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ロジーナによるレッタさん救出
しおりを挟むでもなんだろう話を聞けば聞く程、初めて会った時の破壊神としてのロジーナより、そのクズがよっぽど邪悪な存在に思えてしまう。
いや、破壊をつかさどる神というだけで、邪悪な神というわけじゃないんだけども……破壊される側からすると、どうでもいい事かもしれないけど。
「レッタの傷は、新しい物も古い物もあったわ。引き摺られてできたような傷、殴られてできた傷、斬られてできた傷等々、ね。全身くまなく傷だらけってとこかしら。ろくに手当てもされていないから、膿んでいるものもあったわ。まだ血が流れているようなのも。骨もいくらか折れていたかしら……意識どころか、生きているのが不思議だったかもね」
傷の治療すらされていたなかったのか。
骨も折れて血も流れて、痛みや失血で死ななかったのはロジーナの言う通り、不思議なくらいだね。
それで記憶の混濁があったとしても、意識を保って正気でいられるのは、尋常な精神力じゃない。
「あ、そうそう、私は一目見ただけでレッタが全身くまなく傷だらけってわかったんだけど、それは特別な力とかではないわ。ここにいる人間だって、誰が見てもわかるはずよ。なぜかは……考えればわかるわよね? 隠す物が何もないんだから。おそらく、あれがおもちゃとして使ってそのままなんでしょうね」
「っ!!」
ロジーナの言葉に、モニカさんやフィネさんの表情が一際険しくなる。
いや、シュットラウルさんやマルクスさんもか。
かくいう俺も、顔をしかめた。
隠す物がなく、全身を確認できる状態というのはつまりそういう事だ……。
レッタさんの特殊能力を利用するために実験しておいて、さらに他にもとは。
「そこまで言ったら、何をされていたのか大体予想できてしまうわね。本当、胸糞悪いわ」
「元が復讐のためとはいえ、やっていた事は国家への反逆だ。処刑されてもおかしくはないとは思うが……酷いな」
「えぇ。人道的とは決して言えません。重罪人の扱いに関しては、国によってそれぞれですが……我が国の陛下であれば、決して許さない扱いでしょう」
モニカさんが吐き捨てるように言うと、シュットラウルさんやマルクスさんも追従し、フィネさんも頷いている。
全員……俺も含めてだけど、帝国の頂点に立っているクズをぶん殴りたいという意思で、統一されている感じだ。
ユノでさえ、険しい表情をしているくらいだからな。
……ここにフィリーナとソフィーがいなくて良かった。
フィリーナはもっと気分を悪くしていただろうし、ソフィーに至ってはできるかはともかく、今すぐ殴り込みにと言いかねない気がするから。
あとで、聞いた内容を話す時に苦慮しそうだけど……できるだけふんわりと伝えるよう心がけよう。
「まぁそんなわけで、このままじゃ話もできないと判断して、すぐにそこから連れ出したわ。それから、治療とか色々やって回復させて……リクのとは違うから確認すればわかるけど、今もレッタは全身に傷跡があるわ」
破壊神なのに、治療とかできるんだ……神様的な力なのかもしれないけど。
俺がよく使う治癒魔法は、俺自身も最初考えていなかったくらいの治療効果になっているおかげで、傷跡も残らない。
普通に考えれば立っているのも不思議なくらいの、怪我を負っていたアマリーラさんを治療した時も、怪我人収容所で治療をした時にも、跡が残っていないのを確認しているからね。
多少の傷跡は、男性の兵士や冒険者さん達は勲章だくらいに思うかもしれないけど、女性もいたから良かったと思う。
「……さすがに、傷跡の確認まではな。見たところで、何があるわけでもない」
「そうね。それからの事だけど……」
シュットラウルさんの言葉に頷いたロジーナが、レッタさんを連れ出してからの事を話していく。
とりあえずレッタさんから事情を聞き出すのと同時に、記憶を覗き込んで嘘をついていないかの確認や、考えなんかを知る。
目の前に現れたロジーナが……その時はおそらく俺と戦った時のように、ユノと同じような姿だったんだろう、最初はレッタさんも信じられなかったみたいだ。
そこはまぁ、適当に人間にはできない破壊の力、多分閃光とか衝撃だろうけど、それらを使ったりなど、おおよそ人ではない事を見せて証明したんだとか。
最終的に、魔力の誘導ができるレッタさんに、可視化した魔力を見せるのが一番納得してもらえたとか。
魔力の質とか、特殊な能力を持っているレッタさんにしかわからない何かが、ロジーナの魔力から感じられたらしい。
ともあれ、そうしてレッタさんの事情を知ったロジーナが、利用価値があると判断。
復讐や世界の破壊を招くための方策を授ける。
助けられてもまだ、クズへの復讐心や世界を呪う気持ちに変化は一切なかったとか……むしろ、強まっていたらしい。
そのロジーナが授けた方策とは……。
「早い話が、あれに協力しておいて、実際は世界に破壊をもたらす方法ね。表面上は協力していても、地際の心では常に裏切り続けるの。向こうはレッタが味方だと信じて、覇道を突き進んでいると思っているけど、その実自分も含めて世界が破壊される要因になっていたと気付く筋書きってわけ。傑作でしょ?」
「性格悪いの」
「うるさいわねユノ」
ニヤリと笑って言うロジーナに、ポツリと呟くユノ。
確かに、味方と思っていた人物が実の所、ずっと裏切られていたとも言えるから、復讐にはもってこいなのかもしれない。
方法や順調に進んだ先の結果はどうあれ、最後の最後で気付くというのは絶望的な気持ちになるだろう。
クズが絶望した姿を想像して、心の中で少しだけいい気味だと思ってしまったから、俺も性格が悪いのかもしれない……まぁ、そのクズの顔も何も知らないから本当にただの想像だけど。
見れば、他の皆も俺と似たような事を想像したらしく、微妙な表情をしていた。
「まったく、ロジーナの性格の悪さに皆巻き込まれているの。そのカスが苦しむのはいいけど、話しに飲み込まれ過ぎなの。気が付いたら、レッタのように扇動されるの」
ついにユノまで俺カス呼ばわり……俺は心の中でクズと呼ぶに留めているけど、ユノは口にまで出した、言いたい気持ちはわかる
そういえば、俺が隔離されていた時も、俺を絶望させて破壊へと傾けさせようとしていたっけ。
話している事は真実なのかもしれないけど、それを聞いて感じる事や思う事はある程度ロジーナに誘導されているのかもしれない。
本来は破壊神なんだから、それくらいやってもおかしくないからね。
「ちっ、余計な事を。大きく破壊は今はまだ人間の体に入っている以上、望んだら自分が危険だけど、少しでもそちらに傾けさせたかったのに……」
「ロジーナの考える事は、大体わかるの。そんな事させないの」
舌打ちをするロジーナ。
俺が考えた通り、話し方とかでこちらの思考を誘導しようとしていたのか……やっぱり、という気持ちと油断できない気持ちが湧く。
破壊神の時のような、世界全てをとまでは考えていないみたいだけど、思考を誘導する事で帝国とのあれこれに決着がついた後でも、似たような争いやちょっとした事で破壊に傾くように仕向けたかったのかもしれない。
一緒にユノがいて良かった。
これからは、初めてロジーナと話す人がいる時は、ユノも一緒にいてもらった方が良さそうだな――。
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