし、そのための材料を買っている姿も目撃されていますよ」
「っ! うぅ……!」
さらに痛烈な止めが、エレノールさんに入る……さすがにかわいそうかも。
というか、こちらにもぬいぐるみとかあるんだ。
「ヤンさん、さすがにこれ以上は……」
ぬいぐるみの事よりもまず、エレノールさんがかわいそうになって来たので、ヤンさんを止めるために声を掛ける。
「……リクさんが言うなら、ここまでにしておきましょうか。はぁ、いつも私がリクさんに会ったというと、必ず羨ましがっているのに。実際に会えばリクさんには素っ気ない態度。さらに意識を逸らすために、話に集中しようとしていましたね」
「う、うぅ……」
溜め息交じりのヤンさん……俺に会いたいとかではなく、いつも俺と一緒にいる事が多いエルサに会いたかったって事だろう。
あわよくば、モフモフしたいとかそういう感じか。
気持ちはわかる。
俺もエルサがいなかったと仮定して、別の誰かがエルサに匹敵するようなモフモフを連れていたら、ジャンピング土下座をしてでも触らせてとお願いするだろう。
「えーっと、とりあえず……エルサを抱いてみます?」
「だわ!? ちょ、ちょっと待つのだわリク! 初めて会った時のリクと同じような気配を感じるのだわ! 危険な気配なのだわ!」
エレノールさんに近付き、壁に向けている体の後ろから声を掛けつつ、俺の頭にくっ付ているエルサを両手でガシッと捕まえる。
そのままエレノールさんの方へ差し出そうとすると、エルサが抵抗してジタバタと……。
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